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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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魔物の巣

 魔物の討伐を行うに際し宴のルール上、俺達はまず上位の魔物を狩れるように対応しなければならない。現在俺達は下級レベルの魔物を討伐した程度なので、もし強敵と遭遇しても天使の道具――バッジは赤い警告の光を発するだろう。こうなってしまうと武勲は得られないらしいので、まずはその状況を打破する必要がある。


 というわけで、一路魔物の巣がある場所へ向かう……俺達がいた港町は大陸の南側なので、ひたすら北へ進むことに。


「エイナと合流したりできれば、色々話も聞けていいかもしれませんね」


 道中でソフィアが言う。む、確かに。


「というか、エイナは招待騎士とか書いてあったよな……彼女も天使の武具を得たいと考えているのか?」

「どうでしょう。招待という肩書きがついていますけど、実際はエイナ自身が志願して参加した、という可能性だって十二分にありますね」


 ああ確かに。ソフィアの主張が真実に近いかもな。


「町で情報を集めて、どうすべきか検討するか……参加者なら掲示板に名前が載っているエイナのことを知っている人もいそうだし」


 ただし、この場合別のことを懸念する必要が出てくる。魔王との戦いの後、エイナには何も言わず城を出たからな……。


「私達がいることなど、エイナは知らないでしょう」


 俺の顔を見ながら、ソフィアは語る。


「ですが、上位百人に入ることになれば、必然的にエイナの目にも入るでしょうね」


 ……ま、俺達が掲示板に載るほどになれば、必然的に出会うことになるだろうな。

 というわけでこの件は考えないことにして、俺達は港を離れしばらく旅を続け……やがて、大きな交易路に存在する町に到着した。


 名前はララターナ。港から色々な交易品が運ばれ、ここもずいぶん賑わっている。


「さて、この町の北西に、大きな魔物の巣がある」


 俺は大陸の地図を思い出しながら、ソフィア達へ語る。


「まあこの町からさらに旅を続けないといけないが……そこに入り込んだらいよいよ本番だ」


 果たして一度の探索でどこまで武勲を増やすことができるのか……現状上位の人とはずいぶんと差がついている。どの程度追いつけるのかによって、以降の戦いをどうこなしていくか考える必要が出てくる。


 俺達は掲示板のある広場へと辿り着く。順位を確認したがまだ更新はされていない様子。


「明日出発というわけで、今日はここに宿をとろう」

「それじゃあ俺が探してくる」


 リチャルがいち早く手を上げ去って行く。その間に俺達は一度宴の連絡所へ赴き、何か新たに情報はないかと確認する。


「現在のところ、問題等は出ておりませんね」


 受付の女性からそう言われ、建物から出ることに。


「冒険者との間で情報交換とかした方がいいのでしょうか」


 口元に手を当てソフィアは考え始める。


「これから赴く場所についても、私達は地図上でしかわかっていないわけですし」

「……俺達が狙うのは上位の魔物。それがどういった存在なのかなど、周囲にいる冒険者達がわかっているとは思えないけどな」


 上位にいる人物と話ができれば別なんだろうけど……ただまあ、俺達はあくまで新人の参加者。そうした人物が目の前にいても、話してくれるかどうかはわからないな。


「ま、魔物の巣がどういう状況かもわからない以上、現地へ行って確かめてからだな」


 そう結論を出すと、ソフィアは小さく頷いた。

 やがて俺達はリチャルが戻ってくるまで待つことになる……すると、


「ルオン様、こうしてゆっくりと旅をするのは久しぶりですね」

「……魔王との戦いの後、色々遺跡を巡っていた時くらいの感じだな」

「はい。何事もなければよいのですが」

「ない、と断定できないのが悲しいな」


 その言葉でソフィアが首を向ける。


「何か心当たりが?」

「いや、思い当たるようなことはないよ。そうだったら面倒だなと頭の中で想像して辟易しただけだ」


 ま、これについてはとやかく考えても仕方がない。

 やがてリチャルが戻ってきて、宿をとったと報告を受ける。こちらはならばと、早速宿へ向かうことにした。






 その日は町で一泊し、翌日朝食の席で話をする。周囲には俺達のような冒険者も多く、同じ魔物の巣へ向かうのだろうとなんとなく想像できた。


「全員、宴の参加者みたいですね」


 ソフィアの言及に俺は小さく頷く。


「まあそう考えてよさそうだな」


 実力のほどはわからないが……もしかしたら上位百名の人物だっているかもしれない。


「魔物との戦いについては、以前と同じように?」


 ソフィアの問い掛けに、俺はしばし考え、


「まず、そうだな……俺とソフィアが前に出て、ロミルダが後方という布陣が一番適していると思う。で、リチャルは――」

「色々考えたが、今回はパスさせてもらおう」


 リチャルは肩をすくめそう答えた。


「例えば魔物を使って上位に位置する魔物を探す……という手法も浮かんだが、そもそも魔物を現時点で生み出せていないからな。やるにしても時間が必要だ」

「情報を集める役に徹するというわけか」

「あとは、移動用の竜でも生み出しておくか?」

「そうだな。ならリチャルにはその準備を頼む」


 さすがに以前生み出した竜をここへ持ってくるのは無理だったからなあ……というわけで今回はリチャルは留守番ということで。


「魔物の巣……最寄りの町に着いたら俺は待機しているよ。騒動もないし俺の方は問題にならないはずだ」

「わかった」


 決定。俺達は朝食を済ませ外に出る。

 冒険者達が一定の方向へ突き進んでいる。俺達が目指す方角も同じなので、やはり魔物の巣へ向かっている様子。


「しかし、ずいぶんと多いですね」


 通りを歩く冒険者達の姿を見て、ソフィアは感想を述べた。


「大陸の中にいる人に加え、エイナのような大陸外の面々……かなりの人がこの大陸にいるようです」

「俺達が気付かなかっただけで、実はシェルジア大陸の方でも色々話があったのかもな」


 天使が主催するイベントというだけで、多くの人が引き寄せられるには十分だ。場合によっては武具などを得られるとくれば、冒険者達もこぞって参加するだろう。

 それは逆に競争が激しいことも意味している。掲示板に載るような上位に入るためには、やはり強力な魔物を倒すことが近道となるだろう。


 俺はソフィアの隣を歩くロミルダに視線を移す。彼女は周囲の冒険者達を見ながら歩調を合わせ進んでいる。

 ……まだちょっと人間関係的にぎこちないような気もするんだよな。その辺りが今回の戦いを通して少しでも解消すればいいんだけど。


 町を出ると、多くの人が往来する街道に出た。こうして見るとやはり冒険者が多い。

 しかし、これだけの人数が一挙に魔物の巣へ向かうとなると……巣の方はずいぶんなことになっているんじゃないか? まあ主催者側としては魔物を討伐してもらえるわけだから、こういう展開を望んでいたと思うんだけど。


 ともあれ、魔物の巣に入ってからがスタートラインだ。まずは冒険者達の動きを見ながら戦っていく。

 上級の魔物……それがどこにいるのかは使い魔を用いればわかるはず。ともあれ俺達が戦おうにもまだ警告色の赤色が出て武勲として加算されないだろう。


 魔物を倒し、少しでも早くそうした魔物を倒せるようになること……これが最初の目標だな。

 果たしてどうなるのか……不安や期待が入り交じる中、俺達はひたすら魔物の巣を目指し、他の冒険者達と共に歩き続けた。


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