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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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帝都前

 エクゾンの私兵と、アベル達の組織の面々が一路帝都へ進む。侯爵達は領地に兵が少なくなるので、リスクのある勝負といえるかもしれないが……帝都側が仕掛けてくるということもなく、安全は保証されている。


 今回の決戦は人造竜が完成したことが判明したため、先に仕掛けるべく俺達が動くという形。前回――つまり時を巻き戻す前に行われた決戦でもまったく同じ理由だったので、俺達の行動は見た目上は変わっていない。


 大きく違うのは俺達がこの戦いについて最初から知っていること。そして何より、ロミルダが皇帝の竜魔石の力を持っていること。特に後者は本来ならあり得ないこと。この点が何より戦いのキーとなりそうだ。


「大丈夫?」


 馬車上、ソフィアがロミルダへ問い掛ける。俺達の馬車に乗っているのはソフィアとロミルダにリチャルと俺。彼女の発言は、無言のロミルダに酔っていないか確認するような感じかな。


 リチャルの竜を使って俺達だけ移動……というのも一つのやり方ではあったが、前回このような形だったのでそれを真似ている。まあ前回は竜がいなくて仕方なくといった感じだったみたいだが。


「リチャル、いいか?」


 ガタゴトと馬車が揺れる中で俺は彼に問い掛ける。


「生み出した魔物についてだが、どうだ?」

「……竜については帝都近隣の森に移動している。現在のところ見つかっていない」

「竜の存在は前回いなかったみたいだから、隠すしかないよな……」

「それに、もしネフメイザが逃げた場合の移動手段として残しておく必要もありそうだからな」


 ――準備期間の間に、彼自身も魔物などを作成した。それは前回の戦いで彼自身が記した資料を基にしているのだが、変わっていることはあるらしい。


 どうもアナスタシアはリチャルの魔物を利用し何か考えているらしい……具体的に何をするのかは「まあ待て」と言っていて、結局聞けずじまいだったけど。


「作戦については、帝都へ行って現地で話し合うことになるかもしれないな」


 俺の言葉に、ソフィアやリチャルは視線を注ぐ。


「まあ四竜侯爵全員が顔をそろえて、とはいかないだろう。ザウルはほぼ間違いなく帝国側の人間だから、密かに話し合いを行い段取りを決める、といったところかな」


 ――四竜侯爵は帝都の四方を囲むような形で布陣する。北がザウル東がアナスタシア。西がシュオンで南がエクゾン。アベル達も南に布陣するため、必然的に進軍のメインは南ということになる。


 町の人間については……事前に侯爵達が手を打ってあるため、大きな障害にはならない――と、前回の戦いでは思われていた。だがネフメイザは彼らを無理矢理表舞台に立たせることで、俺達の動きを制限する。その点は、上手く対応しなければならない。ちなみにアナスタシアは、資料を読みその辺りも色々とやっていたみたいだが……。


 ふいに、ロミルダと視線が合う。彼女は黙ったまま小さく頷き、大丈夫だというのを目で返答した。


「――皆様」


 そこで、御者台にいる兵士が声を掛けてきた。


「もうすぐご到着のようです。準備をお願いします」


 その声に、俺達は互いに目を合わせる。


 行軍自体はトラブルもなく、これもまた前回通りだが……さて、ネフメイザがどのタイミングで気付くのか。そして俺達がそれをすぐに察知し、またヤツの下へどれだけ早く急行できるのか。ここが勝負になるかな。


