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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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物語の世界

 俺と同じようにリチャルも魔力を計測し……その結果を見ても俺にはわからなかったが、レドが結論を述べた。


「ルオンさんと同様の魔力要素が高いですね」

「その値はルオンさんと比較してどうだ?」

「低いですよ」


 ……彼自身、魔王との戦いで何度もやり直していることを考えると、俺と同じように数奇な運命を辿ったという根拠にはなるし、値が高いのも頷ける。ただこの場合小さい頃までに魔力要素が変化するという条件には当てはまらないと思うので、後天的に増えたと考えていいのだろうか?


 そしてその場合……リチャルが何を言いたいのか俺にはわかった。


「で、魔物に対し通用しにくいというのは何か理由が?」


 俺が問い掛けると、レドは口元に手を当て、


「これだけで結論を導き出すのはなんとも……この魔力要素では、ルオンさんにとって一番高い値の部分が足を引っ張っている、という感じでしょうか。とはいえそこだけが突出して高いだけで、他の要素が悪いわけではないので、どうすべきか即答えるのは難しいですね」


 研究者であるレドであっても悩ましい状況みたいだな。


「レドさん、魔物の巣についてだが」


 と、今度はリチャルが質問。


「ああまで瘴気や魔力が多いのは、地底からそうしたものが湧き上がっているから、と考えていいのか?」

「その認識で合っていますよ」

「湧き上がる魔力について調査は?」

「しています。ただ濃度はあるにしても、取り立てて特徴があるわけではないんですよ」


 レドはそう答えたが、リチャルは納得していない様子。ただこれ以上彼に尋ねても答えが出ないと悟ったのか彼も引き下がった。


「えっと、ひとまずルオンさんの魔力については調査しましたが……対応を検討となると、難しいところですね」


 口元に手を当て考え始めるレド。うん、解明できていない要素なのだからその結論は至極当然。

 こうなると……どういう風に動くべきなのか。


「一応、今回得た結論により、道具などを生成することはできます」


 と、レドは語る。


「ルオンさんの魔力に合わせ、巣に存在する魔力と上手く調整すれば……」


 ――そうは言うものの、レド自身も厳しい表情。俺の能力が上位の魔物を倒せるレベルであることを認識している以上、俺の魔力量に耐えられる相応の物を作成しないといけないわけだが……顔つきからは難しいと暗に語っている。


「道具については、少し考えさせてください」


 俺はレドの言葉を静止するように告げる。


「えっと、少しリチャルと話し合いたいので、この辺で一度解散ということでも構いませんか?」

「いいですよ。私はこの研究室にいますから、何かあればここに来てください。守衛の人間などには話を通しておきます」


 というわけで、俺達はレドを残し研究室を出た。






 場所は移って飲食店。俺とリチャルは向かい合い、パンをかじりながら話を始める。


「……まず、俺についても値が高いという事実から、おそらく地底の奥底に眠る存在が関わっていると解釈するべきだろう」


 つまりそれは、ネフメイザなども利用していた『彼』に関することって意味なのか。


「俺は時を何度も巻き戻していたため、後天的に値が高くなったと推測できる。ルオンさんよりも低かったのは、後天的な作用で先天的な人間には勝てない、ということだな」

「……でもさ、それはあくまで状況証拠で、確定ではないよな?」

「まあな。ただ、確度は高いと俺は思う」


 時を巻き戻す魔法を行使していた彼だ。何かしら思うところはあったと考えるべきか。


「まあわかった……えっと、仮にリチャルの解釈通りだとしよう。そうなると、俺は先天的にそういう力を持っている……つまりあの神とでも言うべき存在と元々関わりがあったと?」

