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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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氷と光

 ロミルダの魔力が発せられ、俺の視界に映ったのは風に舞う白い花びらのような、美しい魔力だった。

 魔法が発動した瞬間、一気に弾け広場を取り巻く。それが一気に戦士達に影響を及ぼし、全員が苦い表情を見せた。


「これは……!?」


 声と同時、俺は即座にシャードへ剣を差し向ける。相手はすぐさま防御したが、斬撃を受けたじろいだ彼に、追撃は防げなかった。

 二の太刀が彼の体に叩き込まれる。刹那、か細く息を吐き、そのまま倒れ伏した。


「……効いている」


 なおかつ、今度こそ再生せず。魔法は成功した。


「よし、このまま一気に――」


 そう思い別の騎士に目を向けようとした時だった。


 ズグン、と一度鳴動するような魔力が、城内から生じた。これは――


「動き出したか」


 時を何度も巻き戻したネフメイザも、魔法を使い始めた……ここまでやればさすがに気付くか。


「ルオンさん!」


 ここで、アベルが叫んだ。


「ここは任せて先に!」


 その言葉と同時、彼は『ラストオーシャン』を駆使しバルヴォを押し込む。相手も炎で対抗し……どうやら再生能力が働かなくなっているのがわかったようで、苦々しい顔をしたまま戦っている。


「一刻も早くヤツを!」


 その言葉で、俺は決断した。


「レスベイル! ロミルダを抱えてつれてきてくれ!」


 魔物と斬り結んでいたレスベイルは即座に反応。飛翔し、一気に後方にいるロミルダの所に着地する。

 そして半ば強引に抱える。次いでまたも跳躍し、一気に俺の所へ。


「ロミルダ、いけるか?」

「うん」

「わかった」


 ――レスベイルはどうするか。ほんのわずかな時間考えた時、さらに周囲に魔物が出現したのを見て……決断した。


「ここに精霊は置いていこう」


 いざとなればレスベイルを通して援護もできる――そういう思いから判断した俺はそう叫んだ。


「ロミルダ、走れるか?」

「うん、大丈夫」

「なら、俺の後についてきてくれ」


 仮に魔物がどれだけいても大した時間ロスにはならない――ここで一度アベルを見た。バルヴォと斬り結ぶ彼を見て、


「――先に行く!」

「ああ!」


 彼は頷いた。よって、俺は走り出す。ロミルダが追随し、三つ目の城門へ向かう。


 レスベイルに意識を傾けると、その視点が頭の中で浮かび上がる――騎士達はどうやら俺達を阻むつもりで動いたようだが、アベル達に押し留められ、どうにもできない様子。

 城門を抜け、いよいよ城内に到達――ネフメイザはこの世界に二人いる。片方は玉座の間にいて、もう一人は城の最上階に位置する見晴らしのいい大きなテラスにいる。


 そして時を巻き戻したネフメイザは最上階の方。そこへ急行し……ネフメイザとの戦いに終止符を打つ!


 移動の間に、俺は仲間達の状況を確認。光によって確認できるソフィアの姿と、レスベイルを通して理解できる戦士達の状況。そのうち気になるのはソフィアだが……まだにらみ合いは続いている。

 これについては、果たして想定通りの戦いなのか……? 疑問に思ったが、現時点で言えるのは人造竜はまだ仕掛けていないということ。場合によってはネフメイザを打倒する間に決着が――


