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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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聖域と騒動

 ソフィアはキャルンと訓練開始。予定では昼に宿場町を通過し、夕方には大きな町に到着する予定。だからそれまで指導を受ければいいと思っていたのだが――


「ああもう! 違うって! 何でそこで魔力を出すのよ! 閉じて制御するの!」

「わ、わかってますよ!」


 ソフィアは『バードソア』の魔法を四苦八苦して制御する。この調子だと大変そうだ。


 とはいえ、覚えるならキャルンのやり方がいい……リチャルという魔法使いが彼女に教えたやり方は、どうも魔法維持に必要な魔力をずいぶんと減らせるらしい。さらに制御も俺のやり方と比べ安定している。


 ソフィアは以前魔法の維持が大変だと言っていた。キャルンはソフィアより魔力があるわけもないが、それでもある程度の時間維持できる……ならばキャルンのやり方を覚えるのがベストなわけだが、ソフィアとしてはやったことのない魔法の扱い方みたいで、四苦八苦している。


「わわわ!」


 あ、また制御に失敗した。突然宙返りとなって背中から地面に叩きつけられる。障壁も張ってあるので怪我はないようだが――


「大丈夫?」


 手を差し出すキャルン。ソフィアは「どうも」と返答し手を取って立ち上がる。


「だ、大丈夫です。続きを」

「……わかった」


 キャルンは返答し、改めてソフィアに話し始める。


 彼女が教える手法ができないとなったら、最初のやり方に戻すなどすればいいだろう……そう考える間に、ソフィアが魔法を使用し制御に入る。その間にキャルンが近づいてくる。


「どうした?」

「この調子だと、時間が掛かると思う」

「……習得にはどのくらいかかりそうだ?」

「うーん、どうだろ。例えば私の場合、きちんと制御するには三日かかった……あ、暴走はするけど魔法自体は発動できているから、コツさえつかめればそこからは早いと思う」


 そのコツをつかむのが大変そうだけど……キャルンが三日か。となると――


「……ノームの住処に到達するまで、見てもらえないか?」

「いいよ」


 彼女は快諾。こちらが協力を願うばかりでなんだか申し訳なく思う。キャルン自身が俺達と同行するのは思う所があってのことなわけだが……ふむ、ソフィアの講習代ということで、宿代は出そうかな。

 そんなことを思っていると、ソフィアがまた失敗。反面、キャルンが解説しながら発動する魔法は安定感抜群で、俺もこのやり方にしようかと思うくらい。


 ……改めて、リチャルという人物がなぜキャルンに魔法を教えたのか気になった。何かの経緯で砦に立ち寄る可能性はあり得る。しかし、魔法を使ったことのない彼女にレアアイテムを使ってまで魔法を習得させた……どう考えてもおかしい。


 考えられるのは、俺と同じように転生した人物か……? しかしそれについても疑問が一点。話によると砦ではキャルンにだけ魔法を教えたらしい。もし俺のように転生した人間で、仲間キャラに魔法を教えているとしたら、テオルにも同じようにアイテムを使ってもおかしくない。だがそれはしていない……これは一体。


 ……事の核心は、リチャルという人物に会わないと無理だな。どこにいるかもわからないので、情報集めをしてもいいか。


 つくづく予定外の事が起こる……などと思ったが、現実世界となった以上当然と言える。まして俺は本来死ぬはずだったソフィアを助けたりもしている。何かしら変化があってもおかしくない。


 その時、俺はふと目線が左へ。街道の左――北側には森が広がっており、なおかつその奥に非常に高い山が。

 この山と森……ここにいる存在も、ゲームと少しずつ違ってきている現実世界に干渉してくるのか、などと思いつつソフィア達に口を開いた。


「ソフィア、キャルン。あの山だけど――」

「知ってるわよ。霊峰であるスラテッド山でしょ?」


 キャルンが言う。正解なので頷き、俺は雪が残る頭頂部を眺める。


 この大陸には精霊が数多くいるのだが、その中で特級に位置する能力を持つ精霊――神霊(じんれい)と呼ばれる存在が三体いる。火と風を司る不死鳥フェウス。水と闇を司る水王アズア。残る一体が目の前のスラテッド山と麓の森を根城とする、地と光を司る神狼ガルクである。


 この三体はゲームに絡んでこない。彼らは大陸を見守る者ということで人間達の戦いには不干渉を貫いている……確か、人間を滅ぼした後神霊に狙いを定めると、五大魔族の誰かがゲーム上で語っていた。直接的な言及はなかったが、もしかすると魔王達の最終目標が彼らなのかもしれない。


