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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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少女の一言

 会食、ということで採用された部屋はちょっとばかり広い客室。どこか堅苦しい雰囲気で始まったのだが、エクゾンも参加しないような形だったので、やがて空気は柔らかくなっていった。


「――障害となる精鋭の騎士に対し、色々と準備はできた」


 ステーキを口に運びながら、アベルが切り出す。


「今回俺自身が主役という形で、少し戸惑っている面もあるが……できる限りのことはやらせてもらう」

「ああ。俺も、この戦いで決着がつけられるよう頑張るよ」


 こちらの言葉にアベルは深く頷き、


「……これを機会に、少し尋ねたいことがある」

「どうぞ」

「ルオンさんは、この戦いが終わったらどうするんだ?」


 ――世間話といった雰囲気。深い意味はなかったのかもしれないが、ソフィアやリチャルが少しばかり反応するのを俺は察した。


「現時点でこれ、と決めてはいないな。けど、やろうとしていることはある」

「なら、それに注力するというわけか」

「ああ。悪いけど決戦後のことには付き合えないぞ」


 アベルが皇帝として即位して以降、大陸の状況から考えて厄介なことになるのは自明の理。よって彼としては協力してもらいたいのかもしれないが……。


「そうか、残念だな」

「けどまあ、少しくらいは帝都にいるだろうから、その間は何かあったら動くよ」

「わかった……と、戦後のことまで色々悩むのは早いかもしれないが」

「いや、そういうことを考えておいても損はないさ」


 スープを飲みながら俺は語る――すると今度はユスカが質問を行った。


「ルオンさんは……ネフメイザや皇帝が憎い、という感情で戦っているわけではないんですよね?」

「んー、まあ確かに。俺やソフィア、そしてリチャルは恨み辛みという感情で戦っているわけでは無いな。ユスカはそうなのか?」


 沈黙する彼。ふむ、ゲームとは異なる形で反乱組織に身を投じた彼……一時期騎士になっていたこともあるし、戸惑っているのか?


「俺は……カトラをはじめとした『天の剣』の人々の声や、いろんな方々から話を聞いて……でしょうか」


 少なくとも、彼なりに思うところはあるみたいだな。


「迷いがあって躊躇するとかはさすがにまずいけど、大丈夫か?」

「そこは平気です」


 大きく頷くユスカ。なんとなくカトラに視線を送ると、彼女は頷いていた。心配するなということだろう。


「カトラは、どうだ?」

「私は、組織に入り戦い抜くと決めた時から変わっていません」


 決然とした声。その言葉を受け、アベルが同調するように語り始める。


「皇帝打倒という思いは変わっていないよ……そして、やり遂げることこそ、今まで組織に参加してくれた人達の報いとなる」


 力強い表情。彼の組織は一度崩壊しかかった。それを踏まえれば、覚悟は相当なものだと推察できる。


 一方、ユスカはアベルの態度に少しばかり複雑な表情を浮かべている。自分自身に強い感情がない――ということを、内心考えているのかもしれない。

 意志の強さは戦い抜く要素の一つではあると思うけど……考える間に、アベルはロミルダに話を振った。


「君は、どう思うんだ?」


 ――少女であることから、この場にいる面々の中である種浮いている面もあるロミルダ。全員が言葉を待つと、彼女はただ一言、


「……全部、守る」


 ポツリと漏らした言葉だったが、強い決意を秘めていると確信させるには十分すぎるほどの雰囲気を併せ持っていた。

 それ以上アベルは語らない。そこまで彼女を決意させることに疑問を感じた様子でもあったが……彼は「そうか」と答え、追及はしなかった。


 そこからは雑談のような趣となり、話自体も戦いとはそれていく。アベル達の組織にいる面々は俺やソフィアと色々話をしたかったらしいが、


「この調子だと、あまり話をしないまま終わりそうだな」

「かもしれないな……そういえばルオンさん、組織の面々は礼を言いたいらしい」

「礼?」

「侯爵との戦いを含め、ここまで挽回できたのはルオンさんのおかげだからな」

「……そっちの立ち位置的に問題ないのか? 俺が目立ってしまって」

「ああ」


 その辺りは上手くやっているということだろうか。


「それじゃあ、組織の人にどういたしましてと返答しておいてくれ」

「ああ、伝えておこう」


 笑うアベル。俺は小さく頷き……やがて会食を終えた。

 それぞれ動き出す中で、俺は部屋に戻ろうか迷う。少し話を聞いてもよさそうかな。


「あ、ユスカ」


 まず部屋を出ようとしていた彼に声を掛けた。


「ちょっと話、いいか?」

「はい」


 頷いた彼は、苦笑を顔に出す。


「もしかして、食事の時のことですか?」

「まあな。色々決意を持って動いている他の人に対し、自分は……みたいなことを考えているだろ」

「戦う理由はもちろんあります。けど、騎士をやっていた自分からすると、複雑な気分なんです」


 そう返答した彼は、表情を引き締める。


「ですが、手加減するようなことはしないと約束しますよ」

「そうか……ユスカは、戦いが終わった後とかどうするんだ?」

「正直、何をすればいいかわからないですね」


 頭をかく彼。そこについては俺もさすがに指示するわけにはいかないため、彼次第か。


「けど、しばらくカトラと一緒に動こうかと」

「カトラと?」

「訓練の間に色々と話ができて、感謝することもあったので」


 雰囲気は悪くなさそうだな……そういえば、ゲームでもカトラと結ばれるエンディングがあったなあ。


「そっか……共に頑張ろう」

「はい」


 頷いた彼を見て、心配なさそうだと思った俺は別所に。次は――


「お、いた」


 暗い庭園を見据えるアベルの姿。近寄ると彼は首を向け、


「……ルオンさん、食事の席で話をしたが、ここまでこれたのはルオンさんのおかげだ」

「感謝するのは全て終わってからだな……そして、アベルの場合は決戦の後が大変だぞ」


 途端、彼は苦笑する。


「正直、皇帝になってどうなるかはわからないな。侯爵達としっかり連携しないといけないことだけはわかるのだが」

「この大陸の行く末をいきなり託すのは心苦しいけど……」

「それが俺の役割なのだから、やりきるさ。ま、過労死しないように頑張ろう」


 冗談交じりに言った後、彼は俺へ視線を向け、


「……個人的には、ロミルダという少女が一番気がかりだ」

「ロミルダが?」

「彼女については侯爵から事情を聞いているよ。皇帝の竜魔石の力を所持し、なおかつ今回の決戦における最終局面を託すことになる……その力の大きさを考えると、適役だとは思う。だが先ほどの食事の席で見せた顔や決意からすると、ずいぶんとプレッシャーを感じているようにも思える」

「そこについてはソフィアや俺がフォローするか」

「……ルオンさんは決戦後、彼女をどうする気だ?」

「正直、俺もどうすべきなのか迷っている。ただ、皇帝の竜魔石の力さえも所持している以上、扱いについて大変なのは理解できるから、きちんとした結論を出し、アベルに伝えることを約束するよ」

「わかった」


 アベルは頷き、俺は彼と別れる。ロミルダと話をしようと思った時、廊下を歩く彼女とソフィアが。


「――ソフィア」

「あ、ルオン様。丁度よかったです」

「話でもするのか?」

「はい」


 ロミルダの表情は硬い。ふむ、どうなるか。


「……俺も参加していいか?」

「構いませんよ」


 賛同したソフィアは、ロミルダと共に廊下を歩む。俺はその後ろについて廊下を進み……やがて、ソフィアにあてがわれた客室へと入った。


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