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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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洞窟に潜む敵

 当該の場所は開けた空間なのだが、戦場になっているためかずいぶんと壁や地面が破壊されていた。

 そして俺達の目の前に出現したのは竜……巨獣ほどの大きさはないが、それでも竜の中でも大きく、明かりでわかる範囲では赤い皮膚や鱗を持っている。


 で、その竜は何やら俺達とは異なる別の明かりに向かって炎を吐いている……アルト達か?


「退いていきますね」


 ソフィアが言うと、竜と戦う明かりの主が引き下がっていくのがわかる。


「あそこまで行こう……けど、竜に警戒されるか」


 俺達も明かりがあるからな。かといって消して移動できるような状況でもない。

 どうすべきかと一瞬悩んだ時、竜の首がこちらを向いた。新たな侵入者に気付いたか。


 ――ゴアアアアアア!


 腹に響くような鳴き声だった。すると竜と戦っていた明かりが一気に後方へ退いていく。

 俺達は無視……というより、こんな魔物と相対する以上、即座に逃げるだろうと推測したかな。


「アルトさん達、でしょうか?」


 ソフィアが疑問を呈するが……近づいてみないとわからないな。


「よし、合流するぞ」

「あの竜はどうしますか?」

「ソフィアとロミルダも魔法の準備をしておくこと。俺は敵の攻撃が来たら防げるようにしておく」


 というわけで移動開始。すると竜も反応して、翼を大きく広げた。

 威嚇しているみたいだが――あいにく俺達には通用しない。


『来るぞ』


 ガルクが言う。直後、その巨体が大きく跳ね、こちらへ向かってくる――!

 同時に口を大きく開けた。ブレスで一掃するようだが、こちらは極めて冷静だった。


 まず俺が魔力障壁を前方に展開する。こちらと竜の間に半透明の壁が出現し――竜のブレスが到来。炎が障壁の向こう側で荒れ狂う。跳ね返った炎は全て竜に降り注いだが……当然、ダメージはなし。

 すると竜は、何を思ったか突撃を行い――障壁に激突する。勢いがあることに加え、俺の魔力の要因もあるから壊れる可能性も考慮していたが……竜は突破できず、跳ね返される。


「おし!」


 障壁を解除。同時、ソフィアとロミルダの攻撃が炸裂――まずソフィアの雷属性上級魔法『ディバインロード』が竜に突き刺さったかと思うと、ロミルダの紫色の光が多数竜を襲った。

 轟音が室内を満たす。光により洞窟内が満遍なく白に染まり、竜の体さえ見えなくなる。


 気配を探れば吹き飛んだことがわかったため、俺はソフィア達と共に移動を再開する。直後、ズドンという重い音と振動。竜が壁に激突したらしい。

 やがて光が収まると、俺達は竜の猛攻に退却した光を発見。そちらに駆け寄ると、


「……無茶なやつがいたなと思ったが」


 と、先頭にいる男性――アルトが呟いた。


「ルオンさんかよ……まさかこんなところで会うとは」

「仲間のロナさんが心配して、俺達に依頼したんだよ」


 俺が答えると、アルトは――眉をひそめた。


「仲間、はわかるんだが、何でルオンさんに? 面識があったのか?」

「掲示板に名前が載ったからな。それで人伝いに話を聞いて頼ってきたんだ」

「ああ、そういうことか」


 納得の表情。その後方ではキャルンが手を振り、イグノスが小さく会釈した。


「えっと、どうするんだ?」

「……ルオンさん達がどうにかしてくれたから、これで逃げられるな。引き上げよう」


 アルトが宣言。俺は頷き、ひとまず彼らと共に洞窟を脱出した。






「……で、竜を発見したんだが」


 場所は打って変わり森の中。キャルンとイグノスは安堵したか座り込み、ロミルダの相手をしている。

 そして俺とソフィアはアルトからこうなった経緯を聞くことに。洞窟に入り、あの竜を見つけたところまでは良かったらしいのだが――


「ちょっと戦ってみて、俺達でどうにかできそうな雰囲気ではなかったからな。逃げようとしたんだが、見事退路を塞がれた。で、仕方なく竜が追って来れない小さな道に逃げ込んで、さああどうしようかと色々やっていたんだ」

