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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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彼の宣言

 まず俺の命令によりレスベイルが部屋に障壁を構築する――ネフメイザが感知されないよう魔力を漏らさない処置であることに加え、ロミルダの力が拡散することを防ぐためだ。


 続いて迫ってきた竜を一体屠る。そしてなおも出現し続ける竜を見て、俺は剣を構え直しながら呟く。


「ネフメイザは、勝利したらこいつらを使うつもりだったのかもな」


 けど計略は失敗。ならばと、最後に面倒事を与えてやろうという魂胆か。

 近づいてくる敵を次々倒しながらロミルダの準備を待つ。すると背後から濃密な魔力が生じるのを感じ取った。


 封印を解いた……彼女は即座に魔力収束を開始。その規模は俺でさえも慄然とするほど。こちらが持つ天封の剣みたいに、際限なく魔力が膨らんでいく。

 一瞬だけロミルダを見ると、彼女の腕先に紫色に輝く魔力が収束していた。それは一本の槍……いや、もっと巨大な塊を形成し、魔法陣を破壊すべく膨らんでいく。


 そんな中で、俺は敵を斬り飛ばし……ロミルダに問い掛けた。


「あとどのくらいで、終わりそうだ?」

「数分で」


 回答はそれだけ。俺は頷き、接近する竜の一体を切り刻む。


 ――ここからは、根比べだった。試しに竜魔石の力を用いないで攻撃すると、ほとんど効果がなかった。よって、俺は剣を用いて撃破を行う。

 竜達もロミルダの魔力には気付いているようで、狙いを彼女へ向ける。だがそれを俺が阻む。容赦の無い斬撃が竜をどんどん倒し、つけいる隙を与えない。


 そう長い時間は必要ないだろう。そう確信した直後、ロミルダの魔力が勢いを増していく。竜達の動きはさらに苛烈となり、彼女を狙うべく進撃してくるが……その全てを俺が迎撃する。


 あとはロミルダが魔法を撃ち込むだけ……そう思った矢先、後方から準備が整ったか、膨大な魔力が一気に安定した。ならばと、俺は魔法陣と直線上にいる敵を倒し始める、


「ロミルダ、合図を送ったら魔法陣へ向かって魔法を放て!」

「うん」


 言葉の直後、俺は少しばかり剣に力を込め、横薙ぎを決める。並んで襲いかかろうとしていた竜の首を斬り――


「いけっ!」


 魔力解放。部屋全体を軋ませるような圧倒的な力。それが、一切の遠慮無く魔法陣へ注がれた。

 それはまるで、巨大な一本の槍。先端が鋭くとがっているからそう表現をしたが、攻城兵器のようにも見え、彼女が発したものとは思えないほど、力強いものだった。


 魔法が炸裂する。着弾した瞬間周囲が発光し、新たに生み出されようとしていた竜が一切合切魔法を受け消滅する。

 室内に魔力が拡散し、それをレスベイルの障壁が受け止める。幸い、魔力が漏れるようなことはなさそうだった。地面に着弾した魔法についても、地面そのものが吸収して外に出ることはおそらくないだろう。


 俺はロミルダの正面に回り、魔法により生じた余波を盾になって受け流す。いまだ発光を続ける魔法は魔法陣を確実に破壊し、バキバキと明らかに建物が壊れていく音まで耳に入る。

 それが次第に大きくなり……ついには光が完全に周囲を包み、視界がまったくきかなくなった。


「さすがにこれで……終わったか?」


 小さく呟いた時、光が途切れゴゴゴゴ、と魔法を炸裂させたことによる重い音が耳に入る。周囲の竜の姿はなく、さらに魔法陣の光も消え失せていた。


 室内はひどい惨状。周囲にある本棚は崩れ、魔法陣を中心とした床は原型がわからないほどに破壊し尽くされている。ただその効果もあってか、魔力はもう感じられない。地底から魔力を引っ張っていたわけだが、その効力も根こそぎ破壊できたようだ。