 天幕を少し開けて前方をのぞき見ると、遠目に帝都の姿があった。それを確認した後、俺はソフィア達へ言う。


「いよいよだな……全員、戦いが最後までわからない。気を抜かないように」


 誰もがその言葉に頷き、馬車内に緊張感が生じた。






 帝都の門を真正面に見られる場所で下車すると、堅牢な城壁がまず目に入った。


「本来なら、あの城門を真正面から突破しないといけないわけだが……」


 侯爵達の工作により、その必要はなくなっている。


「資料の流れに沿えば、そう長い時間戦うわけでもない……戦闘を開始して、おそらく半日もあれば勝負がつく」

「その半日で全てが決まる、というわけですね」


 ソフィアが言う。俺は深く首肯した。


「しかし、帝都側はずいぶん落ち着いているな」


 侯爵達の軍が押し寄せてきたわけだから、城壁の中で色々と騒動が起きていてもおかしくないが……風に乗って声などは聞こえてこない。この辺り、上手く侯爵達がやったということなのか。


「――ルオン君」


 ふいにエクゾンの声。視線を転じると、横から侯爵がやってきた。


「先ほどアナスタシアの兵がやってきた」

「伝令か?」

「これを君達に渡してくれと」


 そう言って彼が差し出したのは……ビー玉くらいの石が埋め込まれた革製のブレスレット。石の素材は水晶……? いや、竜魔石なのか?


「これは?」

「竜魔石を利用して作成したらしいが……これをはめて、魔力を込めて使うらしい」


 何の効果があるのか……疑問に感じながら俺達はブレスレットを受け取る。それを腕にはめて魔力を込めてみるが、何も変化がない。


「これ、何の効果が?」

「今回の戦いに必要な物らしい。同じ物が私を始め、アベル君達にも配布されている」


 エクゾンもまた身につけている左腕をかざしながら言う。つまり、今回の戦いにおける重要人物達全員に渡しているということかな?

 ふむ、魔力も何も感じないけど……そう思っていた時、


『お、全員身につけたようじゃな』


 アナスタシアの声が――途端、ソフィアやロミルダは周囲を見回し始めた。他の面々も聞こえているらしい。


『うむ、わしには全員の魔力を感じるのう』

「……もしやこれは、おまえの竜魔石を利用して作った物なのか?」


 エクゾンが問い掛ける。誰もいない場所に向かって声を上げたのでなんだかシュール。

 口に出してもアナスタシアに聞こえるのかという疑問があったのだが――返答がやってきた。


『エクゾンは使い方がわかるのか?』

「……単に魔力を腕輪に込めながら話すだけだろう」

『うむ、そういうことじゃな。というわけで、これを利用し各々状況を報告しながら動けるぞ』


 ……おそらく彼女が持つ竜魔石『竜武石』の力を応用した一品なのだろう。確かに相互に連絡を取り合えたら非常に便利だし、有効と言える。ただ――俺は問い掛ける。


「確認だが、この道具は誰に渡したんだ?」

『ルオン殿達一行に、精鋭の騎士を相手にする面々。そしてエクゾンとシュオンじゃな』

「他の人には?」

『残念ながら間に合わなかった』

「……時間が掛かるのか?」

『うむ、結構大変だったのじゃよ……まあ、必要人数分は作れたからよしとしよう。それに、事情を知る人間に限定しておるし、話もしやすい』


 そんな手間暇かかっているようには見えないけど……ま、言わないようにしよう。


『ルオン殿、おそらく戦いに際し使い魔を飛ばし状況を捕捉しようとするじゃろう?』


 ――前回の戦いでも同じ方法をとっていた。しかし、それが上手くいっていなかった模様。ネフメイザの妨害にあったということだ。


『それを想定していると考え、わしが今回作成した。使い魔を利用するのとはやり方が異なる故、成功する確率は高いと考える』

「……魔力を遮断されるとどうしようもないんじゃないか?」

『その辺りは、腕の見せ所よ』


 アナスタシアが自信満々に言う。顔は見えないが、きっとドヤ顔しているに違いない。


『あ、そうじゃ。エイラドもいるから心配するな』

『どこかのタイミングで合流するとしよう』


 エイラドの声。俺はわかったと告げると、アナスタシアがまたも言った。


『これである程度連携もできる……では、最後の作戦会議を始めるとしよう――』


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