「あの竜がどこかに引き上げるのを待たなかったのか?」

「もちろんやったって。けど、俺達のことが気になるのかあの竜はどこまでもあの洞窟内をうろついたんだ」


 そこでアルトは深いため息。


「幸い、通路の奥には魔物もいなかった上に地底湖に繋がっていて、食料なんかも持っていたからどうにかしのげたんだが……」

「瘴気は問題なかったのか? 濃かったから体調とかに変化は……」

「瘴気を弾く聖水もあったからな。で、イグノスが魔法で竜をどうにかする間に逃げようとして、さっき失敗したところにルオンさん達がやってきた」

「危なかったみたいだな」

「まあな。あのまま人が来なかったらと思うとぞっとする」


 肩をすくめるアルト。表情からはあんまりそういう雰囲気はないけど。


「というかこの子、すごかったね」


 と、ふいにキャルンが告げる。見れば、彼女を後ろから抱きすくめ、頭をくしゃくしゃと撫でてる姿。当のロミルダは困惑顔。


「あの紫色の矢、この子の攻撃でしょ?」

「ああ、まあな……というかキャルン、ロミルダで遊ぶのはやめなよ」

「別に嫌がってないからいいじゃない。ねっ、ロミルダちゃん?」

「う、うん……」


 言わせているだけだろ、それ。ツッコミを入れようかと思ったが、先にアルトが口を開いた。


「この洞窟、宴の参加者の間で色々噂になっていたから、興味本位で調べたが……外れだったな」

「噂?」

「ああ。全然下級の魔物が存在せず、いるのは上位に位置する魔物だけ……実際そのとおりだったが、俺達がどうにかできる相手じゃあなかったぜ」


 アルトはまたもため息をつく。


「武勲稼ぎできなかったな……ま、いいや。で、ルオンさんはこれからどうするんだ?」

「アルト達は?」

「俺達はこのまま戻るよ。ああ、森まで来れば俺達に敵はいないから、心配はしないでくれ」


 ……アルトは魔王との戦いで、奮戦していた。あの魔物は強かったけど、森の中なら楽勝か。


「わかった……俺達はもう一度洞窟に入るよ」

「あの竜を相手にするってことか……あ、ただ一つ気になることが」

「気になる?」

「何度か逃げようとしている時に気付いたんだが、あの竜ずいぶんと知性がありそうだ」

「知性……?」

「逃げようとすると、すかさずそれを妨害するんだよ……あの魔物がやっているんだとしたら、俺達の動きをきちんと見極めていたことになる」


 ……ふむ、確かに気になるところだな。


「あるいは、あの魔物を何者かが操っていたか」


 と、これはイグノスの言葉だ。


「あの竜がいた場所からさらに奥……そこからさらなる瘴気があるのがわかりましたから、もしかすると竜を瘴気を通して制御していた、という可能性もあるのでは」

「にわかに信じられない話だけどね」


 ロミルダを解放しながら、キャルンが続く。


「あんな魔物をきちんと操るなんて真似、他の魔物ができそうにないし」

「あるいは魔族が糸を引いているか……だな」


 アルトの推測。その方がしっくりくるけど……魔族か。

 ただここは天使のいる大陸。ゲームでも魔族自体出てこなかったし、違和感があるな。


「……情報ありがとう。その辺りも余裕があったら調べることにするよ」

「そっか。そういえばルオンさんは、どういう経緯でこの大陸に? 宴で一番になるのか?」

「宴には参加しているけど、その頂点を目指すというわけではないよ……俺達は、理由があって天使に会いたいんだ」

「天使様に、か」


 興味ありげなアルトの表情……しかし、彼は皆まで訊くことはなかった。


「それとルオンさん、町で宿はとっているのか?」

「リチャルが町にいる」

「あの人も一緒か……わかった。彼の所に顔を出してもいいか?」

「構わないよ」

「よし、なら町で待ってるぜ。後でゆっくり話をしようじゃないか」


 そうしてアルト達は立ち去った……ふむ、俺達の旅について聞きたいみたいだな。ま、どうするかは帰ってから考えよう。


「ルオン様、入りますか?」


 ソフィアが訊く。俺の目の前には相変わらず暗闇を覗かせる洞窟。


「ソフィア、ロミルダ、体調は?」

「問題ありません」

「私も平気」

「なら――」


 俺は洞窟を見据え、告げる。


「あの竜……そしてイグノスが言っていたことの、解明といこう」


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