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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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竜の力

 ロミルダが攻撃準備を始めたと同時、『彼』は右腕を変質させる。突如その腕が漆黒に包まれると――まるでロミルダに対抗するかのように魔力を集め始めた。


「僕としては、ちょっと興味があったんだよね」


 俺もまた魔法を準備する間に『彼』は語る。


「君達は切り札を隠していた。その力とこのネフメイザの力……どちらが上をいくのか」


 ロミルダと『彼』の魔力が渦を巻き、室内を満たす。不気味に笑みを浮かべる『彼』を俺はじっと見据える。

 攻撃が来たとしても、俺が盾となって防げる……が、魔力を集めているだけで動かない。


 少ししてロミルダが収束を終える。一方の相手はただ右腕に魔力を集めただけで構えもしない。


「……そちらが先に攻撃していいよ」


 微笑をたたえながら『彼』は言う。


「どうせ先に仕掛けても君が防いじゃうんだろ?」


 お見通し、というわけか。とはいえ何を考えているかわからない相手だ。最大限の警戒を持って、戦う。


「……ロミルダ」


 呟きと同時、一気に渦巻いた魔力がさらに荒れ狂う。これで一気に勝負がつけばいいのだが――


 巨大な魔力の塊が、一挙に『彼』へと注がれる。洪水のような魔力の流れは下手すると室内が崩壊するほどの勢いを兼ね備え――だが『彼』はそれを真正面から受けた。


「相当な力を持った武器のようだね」


 右手をかざす。その動作は攻撃を受けるとは思えないほど緩やかなものだった。

 直後、魔力同士が激突する。ガガガガ、とノイズのような音が室内を満たし、室内に衝撃波をまき散らす。


 そうした中で俺はレスベイルにソフィアやロミルダを守るよう指示。攻撃を受け止める『彼』だが、何かしてこないとも限らない。

 やがてパアンと弾けるような音が響くと同時、魔力が相殺によって消失――後に残ったのは息をのむロミルダと平然と佇む『彼』の姿。


「今のが全力、というわけではないんだろ?」


 確認するように『彼』は問う。


「というより、まだその武器の真価を試していないから、全力を出せないのかな?」


 まるでもっと力を出せと言っているような雰囲気……なのだが、俺はここでレスベイルを通して一つ気付いた。

 最初と比べ、その魔力が減っている。


「気付いたようだね」


 俺の様子に『彼』が口を開く。


「ま、つまりそういうことだよ。奪った力である以上、体の中で魔力を増やすことはできない。つまり、この力を一切合切消滅させれば、君達の勝ちさ」


 ……とはいえ、本来ヤツが持っている力だってある。皇帝の竜魔石の力を完全に放出させてから、俺の全力で叩きつぶす……それがベストか。


「さて、どう戦うのがいいかな」


 どこか淡々と『彼』は語る。


「さすがに僕も、タダではやられないからね」


 まるで――ゲームでも興じるような雰囲気の『彼』はなおも笑みを見せたまま、新たに魔力収束を開始する。

 先ほどよりもその力は大きい……ロミルダの能力に合わせ、その規模を変えているのか。


「魔力量から考えて、使えるのは多くとも数回といったところか」


 ロミルダが新たに魔力を集め始めると同時、『彼』は呟く。


「そちらには僕に対抗できるだけの力を持つ人がいるからね。普通ならどうあがこうとも君達の勝ちだ。けどまあ、それでは面白くない」


 その言葉の直後だった。彼の影が突如大きくなり始める。


「ネフメイザとしては、せめて君達の誰かを道連れにでもしたかったはずだ。なら、その願いを叶えてあげようじゃないか」


 際限なく魔力が膨らんでいく。こちらも――俺やソフィアもそれに対抗すべく力を結集させる。

