突撃の騎士
戦況が一気にこちら側に傾いた。精鋭の騎士一人がさらに敗れた今、あとは瓦解するだけ……しかし、
「これで終わりなどと思うな!」
炎の騎士バルヴォが刀身から炎を吹き出す。アベルと戦い苦戦していた彼だが、コンラートが負けたことにより、奮起した。
そしてユスカはどう動くか……考えた矢先、彼は仲間のカトラに目を向けた。
その視線に気付いたアレキアスが厳しい顔をする――現在アベルがバルヴォを押し留め、エイラドはジュリアと斬り結んでいる。両者ともまだ余裕がある。なら、一番まずそうなカトラの援護しようとするのはある意味当然か。
即座に彼は走り出した。加え剣に魔力を注ぎ、その目標はアレキアス――
相手となる騎士は危機を悟り大きく後退をする。とはいえ距離を離せばカトラの創奥義の的になる。
すかさず彼女は『クリムゾンホーク』を行使し、魔力の塊を相手に浴びせた。アレキアスは回避に移ろうとしたが、魔法使いの援護により進路を阻まれ、真正面から受ける。
とはいえ、決定打にはならない……カトラが連発できるようある程度出力を絞っているのもあるが、それ以上に彼自身の防御力が高いというのも関係しているだろう。
ただその均衡もユスカが仕掛けることにより崩れるかもしれない……即座に彼は魔力を収束させる。使用する技はどうやら『セイントダスト』。彼もまた、遠距離戦に持ち込むようだ。
「貴様ら――!」
吠えるアレキアス。元々接近戦に特化したその能力は、他の精鋭達の援護がなければ遠距離魔法で封殺される。風の騎士ジュリアや氷の騎士コンラートが少しでも援護すれば一気に決着をつけられるくらいの技量を持っているはずだが、現状では援護なしに戦わなければならない。
なおかつ身体強化はあれど、速度強化を施していないことも災いした。もし速力が上がっていればカトラを振り払って色々対処できたはずなのに……これはおそらく、速力強化よりも他の能力を向上させることを優先した結果なのだろう。
これは速度を犠牲にしても他の騎士がフォローできると考えていたから……つまるところ、騎士達の攻撃は五人の連携を前提にしているということだ。まあ元々彼らは俺と戦うために編成されたわけで、俺個人を食い止められる最善の手段が五人による連携だった、ということだろう。
俺と戦うために集められ訓練されたが故に、今回の戦いで弊害が起きているということ……ユスカとカトラが同時に創奥義を放つ。二つの技が同じタイミングで繰り出され、さしものアレキアスも防御しかない。
攻撃をまともに受け……さらに魔法使い達による集中砲火。一切容赦のない攻撃だが、これでも相手は潰れない。俺と戦った前回、その耐久力を活かして食い止める盾の役割を担っていたのかもしれない。
さて、どこまで耐えられるか……アレキアスは咆哮を上げる。敗北したコンラート同様、獣じみた声は、窮地に立たされ奮起する姿に違いない。
「まだ終わらんぞ!」
宣言の直後、さらに魔力が迸る……アレキアスの魔力の総量がどれほどかはわからないが、少なくとも並の騎士を大きく上回っていることは容易に想像できる。しかしネフメイザから再生能力を与えられるなど色々と能力が向上してはいるが、元はただの人間である以上、一気に力を注ぎ込んで長くもつはずがない。
アレキアスとしては、ユスカとカトラを一気に叩きつぶし、その勢いでバルヴォの援護に入り、アベルを倒す……といった感じだろうか。分の悪い賭けだが他に手がないか。
バルヴォはなおもアベルと技を出し合っているが、怪我はしていない。この状態でフリーになってしまえば、業火により戦場が悲惨なことになるのは容易に想像がつく。
