見知った名前
「道具を身につけていますと、その道具が発する魔力が武器などに付与されます。もし身につけていない場合は魔力が付与されず魔物を倒してもカウントされませんので、ご注意ください」
つまり、絶対にバッジは身につけていろってことか。
「また、魔物討伐は決して単独で行わなければいけないというわけではありません。複数人で大きな魔物を倒す、ということもあるかと思います。そうした場合、魔物を倒すと得られる武勲は分割されます。道具により付与された魔力に応じ、武勲が分配される形となります」
……ゲームにおける経験値の概念に近いかな。一人で戦えば経験値を独り占めできるけど、複数人であれば等分される。
「魔物の質が高ければ、得られる武勲も多くなります。なお不正が行われたと感知した場合、宴の参加を以後認めませんのでご了承ください。また、人間同士の戦闘に対しても基本禁止します。もっとも運営の人間が仲介に入ればその限りではありませんので、何かあればご相談ください」
……不正しようにも天使が生み出した道具だから、誤魔化せないような気がする。ま、冒険者達だって天使の道具を騙せると思う人間は少ないだろう。天使という部分が、一定の不正防止に繋がっているかもしれない。
「最終的に武勲が多い方が、この宴の優秀者になります。また、この道具には一種の危険感知システムが存在します」
危険感知? 首を傾げると、受付の女性は続けた。
「道具が発する光には、種類があります。白い光ならば問題ありませんが、赤い光となった場合は、その魔物が皆様の力量以上である可能性が高いです。また、それ以上に危険な魔物の場合、接近を感知すると赤色に加え小さな警告音が発せられます。危険感知はそれまでに倒した魔物の質によって判断されますので、自分の実力を加味して戦うことができます」
そこで女性は俺達を一瞥。
「なお、赤色の光が点灯した状態で戦闘に入っても、武勲は加算されないので注意してください」
……なるほど、無謀にも強敵に挑む冒険者を防ぐ狙いがあるってことか。
強敵を倒しても武勲が得られないというのはジャイアントキリングなどができないという感じでもあるから、強者には不満もあるだろうけど……偶然そういう魔物を倒して武勲を得る、などといったこともなくなるのでより実力がある人間が上へといきやすくなる。
ただ、このルールだと一足飛びで強力な魔物と戦う、というのは難しいみたいだ。ま、それならそれで仕方がないか。
「説明は以上となります。何かご質問はありますか?」
「えっと、どの町にもこういう場所は存在するんですか?」
俺の質問に女性は頷いた。
「はい、大きな町には順位などを公表する掲示板とこうした施設が存在しております。お立ち寄りいただければ武勲の計算以外にも情報をお渡しできるので、是非ご利用ください」
「わかりました」
というわけで外に出る。俺とソフィアとロミルダがバッジをつけて、準備は完了だ。
「上位の天使と会うには、当然武勲も上位でなければならないだろうな」
俺は広場にある掲示板を眺める。距離的に文字は読めないが、人の名前が書いてあるのはなんとなくわかる。
「できれば一位を目指したいけど」
「ルオンさん達なら可能だろう」
リチャルが肩をすくめながら述べた。
「ルールによれば、いきなり強敵と戦うことはできないみたいだが……ま、ルオンさん達ならそう遠くないうちに強敵と戦えるようになるだろうし」
「まあ、な……とりあえず掲示板でどういう状況か確かめてみよう」
俺達は人がたむろする掲示板へ近づく。数は二つ。一つはこの大陸の地図が描かれた物で、もう一つは人の名前が書かれている。
大陸は、ややいびつだが円形をしており、国名と魔物が多い場所が大きく目立つように記されている。
「……魔物の発生地点がいくつもあるな」
リチャルの言葉。俺は地図を眺めながらそれに応じる。
「俺達の大陸だと、精霊が暮らす影響もあって大陸中にまんべんなく魔力が広がっている。けどこの大陸だと場所によって集中している……この場合、生まれてくる魔物も少し特殊なんだ」
「特殊?」
「そもそも魔物の巣自体が大規模なもので、群れを成していたりするからな。だからこそ魔物の中で相当強力なやつがいたりする。で、中には潤沢な魔力と密接に結びついて集積点から離れられないような魔物もいる。特殊すぎる弊害というやつだな」
「なるほど……地図で見ると魔物がいる地点の中には結構な広さを持つ場所もあるようだな」
「ああ。そういう場所からは魔物が絶え間なく出現し、人里なんかを襲ったりするから、国も色々と対策を打っている。今回の宴で戦う魔物も、そういう場所から出現するのを想定しているだろ」
……俺達が宴で頂点を勝ち取るには、そうした場所へ行くしかない。
「で、もう一方だけど……」
人の名前だけを見ても正直ピンと来ない。とはいえ上位の人間の名くらいは憶えていた方がいいか。
「メモでもしておきますか?」
「まあ、そうだな」
ソフィアの質問に俺は答え、名前を眺めていると――
「……おい」
「ん、ルオンさん、どうした?」
「……あ」
ソフィアも気付いた。掲示板に書かれた名前は、総勢百名。無論、ここに載っているのは上位百名ということだろう。
その中に、見覚えのある名前が一つ。
「……エイナ=フォークドってがっつり書いてあるな」
しかも横に「シェルジア大陸招待騎士」と書かれているぞ。
「何の理由で参加しているのかわからないけど……」
「招待ですから、公的に参加したということですね」
対するソフィアはさして驚いていない様子。
「シェルジア大陸と国交もありますからね。参加していてもおかしくはないですよ」
「ということは、そのうち遭遇する可能性もあるってことか……って、よくよく見るとアルトとかも参加してるじゃないか」
しかも百人の中にいるとは。参加人数がどの程度かわからないが、それでも上位にいるというのはすごいな。
「で、一位の人は……」
知らない名前。ゲーム知識を総動員しても記憶にない。で、獲得した武勲は数値が表されているのだが、その数が二位の倍近くになっている。
「すごいな、一位の人。ダントツじゃないか」
「よほど天使に会いたいようだな」
リチャルが冗談めかしく言う。
「で、この数値がどれだけの魔物を倒した結果なのかはわからないな」
「それについては明日から魔物を倒すことで調べよう」
「今日はどうしますか? ここで休みますか?」
ソフィアが港町を見回しながら問う。
「別の町へ移動し、少しでも早く戦えるようしてもよさそうですが」
「大した違いはないさ。宴の終了はまだ先みたいだし、とりあえず今日はここで休むことにしようか。長旅の疲れだってあるかもしれないし」
というわけで、俺達は宿を探し始め……その間に考える。
この大陸における戦いは、どうやら魔物退治というシンプルなものになりそう……また、これを通して一つ考えていることがあった。
物語の一作目で、主人公は様々な武具を手に入れた。それらを仲間達と共に使いラスボスと戦うのだが……この理論でいくと、今回天使から授かるかもしれない武具の使用者を決めなければならない。
物語で天使達から得たのは盾だが……その通りの物を手に入れるなら俺達にも扱えるかもしれない。とはいえ、場合によっては他者が盾を使うことに――などという可能性も否定できない。
この宴というのはそうした人物を見極めるのも難しくない……もっとも本当に仲間にするかどうかも含め、課題は多いけど。
「ま、ともかくやれるだけやるしかないな」
そう呟き――俺達は明日に備え、休むことにした。