 力で対抗するには力――俺とソフィアはそれぞれ体内に封じた剣を取り出し、『彼』に対抗すべく準備を進める。ロミルダもまた、呼応するように先ほど以上の力を集める。


「おそらく、この大陸で君達に対抗できる人間はいない」


 俺達のことを見ながら『彼』はそう断言する。


「そして、僕に対抗できる人間もまた、君達だけだろう」

「……何が言いたい?」

「もし僕のことをどうにかする気なら、君達がやらないとまずい、と言いたいわけだよ」


 その言葉の端々から、ネフメイザとは異なる新たな玩具を見つけたという雰囲気を感じ取れた。


「ま、その程度のことは聡明な君達なら理解できているはずだけど」

「……お前は、何が目的だ?」


 鋭い視線を投げると、『彼』は肩をすくめた。


「正直なところ、自分でもよくわからないんだよ」

「何?」

「何を成すのか……結局、僕自身は何者なのか」


 ……俺は笑いながら話す彼を注視する。表情を変えないまま魔力を集める彼に対し、こちらはただ無言を貫くしかない。


「不気味に思うかい?」

「……いずれ、暴いてやるさ。お前の力も、どういった存在なのかも」

「楽しみだね」


 狂気の笑み――同時、ロミルダが両手をかざした。


 すさまじい魔力の奔流が生まれる。それに対抗するように『彼』も右腕から力を発し……いや、それだけではない。右腕の力によりロミルダの魔法を押し留め、今度は左腕をかざし、標的を定め――


「させません!」


 ソフィアが声を上げ、剣を振りかざした。握る剣は神霊の剣であり、竜精フォルファとの連携により生み出したのは――『スピリットワールド』。

 彼女達の攻撃が『彼』へ向け放たれる。俺はさらなる攻撃がないかと警戒を決め……二人の技が炸裂した。


 爆音と閃光が広間を包み、探知が危うくなるほど魔力が荒れ狂う。衝撃波も生まれ、俺はレスベイルを前線に立たせ盾にしながら……足下から気配を感じ取った。


「さっきの影か……!」


 剣を突き立てる。同時に刀身から魔力を発し、床面をガガガガ、と大いに削り、砕く。それにより、影の攻撃を妨害することができた。


「――と、さすがに気付かれるか」


 轟音の中で『彼』の声がはっきりと聞こえた。直後、ソフィア達の技がさらに勢いを増し、爆発した。

 閃光により一寸先も見えなくなる。俺は気配だけを頼りにソフィアとロミルダを守るべく前に立ち……やがて、光が途切れ正面が見えた。


「さすがに、借り物の力では無茶だったかな」


 その両腕は多少なりともダメージがあったらしく、袖がボロボロになっていた。もっとも、俺の衣服を魔力か何かで再現していると考えられるので、再現する機能に回すだけの余裕がなかった、といったところか。


『……ネフメイザの持っていた魔力が、消えたな』


 頭の中でガルクの声が響く。『彼』もそれは理解したようで、


「あらら、あっけなかったね……ま、これは君の仲間達が相応の力を得たため、ということかな」


 ――ならば、あとやることは一つ。


「決着をつけるか?」

「ああ、そうしよう」


 刀身に魔力を注ぎながら、俺は一歩足を前に出す。対する『彼』は両手を左右に広げた。


「最後の勝負といこうじゃないか……後ろの二人がやってもいいけど、それじゃあ君は納得しないんだろ?」

「この状況下でお前と対抗するのに適任なのが、俺というだけの話だ」


 剣を構える。次いで『彼』を見据え、


「この大陸の長い戦いを終わらせる……お前の消滅によって」

「いいだろう。そして君は、いずれ僕の本体と出会うのだろうね……その時を、楽しみにしているよ」


 今まで一番、無邪気な笑みを見せる――こいつの表情はその全てが笑みに満ちていた。戦いを楽しんでいる……ただそれは、神が人間を空から見下ろし、愚かな行為を笑っているような醜悪さを大いに含んでいる。


 俺は呼吸を整え、一撃で仕留めるべく備える。『彼』はそれをわかっているのかいないのか……どこまでも笑みを浮かべながら――俺へ向け、走り出した。


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