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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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武勲獲得

 作戦は皆まで言わずともわかっていた。俺が巨獣の動きを縫い止め、ソフィアが『スピリットワールド』を用いて敵を打ち砕く。

 巨獣が自身の前足を振る。大きさ的に俺やソフィアを丸ごと踏みつぶせるくらいなのだが……俺達は綺麗に左右に分かれ回避する。


 ここで巨獣の動きが鈍った。明らかにどちらを狙うか躊躇している……そこを見計らい、右へ逃れた俺は攻勢に出た。

 頭部を狙い剣を放つ。その一撃で倒せるわけではないが、衝撃を防ぐことはできない。


 ダメージと共にのけぞる巨獣。振り上げようとした足の動きも止まり――隙ができた。

 そこへソフィアが滑り込む。手には魔力を集中させた剣。これなら――


「ふっ!」


 わずかな声と同時、彼女の剣が振り抜かれた。刹那、切っ先が巨獣の顔面に触れ――爆発した。

 魔力が一挙に刀身から発せられ、巨獣の体を一気に包んでいく。さらに衝撃波は巨獣を平然と超え、渓谷を一時彼女の魔力が蹂躙した。


 濃密に存在する渓谷の魔力を一瞬忘れるような凄まじい力……魔王と人造竜といった強大な存在に立ち向かい続けた彼女の実力が、この渓谷でも示された形だ。

 巨獣が魔力の渦の中で悲鳴を上げる。明らかに俺の剣とは異なり相当なダメージを受けている。これなら――


 魔力が途切れた。俺とソフィアは同時に後退し、巨獣の行方を見守る。相当なダメージを受けたのは間違いなく、巨獣は呻き動きが完全に止まっていた。


「一撃とはいきませんか」

『この場合、耐久力というよりはやはり、渓谷内に存在する魔力を上手く盾にしているな』


 ガルクが俺の右肩に出現し、ソフィアへと語った。


『どうやらこうした渓谷のような……魔力が充満する空間において、魔物の能力が高くなるらしい……しかし、ルオン殿達の攻撃をここまで耐えるとは、凄まじいな』

「あの魔物の耐久力は、魔王以上と解釈していいのか?」

『渓谷に存在する魔力が大いに働いていると考えるべきだろう。魔物だけの耐久力では、おそらくルオン殿の魔法だけで沈んでいたはずだ。もっとも、ルオン殿の攻撃については特別効きづらいというのは、疑問ではあるが』


 なるほど、この渓谷……というより魔物の巣があるからこその能力というわけか。これは思った以上に大変そうだ。

 ただそう考えると、こうした強大な力を持つ魔物を倒したという武勲獲得で一位になっている人物は、どれほどの力を持っているのか……あるいは、こうした耐久性を無視できる何かを所持しているのか?


 どのみち、こうして魔物を倒していけば必然的に出会うことになるだろう……どこかで出会い、話をしてみたいところだな。

 考える間に巨獣が動き出す。とはいえ元々緩慢だった動作がさらに鈍くなっているので、俺達としても対応は容易。


「どうしますか?」


 ソフィアが問う。このままトドメを――そう言おうとした矢先、紫色の矢が降り注いだ。

 動きが止まったため、ロミルダが追撃を行ったようだ――すると雨を受けた巨獣は雄叫びを上げ、その体が崩壊していく。


「このまま決めるか」

「はい!」


 俺とソフィアは魔法を発動させる。光と雷が巨獣へ降り注がれ――とうとう消滅し始めた。


 撃破完了……なわけだが、この場合武勲はどういう形で分配されるのだろうか? 疑問に思っていると、上の方から歓声が聞こえてきた。


「ふむ、避難していた戦士達が戻ってきたのかな?」

「上にいる魔物を掃討し、観察していたのでしょう」


 ソフィアは冷静に語ると、小さく息をついた。


「ルオン様、先ほど攻撃が効きにくいとおっしゃっていましたが」

「ああ。ソフィアやロミルダの攻撃は通用していたから、何が原因なのか調べないといけないかな。俺の方に原因があるのか、それともソフィアやロミルダの方が逆に特別なのか……」