「ちっ!」


 そこで舌打ちが聞こえた。アベルと戦うバルヴォが放ったもの。この苦戦は当然予想外だろうし、あまつさえ俺に突破されている。苛立つのも無理はない。


「おい! 城へ行ったヤツを追撃――」

「お前達はここで倒す!」


 明言したアベルがさらに『ラストオーシャン』を使用。騎士は完全に一対一の状況に持ち込まれ、特にバルヴォはアベルの創奥義により完全に動きを制限されている。

 とはいえ、野放しにしていると炎により周囲に大きな被害を与える。このまま封殺して一気に倒すことができればいいのだが。


 レスベイルが魔物を倒す間にも戦いは続く。この時点で俺達は城内を進み……目の前に魔物が出現した。


「ロミルダ、後ろに」


 即座に剣を構える。竜魔石を含んでいないと攻撃が効かなそうだし、このままいこう。

 こちらの戦闘が始まると同時、精鋭の騎士達に新たな動きが。どうにか連携しようと各々が前線で戦うバルヴォの所へ移動しようとする。


 無論、アベル達はそれを見逃さない。とはいえ、問題も出てきそうな雰囲気。一番のネックは……カトラだ。


「このっ!」


 創奥義『クリムゾンホーク』を立て続けに放ち、地の騎士アレキアスを大いに吹き飛ばす。ただ、元々創奥義は切り札という扱いであり、消費する魔力も多い。彼女は訓練によりある程度連発できるようにした上、現在は息切れしないよう出力を調整しているはずだが、そう長く続くとは思えない。


 実際、アレキアスは攻撃を受け続けているが最初に食らった時と比べ慣れ始めているのか対応が早くなっている。カトラの方も魔力の込め方を変えて何かしら調整しているみたいだが……。


 レスベイルで援護に入るべきか……そう思った矢先、戦士や侯爵の私兵が援軍として広場にやってきた。


「アベル様達を援護しろ!」


 魔物と相対する戦士の声に、魔法使いなどが反応する。即座に魔法を駆使し――特に苦戦しているカトラの援護を行うためアレキアスに魔法が降り注がれる。


 途端、当の騎士は険しい顔をした。いざとなれば創奥義を無視するように突撃し、ダメージ覚悟でカトラを倒す手段に出たかもしれないが、魔法の応酬によりそれができなくなった。


 アレキアスは後退。さらに魔法使い達は援護を行い――その中には、ユスカと戦うコンラートへ放たれたものもあった。


「厄介だな!」


 思わず声を上げたコンラートは、氷の壁を発生させ巧みにかわす。だがそれによって生じた隙に潜り込むようにユスカが剣を振るう。

 それは斬撃の応酬――創奥義『ソード・アルカディア』だ。たまらずコンラートは受けながら後退する。だがユスカは食い下がり、一太刀浴びせんと間合いを詰める。


 多少なりともリスクのある勝負だが……結果は、功を奏した。魔法使いの横槍などで散漫となっていた彼の剣はとうとう弾かれ、剣が当たった。


「ぐうっ――!」


 呻きながらもコンラートは後退する。鎧に当たりそれをユスカの剣が多少砕いた形。なおかつ衝撃波が幾分抜けたはず。それにより動きが鈍れば、一気に決着がつく。


「舐めるな!」


 だがコンラートは気合いを入れるためか声を発し、自らの意思で足を前に出した。この時点でユスカは創奥義を『セイントダスト』に切り替えている。この技は本来遠距離から放つものだが、彼はこれをゼロ距離から発しようとしていた。


 コンラートも応じるべく氷を集める。互いが最高の一撃を放つ構えであり、勝負が決まるかもしれないという予感を俺は抱いた。


 双方の剣が繰り出される。ユスカは金色の魔力を刀身に宿し、コンラートは冷気によるものか剣そのものが凍り始めていた。

 そして、激突する――同時に発せられたのはガラガラ、という氷が砕かれる音。光の粒子が氷を飲み込み、氷を形成しようとしたコンラートの剣を――飲み込んだ。


「まだ、だ――!」


 しかし彼も抵抗する。魔力を集め、対抗するべく新たな氷を形成しようとして……けれど、一歩遅かった。


 ユスカはさらに出力を上げ、光が彼自身包むほどになる。


 そしてコンラートを飲み込み――次に生じたのは、衝撃波と炸裂音だった。


「――がああっ!」


 咆哮のような声と共にコンラートが吹き飛ばされる。砕かれた氷が舞い、彼は地面に倒れ伏す。

 再生もせず、彼は動かなくなり……完全なる、ユスカの勝利だった。


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