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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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戦いの終わりと次の道筋

 正直、果てしなく長い一日だった。


 そして今日一日で、この帝国がどれほど激変したか……クーデターに始まり、皇帝の打倒とネフメイザがやったことを暴き、俺達は時を巻き戻したネフメイザと『彼』を倒した。


 竜に乗って帝都に戻った時には夕刻を過ぎていた。綺麗な茜色の景色を見て、俺は思わず苦笑する。


「帝都に乗り込んで、一日も経っていないんだよな」

「そうですね。恐ろしく長い戦いでした」


 ソフィアが感想を述べる。ロミルダやリチャルもまた頷き、息を吐いた。


 帰り道、ロミルダが念のためネフメイザについて探知をしてみたが、その存在を確認することはできなかった。やはりあのとき『彼』に滅ぼされ、時を巻き戻していたネフメイザは倒れたと考えるべきだろう。


「ともあれ、何かないとも限らない……ネフメイザが魔法を発動させたタイミングまで、色々動き回ることにしようか」

「お手伝いします」

「俺も、色々やってみよう」


 ソフィアとリチャルが相次いで答える。それにこちらは「頼む」と応じた。






 城ではアナスタシアが迎えてくれた。事の顛末を報告すると「よくやってくれた」と彼女は述べ、


「戦いは完全に終結した……宴の準備をしているが、ルオン殿達も参加するか?」

「……準備しておいてくれとアベルに言ったんだけどさ、今日やるのか?」

「うむ、じゃがまあ誰もが疲れているじゃろうから、盛大にとはいかんな。ルオン殿は平気そうじゃが」

「……俺も結構疲れているよ」


 『彼』に対し放った最後の一撃――天封の剣はこちらの全力に応じ、倒すことができた。けれど膨大な力に対抗したため、少しばかり疲労感もある。

 しかし改めて考えると、遺跡の中で手に入れたこの剣は恐ろしいな。どんだけ魔力を吸収するんだ。なんだか怖くなってきた。


「けど、やるんだったら付き合わない理由はないな」

「そういうことじゃな……では」


 と、アナスタシアは笑みを浮かべ、


「帝国の新たな船出じゃ。最後に笑い楽しみ、長かったこの日を終わりにしよう」






 ――そうして城内で、宴が開かれた。といっても会場を用意したとかそういうことではなく、城の周りや町の中でみんなが騒ぐ、といった感じになった。


 住民達もそれに応じ、宴は帝都の中全てに広まった。多くの人が楽しく騒ぐ様子を見て、帝国に渦巻いていた圧政が人々にどう影響していたか、俺も理解することができた。


「……いやしかし、本当に大変じゃったな」


 城の上階、テラスで外の景色を眺めていると、アナスタシアが近づいてきた。


「長かった戦いもようやく終わった……ルオン殿、ここまで被害を抑えられたのはひとえにルオン殿のおかげじゃ。感謝する」

「一番の功労者はロミルダだよ。あの資料がなければ、俺達は延々とこの戦いを繰り返していただろうから」

「む、そうじゃな……そういえば、ルオン殿」

「何だ?」

「彼女をどうする?」


 ――この世界には本来のロミルダがいる。俺達と共に戦っていたロミルダはイレギュラーな存在であることに加え、皇帝の竜魔石の力を所持している。


「同一人物が二人いる、という点についてはさして問題にはならんじゃろう。しかし皇帝の竜魔石の力を得ているという事実は、話をややこしくさせる」

「皇帝となるアベルがいるからな……侯爵としてはどう考えている?」

「力を持っている者が二人いるというのは、当たり前じゃが前例がない。協議の必要はあろうが……彼女にとってよい回答を与えられるかは微妙じゃな」

「……彼女は、俺達になついている」


 そう言ったが、ちょっと違うと思い言い直す。


「いや、前回の俺やソフィアに、かな……どこかまだ馴染めていないところもあるけど、彼女がよければ居場所を用意してあげることはできる」

