表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路
39/1082

予想外の展開

 宿場町で一泊した翌日、俺は朝食をとるべく宿内にある食堂へ。ここの宿はそれなりに料理が美味く、ちょっとばかり楽しみにしながら赴いたのだが――


「おはよう」


 軽快な挨拶と共に手を上げるキャルンの姿を見て、目が点になった。


「……どうした?」

「おはよう」


 挨拶を催促する彼女。話が進まないと思った俺は内心ため息をつきつつ返答。


「おはよう……どうしたんだ?」

「いや、ちょっと話したいと思って」

「話したいって、そのためにわざわざ砦から来たのか?」

「昨日の時点で町まで来ていたわよ」


 もしかして、俺達の後を追ってきたのか? だとすると彼女の目的は一体……?


「まあまあ、座って」


 急かす彼女。俺は歎息しつつ彼女と同じテーブル席に座る。


「今、ルオンさん達は魔族を倒す旅をしているのよね?」


 本題に入る。俺が「そうだ」と答えると、キャルンはこちらに頼み込むように言った。


「お願い、少しの間同行させて」


 ……はい?


 ちょっと呆然となった。


 ゲームではこうして仲間にして欲しいと懇願してくるケースもあったが、キャルンについてはまったくない……昨日サブイベントの検証を行い、ゲームのシナリオ通りに事が進むという結論に至ったわけだが、翌日になって予想外のことが起こったことになる。


「ちょっと待てよ。何で同行させてくれ、なんて言うんだ?」

「ルオンさんとソフィアさんは、これからノームの住処に行くんだよね?」

「え? ああ、まあそうだな」

「それに同行させて欲しいの」

「……精霊と契約したいのか?」

「うん。一人で行くのは心細い」

「……キャルンさんって魔法が使えるのか?」


 ゲームでは一個も覚えていなかったはずなんだが……ここでキャルンは意外にも頷いた。


「少し前、魔法使いがテオルさんの所にやって来た。その時私はそこそこ筋がいいということで、いくつか魔法を教えてもらったんだよ」


 ……ゲームにおけるキャルンが何も魔法を覚えていなかったことを考えると、これは明らかにゲームの時とは異なる部分だ。


「ちなみに魔法って?」

「えっと、『ストーンブラスト』と『フレイムニードル』……あと『バードソア』と『プロテクション』の四つ」


 ……『ストーンブラスト』は土系の下級攻撃魔法。そして『プロテクション』は無属性の下級魔法で防御力を上昇させる。習得した中で驚いたのは『バードソア』と『プロテクション』を習得していることだろうか。


「その四つを、魔法使いに教えてもらったのか?」

「うん。いくらか解説してもらって、それから水晶球のようなものに触れて……」


 ――下級魔法限定ではあるが、特定のアイテムを使えば該当の魔法を習得できるアイテムが存在する。ゲームではレアアイテム扱いで、アカデミアを訪れなければ手に入らない物だった。よって、俺も持っていない。

 そうしたアイテムを惜しげもなく彼女に使用する……これ自体が不可解。


「ちなみに、その魔法使いって誰?」

「リチャルという男の人。見た目、二十代後半くらい」


 ……知らない名前だな。少なくともゲームで出てきたことはない。まあ仲間キャラに魔法習得のアイテムを使うくらいなので、こちらの実害はないと思うけど……そういう人物がいるということは、記憶に留めておこう。