「竜は……もう出ないみたいだな」


 さらに周囲を見回し、竜が部屋にいないことを確認。次いでロミルダを見ると、大丈夫だと言わんばかりに小さく頷いていた。


「ロミルダのおかげだ……それでは、戻ろう」

「うん」


 頷くと同時、俺は外に出ようとして――背後から、突如魔力が。


「まだ魔法陣の効果が……?」


 もう一度ロミルダの魔法が使えるか? いや、俺が対処するか……そう思った矢先、


「いやはや、強引な力で地底の魔力と切り離したみたいだけど……何をしたのか興味があるな」


 男性の声――いや、これは……。


 魔法陣が存在していた場所に目を向ける。そこに、


「……え?」


 ロミルダが驚く。無理はない。そこに立っていたのは――俺自身。

 以前にもこういう状況はあったので、俺はさして驚かず問い掛ける。


「……まさかこんな所で出会うとはな」

「無理矢理魔力が激突した影響によって、少しばかり挨拶にこれたわけだ。ま、直に消えるけど」


 ――地底で遭遇した、ある意味全ての元凶。


「ところで、さっきのはなんだい? 強力な魔力だったね」

「さすがに、タネを明かすことはできないな」

「あらら、残念。ま、それならそれでいいか」


 肩をすくめる。こちらが黙ったまま視線を投げていると、相手は笑みを浮かべ、


「近いうちに決着をつけることになるだろうから、その時はよろしく」

「ネフメイザと協力して、ということか?」

「彼自身、僕のことを把握しているわけではないけどね……それじゃあ、来るのを楽しみにしているよ」


 消え失せる。しばし『彼』が立っていた場所を眺めた後……俺はレスベイルを通じて魔力探知を行う。

 とりあえず、完全にいなくなったか……ここにヤツがこないよう、色々と対処しておく必要もあるだろうか。


「今のは……」

「確実に言えるのは、俺達の敵だってこと」


 ロミルダの言葉に応じ、俺は元来た道を引き返す。それに追随する彼女。

 途中、残っていた竜も全て片付ける。庭園へ向かって進んでいると、リチャルの魔物の雄叫びが聞こえてきた。


 少し急いで庭園に戻ると、竜相手に奮戦する魔物の姿が。すかさず俺は駆け出し、敵を倒す。さらにロミルダも魔法を行使し……この段に至り彼女は正確に敵を射貫くようになっている。よって、短時間で周辺の敵を撃破する。


「よし、あとは……」


 城の外には出さないようにしているはずだが、他の魔物だって残っている。ロミルダを見るとまだ大丈夫だと頷いたので、このまま城外に出よう――いや、それともアベルの所へ向かうか考える。


「状況的に、一度アベルの様子を見に行くべきか」


 大丈夫だと思うが――その時だった。突如、城内から歓声が聞こえてくる。


「……と、終わってしまったか」


 そう確信できる声。走って見に行くと、戦士達が沸き立つ姿が見えた。


「あっちも終わったみたいだな」

「――ルオン様!」


 そこへ後ろからソフィアの声。振り向けば、駆け寄ってくる彼女が。


「ご無事ですか?」

「平気だよ」

「そうですか、良かった……」


 心底安堵したように笑みを浮かべる彼女。


「私からルオン様のことが確認できなかったので、不安になったんです」

「心配かけてごめん……町の状況は?」

「魔物の発生源は全て抑えました。町の外に出てしまった魔物もいるようですが、リチャルさんの魔物や侯爵達が動いて対処したみたいです」

「そうか」


 俺は沸き上がる戦士達を見ながら、口を開く。


「ネフメイザには逃げられた。というより、そもそも城にいたのは幻影だった」

「幻影……なら、当人がいる場所を見つけ出さないといけないですね」

「ああ。時を巻き戻す前に……早いほうがいいな」

「はい」


 頷いた彼女――それを見ながら、俺は大きな戦いが終わったことで少しばかり肩の荷が下りた気がした。


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