 なんとなく、戦ったら勝てるだろうかと考える。結界が無ければ魔王でも倒せる能力を俺は持っていると自負しているわけだが……大陸各地に侵攻してから、最終目標として狙う以上彼らは相当な力を持っているのだろう。となれば、彼らの実力は――


「確かあそこって、人が足を踏み入れることができないって話だったと思うけど」


 キャルンが言う。俺は小さく首肯し、ソフィアにも言い聞かせるように告げる。


「神狼ガルクが治める場所だからな……ガルクは精霊からしてみれば神に等しい存在……人間も恐れて侵入しないというわけだ」


 山が見えるということは、手前に存在する森も同じように不可侵の聖域のはずだが……街道が手前にあるということは、人間の活動領域が徐々に侵食しているということなのか。その辺りちょっと気になるが、調べるような暇もないので俺は気にしないことにした。


「ねえルオンさん」


 その時、キャルンが俺に声を掛ける。


「もうすぐ町でしょ? 昼までに制御法だけは一通り教えておきたいから、先に行ってもらえないかな?」

「先に?」

「美味しそうな料理を出す店とか見つけておいて欲しいなーなんて」


 ――二人は訓練で多少なりとも疲れているが……聖域近くということもあってか、魔族に関連した魔物もほとんどいない。出てきても疲労した二人で対応できるレベルの強さ。

 森の中に神霊に従う魔物はいるはずだが、中に入らなければ襲ってこないという話を過去聞いたことがあるので、二人だけにしても大丈夫か。


 俺はソフィアを見る。魔法を使用し続けて疲労があるようにも見えるのだが……これ以上やって旅に支障はでないだろうか。

 そんなことを思っているとソフィアは俺と目を合わせた。大丈夫です――眼差しがそう訴えかけていた。


 ……彼女もやる気のようだし、任せてみるか。


「わかった。怪我などには気を付けろよ」

「うん」


 というわけで俺は単身、町へと向かうこととなった。






 次の町に到着し、昼が来る。最初全員で昼食をとるつもりだったのだが、結局一人で食べ町の入口近くで待っていたのだが……来ない。

 嫌な予感がする……その時、ようやくキャルンが町へやってくる。しかし、ソフィアはいない。


 これは――俺は彼女に問い掛ける。


「どうした?」

「……大変なことになった」


 顔がものすごく深刻だ……言葉を待っていると、彼女は予想外の言葉を吐いた。


「最初の頃より制御ができるようになったから、町まで魔法を使って行くようにしたんだけど……その、途中で魔法が暴走して、聖域の森に……」

「は!?」


 思わず声を上げた。


「聖域って……つまり、ガルクが守る森に入ったのか!?」

「う、うん……途中暴走した上に風にあおられて空中に舞い上がって……そのまま聖域の森方向へ……」


 大惨事じゃないか……町まですぐということで俺も大丈夫だろうと高をくくってしまっていた。これは失態だ。

 使い魔などをつけているわけでもないため、探すとなると……思考する間にキャルンは続ける。


「最初森の近くで待っていたんだけど、しばらく経っても戻ってこなかった。たぶん魔法を暴走させず維持するのが精一杯で、方向とかまで上手く制御できなかったのかも。だからもしかすると森の奥深くまで……それに、森の中で魔力が尽きた可能性も……」


 ……これは相当厄介な話になったな。もしソフィアが動けない状態なら、レーフィンが単独で町に来て報告してもおかしくないが、今のところそれもない。ということは、森の中でまずい事になったのだろうか。


「状況は理解できた。探すよ」

「大丈夫?」

「どうにかするさ。弾き飛ばされた場所と方向について教えてくれ。それとソフィアが無事にこの町に来る可能性もあるから、キャルンはここでしばらく待機。もし来たら、彼女と契約するレーフィンに俺を呼び戻すよう伝えてくれ。精霊の彼女なら俺のことを探し出せるはずだから」

「わかった」


 ――ソフィアが持っている剣とか、アーティファクトとか、その辺りの魔力を追って調べられたらいいんだが、魔力を詳しく解析していないので無理だ……地道に探すしかない。

 森に入って魔力が尽き迷ったとしたら、それはまさしく遭難である。魔物の存在もある。奥深くまで行ったなら急がないといけないが、果たして見つけられるのか。


 俺は考えつつポケットに手を突っ込み、数枚の銀貨を取り出しキャルンへ渡す。


「夕方までにここに来なかったら、これで宿をとって待っていてくれ」

「わかった。気を付けて」

「ああ」


 頷いたと同時に魔法を起動し、街道を逆走する。

 不安はあったけど、こんな事態になるとは想像もできなかった……思いつつ、聖域へ向かうべく俺は進んだ。


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