「もしルオン様が原因だとしたら、何でしょうか?」

「わからないな……俺としてはソフィア達が特別なんじゃないかと推測しているんだが……とはいえ、あんな魔物を相手にするようなことだって国側もないだろうから、調べられるのかどうかもわからない」


 ともあれ、調査は必要だ。ガルクの言うとおり渓谷の環境がそうさせているのだとしたら、今後の戦いにも影響がある。重要な部分だな。

 で、俺達は魔法で森へと上がりロミルダと合流する――


「おい! お前何者だよ!?」


 周囲にいる戦士達が口々に叫んだ。そりゃあ巨獣をKOしてしまった以上、こうなってしまうのは至極当然の話。

 まあ別に目立っても問題ない状況だから、いいか……いや、今後名が売れていくせいで弊害も出るのかな? そうなったら面倒だけど、掲示板に今後載るためには避けて通れないか。


「あー、ソフィア。ロミルダを連れて先に戻っていてくれないか?」

「森を出るということですか?」

「ああ。戦果も十分だし、今日は町に帰ろう。戦士達の対応は俺がしておくよ」

「わかりました」


 同意した彼女はロミルダと共にそそくさと立ち去る。その間も質問攻めの俺は、思わず苦笑した。






 戦士達と色々話し込む間に、元々巨獣に攻撃していた魔法使い達はいつのまにか姿を消していた。で、その辺りの情報をさらに探ると、どうやら彼らはこの魔物の巣に宴が始まる前から出入りしていたらしい。


「武具の開発で、色々とな……で、あんたが倒した魔物にも何度かちょっかいをかけていたらしい」


 ふむ、狙っても動じないから実験対象として扱っていたのかな? 俺がそれを倒してしまったが……どこかで出会ったら文句がきそうだな。

 で、戦士達の情報によると、この大規模な渓谷にはまだ最上級クラスの魔物がいるらしい。うん、今後はそれも倒そう。結論を出し、俺はソフィア達を追いかけるようにして森を出た。


 町まで戻っている途中にソフィア達と合流。すると、


「私達については色々噂になるでしょうね」

「当然だろうな……ま、別にいいんじゃないか? 魔王との戦いみたいに隠す必要はないだろうし」

「それで、どのくらい武勲を得るのでしょうか?」

「一位の人がああした魔物を討伐したみたいだが……その結果ダントツの武勲だった。そう考えると、俺達も順位が結構上がるだろうな」


 掲示板に名が載る可能性もあるな……考えながら町へ戻る。早速連絡所に立ち寄り、得た武勲を確認すると……受付の女性が驚いた顔をした。


「これは……もしや、あなた方は――」

「まあ、そういうことです」


 こちらは曖昧なコメント。しかし女性は理解したようで、


「……今回の魔物討伐ですが、お三方それぞれに武勲が振り分けられています。魔物に撃ち込んだ魔力量などから算定するので、均等とはいきませんが」


 確認すると、俺とソフィアの武勲が多い。俺は最上級魔法を立て続けに使ったこと。ソフィアは『スピリットワールド』を行使したことが原因だろう。

 ただ、一位にはまだ遠い。こうなると一位の人物は単独で最上級の魔物を倒したということだろうか?


 疑問に思う間に、女性が続ける。


「本日集計を行い、おそらく明日の昼には掲示板が更新されます。この数値ならばおそらくお三方とも掲示板に名が載るかと思います」


 早速だな……やはり最上級クラスの魔物相手だと相当なものらしい。


「わかりました。ありがとうございます」


 連絡所を出る。そして俺はソフィア達へ言った。


「リチャルが待つ宿に戻って今日は休もう。明日更新される掲示板の結果を見て……今後どうするかは、改めて相談しようじゃないか」


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