状況的には圧倒的優勢だが、ひとたびしくじればあっさりとひっくり返される……それだけの実力を精鋭の騎士は持っている。
「おおおっ!」
突撃開始。肉薄しその拳で決着をつける算段だ。
当然カトラは『クリムゾンホーク』を使用し……いや、今までと出力が大きく違う。勝負どころだと察し、全力で放つようだ。
さらにユスカと周囲で援護する魔法使いも――最初に仕掛けたのは魔法使い達。風や炎、雷撃や光弾……それらが一挙に押し寄せ、直撃。数え切れない爆発音が広場にこだまし、アレキアスにダメージを与える。
数にものを言わせるその戦法により、さすがのアレキアスも足を止めてしまう……が、再度絶叫した騎士は、なおも突撃を敢行する。その姿は、もはや意識があるようには見えず、ただ目の前の敵を食らおうとする狂戦士そのものだった。
そこへ、ユスカの『セイントダスト』が射出される。彼もまた全力の一撃。光が大砲のごとく撃ち出され、我を忘れたアレキアスは頭から突っ込んでいく。
轟音――先ほど魔法使い達が放った以上のものが広場を満たす。それに驚き体を震わせ悲鳴を上げる民衆も数多くいた。
そうした中で、アレキアスの体も無事では済まなかった。光の衝撃は彼の想定以上であったことは間違いなく、突進はおろか逆に吹き飛ばされた。
「ぐうっ……!」
呻く地の騎士。しかしまだ終わりではない。さらに体の奥底から魔力を絞り出すべく、彼は魔力を噴出させる。
完全に目の前の標的を倒すためだけに力を結集している。カトラ達に勝利しても戦う力が残らないのではないかと思うのだが……そんなことを考える余裕すらない、といったところか。
対するユスカ達は、呼応するように魔力を高め相手に備える。アレキアスが攻撃に耐えるかどうか……構図は極めてシンプルだが、死闘であることは間違いなく、もし迎撃に失敗したら状況は覆る。
刹那、アレキアスが走った。ダメージがある以上多少なりとも動きが鈍ってもおかしくないはずだが、先ほど以上の鋭さだと確信できる。
それに対抗するのは、ユスカ――
「いけ!」
声を張り上げたかと思うと、魔法使い達が一斉に魔法を解き放った。雨あられと注がれる魔法――そして、ユスカがカトラの前に立ち、彼女を守るようにして、剣を振りかぶった。
「終わりだ――!」
全力で繰り出される『セイントダスト』。今まで見た中でもっとも光まばゆいその技が、魔法に続きアレキアスに直撃する。
衝撃は先ほど以上……しかし、それでもアレキアスは止まらない。
「カトラ!」
同時、ユスカが叫ぶ。わかっているという表情で彼女は剣を掲げ、その刀身に収束した力を……解き放った!
発生した『クリムゾンホーク』には、彼女の全身全霊が刻み込まれていた。暴虐とも呼べるアレキアスの突進に対し、真っ向から彼女の創奥義が炸裂する。
一際大きい爆発音が鳴り響いた。ズオオッ――と、風が吸い込まれるような音も生じ、光の粒子によりアレキアスの姿が一時見えなくなる。
まさしくユスカ達が放てる全力が激突した……だが光の奥からいつアレキアスが飛び出してきてもおかしくない。ユスカが前に立ち、さらなる技を放とうと剣を構える。
そして光が消え……そこにいたのは、鎧が大きく砕かれボロボロになったアレキアス。
「……無念」
一言。次いでその体が大きく傾き……ズウン、と倒れ伏した。
終わった……が、カトラはさすがに限界がきたか片膝を立て座り込む。けれどユスカはまだ余裕――しかし周囲の魔物の動きが活発となり、彼は魔法使い達に指示を出す。
「周囲の援護を!」
即座に散開する魔法使い達。そうした中でユスカはどうするべきか悩んだ様子だったが――
「まず魔物を倒せ!」
アベルが創奥義を使いながら告げた。それを聞き、ユスカも行動を開始した。




