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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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人造竜と騎士

 巨大な竜と、それに向かい合うソフィア――竜からすれば彼女の存在はそれこそちっぽけなものだろう。

 だが、竜は動かない。まるで……ソフィアこそが自分の狙いだと言わんばかりに、踏みつぶした建物の上でソフィアを見据える。


『ルオン殿、動きはあるか?』


 アナスタシアの声が聞こえる。彼女からソフィアの状況を見ることができないためだろう。俺はなおも移動しながら……一つ予感を抱いた。


「なあ、一ついいか?」

『うむ』

「えっと、その前に確認だがこの会話はソフィアも聞こえているのか?」

『彼女はどうやら魔力を込めておらんな』


 ということは聞こえていないということか。


『この状況で会話をしているのはわしとエクゾンとルオン殿くらいじゃな』

『それがどうした?』


 エクゾンの声。俺は前方に広場のようなものを視界に入れた直後、話す。


「人造竜が生み出された理由は、さすがにわからないよな?」

『ルオン殿のこともあるじゃろうし、反乱組織のこともあるじゃろう。具体的に理由を探すと、いくらでも思い浮かぶ』

「最初は、おそらく反乱組織に対抗する存在だったと思う」


 俺は自分の予測が、正しいのではないかと思う。


「だが――俺達のことを考慮し、利用するとしたら……ネフメイザは人造竜とソフィアが激突することも理解しているはずだ」

『――つまり』


 エクゾンが口を開く。


『人造竜そのものが、ソフィア王女を倒すために動かしたと?』


 俺ではなく彼女、という点について確かに疑問はある。だが彼女は魔王を討った存在。その事情をネフメイザが知らないにしても、この戦いを何度も繰り返したことにより彼女の力も把握しているのだとしたら――


 考える間に、三つ目の城門が見えた。だがその前に、大きな広場が目の前に現れる。

 なおかつ、混乱し逃げようとする人々の姿……ここで俺は城へ続く道に騎士の姿を捉えた。


「……来たな」

「ルオンさん、どうする」


 アベルが尋ねる――まず間違いなく精鋭の騎士達だ。そして魔物達と戦う戦士達……乱戦に近い状態となっており、それが混乱に拍車を掛ける。

 なおかつ、このまま戦いに入ればネフメイザに前回とは違うということを認識させることになる――ここが分岐点だ。


 俺はソフィアの近くにいる光へ意識を移す。まだ動きはない。にらみ合いなのだが、人造竜は警戒しているのか?

 ともあれ、どうやら精鋭と人造竜が動き出すのはほぼ同じというわけか。


『ルオン殿、もう一つ』


 ここでアナスタシアが声を上げた。


『光を通してルオン殿の声も相手に掛けられる』

「……言うのが遅いぞ」

『すまん、ルオン殿しか使えん機能じゃからな』


 俺は軽く息をつき……精鋭達が近づいてくるのを見ながら、ソフィアへ言った。


「ソフィア、聞こえるか?」

『……ルオン様?』

「人造竜から目を離さないままでいい。侯爵の力により、会話ができるし俺はソフィアの動向がわかる」


 そう言った後、続けざまに語る。


「使い魔はネフメイザの工作により全て消滅した。で、人造竜についてだが、ソフィアを倒すために色々調整しているのではないか、という可能性が浮かんだ」

『……私を、ですか』

「ああ。けど、ネフメイザにとって予定外のことがある」

『竜精のことと、神霊の剣のことですね』

「そうだ」


 もうあまり時間もない――


「現状、精鋭の騎士達と人造竜は同時に動き出す可能性が高そうだ……人造竜を倒せればベストだが、さすがにそれはキツイだろう――」

『こちらはこちらで対処します』


 ソフィアは断言する。心配かけまいとする物言いではなく、自分一人でやってみせる、という意気込みが感じられる。

 俺はわずかに沈黙した後……「頼む」と言い返し、精鋭達へ視線を注いだ。


「ようこそ、帝都へ」


 騎士――炎の騎士バルヴォが口を開いた。他の面々は無言で剣を抜き、戦闘態勢に入る。

 俺達もまた……ただ、周辺に魔物達がおり、戦士や侯爵の私兵はその撃退などに回っていたりもするため、現場はかなり混乱している。


「さすがに城に突入されるわけにもいかないからな。ここで俺達が阻ませてもらうさ」


 陽気に語るバルヴォ……さて、精鋭の騎士達からはまだ距離がある。ここから一気に駆け抜け、影使い……一番奥にいる騎士シャードをどうにかしなければならない。対処が遅れればその能力により周囲の人々の動きが止まり、状況が悪くなる。


 一気に肉薄し、動きを止めることはそう難しくない。しかしまだ再生能力があるので、トドメを刺すことはできない。


「……ロミルダ」


 声を掛けると、彼女は「わかってる」と返事をした。どうやら既に準備は進めている様子。

 話でもして相手の気をそらすか……? そう一度は思ったのだが、どうやら精鋭達も多くは話さないようで、


「それじゃあ早速、始めようじゃないか」


 バルヴォが語った。さすがに時間稼ぎはできなさそうだ。


「……全員、用意はいいな?」


 周囲にいるアベル達に尋ねると、全員が一様に頷いた。


 さらに、それと連動するようにソフィアの方にも動きが。人造竜が一歩ソフィアへ近づき、また当の彼女は魔力を引き上げる。

 どういう勝負になるのかまったくわからないが……相手は相当な巨体であるため、戦うにしても工夫がいるだろう。


 ここで人造竜の咆哮が周囲に響き渡った。戦士達が警戒を見せ周囲を窺うような素振りを見せる……とはいえ、恐怖により固まるといったことはない。


 ふむ……どうやら人造竜と精鋭の騎士達は連動しているみたいだな。ネフメイザとしては同時に狙うことで、連携できないようにするつもりなのかもしれないが……逆に言えば、竜と騎士達が一挙に押し寄せてくるという可能性は低い。この点については、よかったといえる。


 俺は剣を抜きゆっくりと構える。次いで、


「ロミルダ、どうだ?」

「まだ、だめ」


 さすがにこの短時間ではキツイか。


「なら、どのくらいでできる?」

「あと、数分」


 果てしなく長い数分になりそうだ……そんなことを胸中思いながら、俺は攻撃前にソフィアへと語る。


「ソフィア、用意はいいか?」

『……はい』


 明瞭な返事を聞いた後、精鋭達がゆっくりとした足取りで近づいてくる。こちらの出方を窺っているようにも見えた。

 その中で……俺はじっと精鋭の騎士達を見据えた。短時間で一気に決着をつけるには……頭の中でどういうプランにするかを考えていく。とはいえ重要なのはどれだけ臨機応変に動けるか、だな。


 また周囲では戦士達が魔物と戦っており、そちらに目をつけていつ攻撃を始めてもおかしくない。

 もし挑むなら、こちらから仕掛けるべきだろうな……騎士達はネフメイザから色々と情報を受け取っているだろう。だが、こちらも騎士達について能力を把握している。


 ヤツの目論見通りにはさせない……思い知らせてやろう。


「さて、どうする?」


 バルヴォが問う間に、シャードが逃げる人々に視線を移す。


 人々を拘束できる準備は既に整っていると考えるべきか……俺は呼吸を一つした後、


「……ソフィア」

『はい』

「ユスカ達も、覚悟を決めてくれ」


 その言葉に一同頷き――


「……いくぞ」


 言葉と同時、足を前に出した。


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