「ルオン殿達の大陸に招待する、というわけじゃな?」


 コクリと頷いた……俺の事情を知っている人も多いから、融通もきく。


「うむ、それが無難じゃろうな……とはいえ、やるなら近いうちにじゃな」

「どうして?」

「協議に入るとどうなるかわからんからな。やるのなら大臣どもがゴタゴタしている今に限る」


 つまり、さっさと逃げろってことか。


「俺達もさっさと消えた方がいいのかな?」

「ううむ……まあ、ルオン殿達に干渉してくる可能性も否定できんな」

「なら、ネフメイザが時を巻き戻す魔法を使った時期を過ぎたら、去ることにする」

「そこまではいてくれるということか……ありがたい」


 と、そこでアナスタシアは笑みを浮かべた。


「ちなみにルオン殿、約束は憶えているな?」

「……取引のことか。まあ侯爵の協力を得られるのはありがたいけどさ」

「逐一情報をもらえれば、色々と協力を約束しよう……とはいえ、行く場所にもよるが」


 そう言うとアナスタシアは肩をすくめた。


「次の目的地などは決まっておるのか?」

「候補はある」

「その場所は?」

「それは――」


 答えようとして、ソフィアとリチャルの姿を発見した。さらにその後方にはロミルダもいる。


「ルオン様、こちらでしたか」

「ああ……と、侯爵。この話はまた今度――」

「丁度よい。今後のことを話しても構わんじゃろ」


 ピクリ、とソフィアが反応した。やはりこれからのことは気になるか。


「ルオン様、次に行く場所は決めているのですか?」

「ああ……選択肢は二つ。もっとも、どっちか片方というわけではなく、先にどっちへ行くべきかという話だが」

「ネフメイザに力を貸していた存在を倒すために、ですよね?」


 確認の問いに、俺は頷いた。


「その通りだ」

「何か手が?」

「ヤツの正体についてもそうだが、足りないものが色々あると思う。とにかく強大な相手である以上、こちらも相応の力を結集して対応すべきだ」

「結集……ですか」

「やり方として参考になるのは、物語だな。一作目……主人公は様々な種族の武具を手にし、敵を打倒した。その敵は、俺達が遭遇したヤツと同じと思われる……もっとも、力の大きさまで一緒かどうかはわからないが」

「どのように倒したのだ?」


 アナスタシアの問いに、俺は夜空を見上げ、


「人間であった主人公は、様々な種族から武具を得た。精霊の剣、竜人の槍。天使の盾に魔族の弓。そして賢者の杖……つまり、この世界に存在している者達の武器を得て、倒した」

「同じことを、此度の戦いでやると……?」

「ああ……現時点で物語と似たような武器は二つあるけど、その力は物語以上だ」


 そう言って俺はソフィアを指差した。


「例えば精霊の剣。これは物語に存在していた精霊達の力を結集した剣だが……現実では、それより強力な武器となっている」


 ソフィアが自身の右手を見た。そこに、神霊の剣が封じられている。


「竜人の槍についても同じだ。竜魔石の力を結集して作られた武器……それは間違いなく、物語の物とは一線を画する力を有している」

「同じように、こちらも強力な武具を手にしたわけじゃな」


 アナスタシアの言葉に、俺は頷いた。


「まあ、必ずしも揃える必要はないかもしれないが……それに、例えば神霊達に頼んで色々武具を用意してもらう、なんて考えもありだ」

『その辺り、協力は約束しよう』


 ガルクが出現し頼もしい言葉。俺は頷き、


「とはいえ、魔族と天使……この二種族については、武具を得る以外にも色々と調べる理由がある」

「それは?」


 ソフィアの問いに、俺は腕を組み続ける。


「天使はなぜ、俺達の大陸やこの大陸に遺跡を残したのか……そして魔族。いや魔王か。俺達の大陸に侵略した魔王が今際の際に語った言葉……俺はそれが、今回ネフメイザに力を与えていた存在と関係しているのでは、と思っている」


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