 それから程なくしてソフィアも登場。キャルンのことを見て驚き、ノームの所まで同行したいと説明すると、ソフィアは俺の方を見た。


「……キャルンさん、ソフィアと相談していいか?」

「どうぞ」


 席を立ち、俺とソフィアは会話を開始。まず一番疑問に思ったのは――


「ソフィア、昨日言っていた予感って、これのことか?」

「いえ、違います……さすがにこういう展開を予想していたわけでは……」


 彼女は困った顔。とはいえキャルンのことが気にはなるらしく、俺へ提案した。


「ノームの住処までということですし、同行を許可してもいいのでは? 私としても彼女の行動について気になりますし……」

「俺もいいけど……一時的な同行だから、ソフィアの素性に関する説明とかはしなくていいよな?」

「いいと思います。こちらから話し出さない限り露見するようなこともないと思いますし……レーフィンについては話しますか?」

「さすがにシルフの女王と契約しているとなると、何かあると思われるんじゃないか? とりあえず追及されない限りは放置でいいだろう」

「わかりました。それでいきましょうか」


 決定したので俺達はキャルンの所へ。


「どう?」

「……俺達は構わない。ちなみにだが――」

「自分の旅費は自分で出すからご心配なく」


 キャルンが言う。俺は「わかった」と答えつつ、さらに質問を行った。


「ノームの住処まで行くのはいいんだけど……なぜこのタイミングで?」

「精霊と契約を行おうと思っていたけど、旅をするのも大変だと思ってしていなかった。ルオンさん達がきっかけになった、とでもいえばいいかな」

「きっかけ、ね。」

「うん、それと――」


 キャルンは言いつつ俺に目を向ける。


「ルオンさん達と行動することで、強くなれるヒントが得られるような気がして」


 ……ソフィアが俺を師事しようとした理由と似たようなことを言っている。例えば遺跡で関わったギルバートは俺に引き寄せられるというようなことを言っていた……キャルンは昨日の戦いで俺達のことを結構観察していた。それをきっかけとして同行したいと思った――そんな感じだろうか。


 俺のステータスが決断に影響している可能性はあるだろうな。今後イベントに関わる際、その辺りも考慮していく必要があると改めて思った。


 頭の中で結論を出しつつ、キャルンにもう一度承諾の意を伝える。


「……とりあえず、同行はいいよ。よろしく」

「うん、よろしく」


 ――というわけで、一時的ではあったがキャルンが仲間に加わった。






 朝食を終え、俺達は宿を出るとノームの住処へと進み出す。距離的にはここからおよそ三日くらいでさしたる障害もない。予定通り到着できるだろう。


 使い魔からもたらされる主人公達の情報によれば、まだ五大魔族に挑むような状況には至っていない。当面問題ないだろうと思いつつ、ソフィアの修行を開始する。


 始まって間もなく、キャルンは俺達に声を上げる。


「ちなみに私も使えるけど」

「朝言っていたな……けど、俺達がやっているのは普通と使い方が違うんだが」

「便利だと言われ、応用方法もリチャルさんに教わったけど」


 その人、何者だろう……興味を抱きつつ、彼女に一つ提案する。


「見せてもらってもいいか?」

「いいよ」


 承諾すると彼女は詠唱を始め――


「見ていなさい……飛べ!」


 言うと同時に彼女は魔法を発動。すると彼女の体がふわりと浮くと、凄まじい速度で街道を爆走する。


「おおっ……!?」


 その制御は中々のもので、こっちが逆に驚かされた。

 さらにソフィアも驚きその光景を凝視。やがて戻ってきた彼女は俺達に対してどんなもんだとドヤ顔を見せる。


「上手いでしょ? 結構練習したし、上手いやり方をリチャルさんから教えてもらったからね」

「へえ、そうなのか」

 そういうことなら……俺はソフィアに視線を移し、

「ソフィア。俺だと上手く教えられないから、ちょっとキャルンさんから教わったらどうだ?」

「え、キャルンさんに?」

「私はいいよ」


 承諾するキャルン。しばしソフィアは沈黙していたが……少しして、先ほどキャルンが見せた制御を考慮してか、彼女へ体を向け声を上げた。


「よ、よろしくお願いします」

「よーし! それならまず――」


 彼女の解説が話まる。そこで俺は、なぜか一抹の不安を抱いたのだが……ひとまず彼女達を見守ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