『――そこで出てくるのが、ルオン殿が転生した事実、というわけだな』


 テーブルの上にガルクが出現する。


「ガルク、あの研究室で調査中、一言も発しなかったな」

『推測はしていたが、調べ終わるまでは待とうと思ってな。それに、研究者がいる場所では我の存在は話がこじれると思ったのだ』

「ああ、確かに。調べようとしたかもしれないし……」

『うむ。話を戻そう。ルオン殿が転生したという事実は、レド殿の言う劇的な人生の要素と言えるだろう?』

「もしかすると、神とやらが何かしら介入している可能性だってある」


 ……えっと、だな。


「あのさ、リチャルとガルクの話す通りだとすると、だ」

「ああ」

『うむ』

「俺はこの世界に……『彼』に連れてこられたということにならないか?」

「俺はそうなんじゃないかと勝手に推測している」

『我も同感だ』


 いやいや、さすがにそれは……と思ったが、正直俺は『彼』のことをゲーム知識程度にしか知らないのは事実。それはないと言い切ることもできない。


『ルオン殿の前世で、この世界は物語として存在していた』


 ガルクが俺を見据え続ける。


『ルオン殿としては、物語の世界に飛び込んだ……そういう見解だと思うが、ここに神が関わっていたとしたら……』

「魔力の質だけでそう推測するのは、いささか飛躍しすぎじゃないか?」


 反論してみたが、リチャルもガルクも真面目顔。そうは思っていない様子……まさかここに来て前世まで絡んでくる可能性が出てくるとは。


「ただ、疑問もある」


 次に声を発したのはリチャル。


「なぜルオンさんをこの世界に呼んだのか……ここに意味があるのか、それとも単なるきまぐれなのか。なおかつなぜルオンさんの前世でこの世界が物語として存在していたのか……」


 ――仮に『彼』がやったのだとしたら、なぜ俺を、そしてなぜルオンに転生させたのか、という疑問は残る。でもまあ、それは直接聞き出さない限りはわからないままか。


「……二人の推測については、いいとしよう」


 俺は水を一口飲んだ後、告げる。


「そう推測したとして……俺が『彼』の魔力要素を持っているから攻撃が効きにくいと断定するのも首を傾げる。以前ネフメイザとの戦いで何度か『彼』と遭遇し戦ったが、普通に攻撃が通用していたみたいだから」

「神に攻撃が通用しないと考えるなら、前の戦いで同じことが起きていなければおかしい、というわけだな」

「ああ、そうだ」


 リチャルの言葉に俺は頷いた。


「だからといってリチャル達の主張を否定する気はないんだけど……どちらにせよ、まだ情報が少ないな。けど、調べてわかるようなことなのか?」

『可能性としては、やはり天使だろうな』


 ここでガルクが口を挟む。


『堕天使という存在が神の力を得ていた事実から考えれば、少なくとも彼らは地底に眠る存在を知っていた可能性が高い……それに、もう一つ根拠がある』

「天使の遺跡、か」

『うむ。我らの大陸で天使の遺跡が地底にあったという事実。神について調べていたのは間違いなく、だからこそ何かしら調査が進んでいるかもしれん』


 やっぱり鍵は天使か。堕天使の分身――アンヴェレートと遭遇したこともあるし、あっちから干渉してくる可能性もある。これはひとまず待っているのが正解だな。


「で、ここが重要だけど、俺の攻撃面の問題についてはどうしようか? すぐに解決できそうな雰囲気ではないけど」

『そちらについては少々考えなければならんだろう。ただこれは我らだけでやるのではなく、天使も交えた方がよいかもしれんな』


 まあ確かに……というわけで、


「了解。とりあえずソフィア達のいる町まで戻ろう」


 そう言ってから、食事を終え……俺達は店を出た。レドへ一度挨拶に行こう……そう思い町を歩いていると、


「……ん?」


 町の中央付近、宴の連絡所と掲示板がある場所に到達し――


「……あ」


 立ち止まった。リチャルも気付いたか、動きを止める。

 視線の先、掲示板の前……そこに、見覚えのある人物を発見した。


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