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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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嵐の前

 周囲で戦いの準備を進める人達を眺めながら、俺は腕輪の力を通しアナスタシアの声を聞く。


『まずエイラドについてじゃが、こやつについては城門前で合流ということにする。精鋭の騎士達が登場する前に態勢を整えておく』

『合流次第、ルオン殿の指揮下に入る』


 エイラド自身が補足。俺は「わかった」と答え、


「人造竜については?」

『出た瞬間動き出すわけじゃが……それについてはナシアが説明する』

『はい』


 竜魔石そのものと言えるナシア。当然腕輪をはめているはずもないが、何かしら入っている竜魔石に仕掛けがあるのかな?


『人造竜の内部を探っていると、動くかどうかのテストをしていることがわかったわ』

「それ、何をどう動いているのかはわかるのか?」


 俺の質問にナシアは『難しい』と答える。


『何をするかわかればいいんだけど、結局魔力を放出しようとしているか、していないかくらいの差しかわからない』

『まあ、人造竜についてはそのくらいの情報しか得られないわけじゃが……そこそこ指標にはなる』


 ヒントがないという状況だったから一つでもわかった方がいいわけだが、あまり頼りにしない方がいいかな。


『ここからの流れについては、事前に打ち合わせた通りに行う……確認じゃが、問題ないな?』


 アナスタシアの問い掛けに、俺はソフィアの顔を見た。


「……大丈夫か?」

「はい」


 明瞭な返事。俺はそれで彼女にはそれ以上尋ねず、アナスタシアにまたも質問する。


「精鋭の騎士と遭遇した瞬間、俺達は攻撃に移る……で、ロミルダが再生能力を封じ、一気に決着をつける……で、いいんだな?」

『うむ、これについては状況に応じて対処……ルオン殿の働きに加え、彼らと戦う者達の動きに期待しよう』


 ユスカやカトラが緊張しそうなことを……と思っていると、


「ああ、問題ない」


 アベルの声。それが頭の中と耳と同時に聞こえた。

 声は背後から。振り向くとアベルやユスカ、そしてカトラが準備を済ませ近づいてくる光景が目に入った。


「こちらは準備万端だ。そちらは?」

『こちらは……お、ちょっと待った』


 アナスタシアは突然沈黙する。少しして、


『すまん、報告が入った。城内についても準備ができたようじゃ』

「……入り込む準備か?」


 こっちの質問にアナスタシアは『うむ』と応じる。


『民衆達の動きも今のところ問題はない……が、敵は彼らを利用し色々と動くじゃろう。被害を抑えるには、迅速な動きが何より必要となる』

「できるだけ早く、ルオンさん達をネフメイザの下に行かせるというわけだな」


 アベルの主張。エクゾンがそれに対し「その通りだ」と答える。


「ルオン君、個人的に大陸外の人間である君達を矢面に立たせるのは少しばかり躊躇いもあるのだが……」

「この戦いは俺達に関わってくる面もある。だから気にしないでくれ」

「そうか。ならば存分に働いてもらおう」


 ニヤリとするエクゾン。こちらは苦笑で応じた後、アナスタシアに告げる。


「こっちも準備できた。どうする?」

『まだ少々時間をくれ……突入の時がきたら連絡しよう』


 ……ネフメイザもこの間に人造竜の準備をするだろうか。いや、既に俺達が動き出しているとわかった時点で迎撃態勢は整っている……かな?


