魔力調査
翌日、朝食をとっていると、俺達の宿を聞きつけてアルト達がやってきた。
「よお、ロナの身内が朝のうちにも来るって話だから、連絡しにきたぞ」
「え、本当か? 場所はどうするんだ?」
「その人の所に行くか、あるいは酒場で喋るかって話だが」
「さすがにお邪魔するのも悪いだろうし、今日は酒場で話をするかな」
「で、俺達も付き合っていいか?」
「……どうしてだ?」
訊くと、アルトは「ははは」と笑った。
「いや、ロナから聞いたけど、魔物の巣なんかの研究をしている人なんだろ? 俺もちょっと興味が湧いて」
「内容がどういうものかわからないけど、たぶん専門的な話になるぞ?」
「それでいいさ。もしかしたら魔物に攻撃が効きやすくなるとか、そういう話が出てくるかなー、と」
その言葉を聞いて、俺は彼に質問する。
「アルト、魔物の巣の中で剣の威力が落ちたとか、そういう実感はあったか?」
「威力が? まああんだけ魔力がある場所だから少しは影響あるかもしれないが、俺は自覚無しだな。キャルンはどうだ?」
「私もないね。イグノスは?」
「同じく」
……ってことは、やっぱり俺だけ?
「それじゃあ何で攻撃が効きやすくとか考えたんだ?」
「魔力が多量に存在しているから、それを利用することができないかなと」
ああ、なるほどな。
「そっちは影響あるのか?」
「ソフィアとロミルダは何も変わらないんだが、俺だけ異様に威力が下がっているんだ」
「へえ、そうなのか……って、その状況下ですげえ強い敵を倒したんだろ? 逆にすごいだろ」
「そういう考え方もできるけど、俺としては是正したいんだよ」
「だからロナにそういうことを調べる人を、って頼んだのか?」
「ああ。巣と俺の魔力の相性的な問題だとしても、まずは巣の方を調べないと」
アルトは「確かに」と同意し……朝食後、俺達は全員で酒場へ向かう。
「ああ、そういえば」
と、ふいにキャルンが口を開く。
「戻ってきて気付いたんだけど、ルオン達のこと噂になってるね」
「俺達が? まあ巨大な魔物を倒したからな」
「名前も噂に上がっているみたいだし、このままいったらすごいことになりそうだよね」
……それがどういうものかは想像しないでおこう。
やがて到達した酒場に入ると、ロナを発見。その隣には、
「あ、どうも。初めまして」
腰の低そうな、眼鏡を掛けた男性が一人。白を基調とした衣服で、清潔感はあるけどロナと同様やっぱりどこか地味な印象。
年齢は、三十前後くらいかな? こちらの視線に萎縮したか、彼は乾いた笑みを見せた。
「えっと、名前はレド=ブラインといいます。ロナの叔父です」
「初めまして。ルオン=マディンと申します。今回お越しいただいてありがとうございます」
続いてソフィア達も自己紹介。その後俺達は店内の奥で大人数座れる場所に移動する。
「それで、私に聞きたいこととは?」
「はい。その前に確認ですが、魔力の研究者でいいんでしょうか?」
「ええ、そうですね。末端ですが、魔物のすみかについて、国から要請を受け調べております」
お、これは期待できるかもしれないな。
「わかりました。で、こうして話をしたのには理由がありまして、魔物と交戦する際、俺の魔法や技が通用しにくくなっているんです」
「ルオンさん自身の?」
「はい。仲間のソフィア達に影響はありません。アルト達も自覚無しとのことなので、わかる限りでは俺だけ……こういうケースは、稀なんですか?」
問い掛けにレドは口元に手を当てた。なんだか嫌な予感がする。
「……魔物のすみかは多量に魔力が存在している場所です。何かしら弊害があって踏み込んだ人物に影響をもたらす可能性は十分あります」
「では――」
「しかし、あなたのように通用しにくくなる、というのは奇妙ですね。弊害といって想定されるのは、魔力を受けた当事者が体調を崩すなど、どちらかというと本人に変調が起きますので」
「そうなると、敵に攻撃が通用しにくくなるというのは……?」
「一度、調べてみないと確定的なことは言えませんが……魔力の相性に不都合があるということでしょうか?」
首を傾げるレド。俺自身の魔力を調べないと結論は出ないか。
ただこれ、普通の人に実感がないとすると、当然俺だけの問題……ってことは、対策撃つのも一苦労なのでは? 汎用的な技術では無理で、俺に合わせて色々対策しないといけないわけだから。
「簡易的に調べる方法はありますが」
そう言いながら彼は懐を探り、水晶球のような物を取り出した。
「それを軽く握って、魔力を込めてください。色で質的なものがわかりますから」
「あ、はい」
水晶を受け取り、魔力を込める……そういえば、俺自身魔力の検証とかあまりやったことないんだよな。
小さい頃から強くなるために色々やっているわけだが、ゲーム知識を利用して強くなったので魔力解析など専門的なことをやってこなかった。この辺りで俺自身のことを振り返ってみるのもいいかもしれない――
そう思いながら少しすると、水晶がわずかに熱を持った。開けてみると、赤色に光っている。
「こうなりましたけど」
差し出すと……レドは眉をひそめた。ん、何かまずいのか?
「……赤?」
「みたいですね」
「特殊なんですか?」
ソフィアの問い掛けに、レドはしばし沈黙し……やがて、
「……赤というのは、この水晶に収められている魔力の質の範疇外ということになりますね」
「……へ?」
ということは、解析不能?
「ルオンさんは魔力が多いからじゃないか?」
と、アルトが言及。しかしレドは首を左右に振った。
「量は関係ないですよ。話によるとルオンさんは上位の魔物を倒せる実力をお持ちのようですが……この水晶がその量によって解析できない、ということにはなりません」
「あー、そうなると精霊なんかを宿しているか、でしょうか?」
レスベイルのことを頭に浮かべながら俺は話す。
「俺本来の力とは別のものを、体内に宿しているんですが」
「……先ほど自発的にルオンさんは魔力を発しましたよね? この場合、ルオンさん自身の魔力が浮き上がるはずで、そうした力が混入するとは考えにくいです」
うーん、聞けば聞くほど雲行きが怪しくなってくる。
「そうですね、一度私が使っている研究室へ向かいませんか?」
「研究室?」
「ここから北にあるマーシェスタという町に、私が研究を行っている施設があるんです。そこでもう少し調べれば、解明できるかもしれません」
そうだな……ソフィアを見る。彼女は速やかに頷き、
「私やロミルダがどうしましょうか?」
「あー、解析だけなら俺だけでもいいだろうし……」
「俺も少し興味があるから、同行させてもらおう」
リチャルが続く。なら――
「ソフィアとロミルダはこの町で待機していてくれ。あ、もちろんその間に魔物を狩っていてもいいぞ」
「確認だが、魔物と戦うにしても昨日と同じ場所だよな?」
と、アルトが尋ねてくる。
「ああ、そうだけど……」
「あの森なら結構出入りしているから、俺達で色々案内できるぞ」
「なら、私とロミルダはアルトさん達としばし動くということで」
「そうだな。アルト達、頼んだ」
「任せろ」
「よろしく」
キャルンが軽快な声を上げる。で、俺はレドへ向き直り、
「というわけで、俺とリチャルが一緒に行きます」
「わかりました。いつ向かいますか? 私は今すぐでも問題ありませんが……」
「なら、今からで」
「わかりました」
レドは頷き――今後の方針が決定した。