 味方側もその動きが慌ただしくなっていく。とはいえ普通の戦争と異なるのは、帝都側は見た目の上で何も準備をしている風に見られないこと。俺達の存在に備え城門付近に兵を配置していてもおかしくないのに、今は閉め切られているだけで人の姿が皆無だ。


 この時点で既に罠が待っていると予測できるのだが……周囲を見回してみると、事情を知らない兵士や反乱組織の構成員は、あまりに静かな様子に戸惑っている風に見えた。


「……奇妙な戦いだな」


 横にいるアベルが呟く。それに同意するかのようにソフィアが口を開いた。


「確かに……前回の戦いでは、この状況に私達も眉をひそめていたかもしれません」

「かもしれないな」


 俺も彼女の言葉に同調している間にも準備は進んでいく――嵐の前の静けさ。ゲームなら緊張感を与えるためBGMなどをあえて排し、違和感を覚えさせるような場面かもしれない。


 やがて、エクゾンの兵士が「準備完了」と報告する。


「……さて、ここからはルオン殿達の出番だな」


 エクゾンが俺に向かって話を始めた。


「私達は前回の戦いと同じ流れと見せかける必要がある以上、最初は動くことができない……とはいえ、アナスタシアが作成した道具がある。こちらの手の内をさらした瞬間、動くことはできるぞ」

「状況に応じてどうするかは考えるさ」

「……戦況を君自身にゆだねるというのも、いささか申し訳なく思うな」

「気にするな」


 返答した直後、どこからか鬨の声が聞こえてきた……方角は右っぽいな。アナスタシアの私兵だろうか。


「そろそろ時間のようだな」

『――こちらも準備ができたぞ』


 丁度アナスタシアの声が。


『城門は近づいたタイミングで開け放たれるようにしてある。ルオン殿、頼むぞ』

「ああ」


 返事の後、エクゾンやアベルが号令を掛ける。


 この戦いの表向きの主役はアベル。彼自身が皇帝のいる場所へ向かい、ネフメイザを討つ――その後、彼が行った所行を暴きこの戦いを終わらせる。

 俺の方は時を巻き戻したネフメイザを捉え、倒すこと……考えている間に、リチャルの魔物が後方からやってきた。機動力を重視しているのか狼などが多い。


 そして、アベルが視線を送ってくる。俺が黙って頷くと、彼は号令を掛けた。


「――この戦いを終わらせるぞ!」


 声と同時、天高く戦士達の歓声が湧き――進軍を開始した。

 俺達はそれに追随する。エクゾンの私兵もその中に混じり、アベルの後に続く。


 他の侯爵達も動き出した。侯爵自身は城の外に布陣したままだが、彼らの私兵が他の門を抑え、ネフメイザを逃がさないようにする――また、城の抜け道などについては既に調査により入口は押さえている。皇帝なども逃げられないように処置は済んでいるわけだ。


 お膳立ては整った。あとはネフメイザを倒すだけ――城壁へと近づく間に、堅牢な城門がゴゴゴ、と音を立て動き始める。

 開き始めた――敵の妨害があってまた閉まったりすると厄介だなと思ったが……門はそのまま動き続け、完全に解放された。


 ここで、アナスタシアのいる方角から騎士達がやってくる。その中にエイラドの姿もあり……彼は黙ったまま隊の中に入り込んだ。


「このまま一気に城へ踏み込む!」


 アベルが叫ぶ。呼応するように戦士達が応じ、一気に町へと突入した。

 俺達もそれに続き門を抜ける。中は――気味が悪いほど、静まりかえっていた。


 帝国側としては「侯爵達が謀反を起こしたため、隠れるように」と、指示したのか。侯爵達の働きもあるとは思うが、ネフメイザとしても最初は民衆に自身が敵でないことをわからせるため、穏便に済まそうとするだろう。


『二つ目、三つ目の城門も開くようになっておる』


 ここでアナスタシアの声がした。


『一つ目と二つ目の門の間ではまだ、敵は仕掛けてこない。二つ目を抜けた後……本格的に動き出す』


 その言葉を聞きながら、無人の通りを俺達は駆け抜ける。ここまでは間違いなく順調と言える……が、ネフメイザにとっても予定通り。

 勝負はここから……その時二つ目の城門が見えてきた。


 まだ敵の姿はない。アベルは構わず声を張り上げ、戦士達もそれに追随する。

 そして、門が開き俺達は一気に抜ける――直後、竜の雄叫びが耳に入った。


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