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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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宝玉と剣

 俺達は屋敷の一室で、資料をテーブルに広げながら作戦会議を始める。この場にいるのは俺とソフィアにリチャル。さらにロミルダとアナスタシア。


「決戦時、資料通りの流れをとっているとしたら、ネフメイザはこちらの動向に気付いていないということで確定じゃ。人造竜が動き出したタイミングくらいで判断できるじゃろう」


 アナスタシアは語り出す……一番の問題は、バラすタイミングか。


「こっちが色々と情報を持っていることがバレた時点で、ネフメイザの所に急行したいな」

「うむ、エクゾンから連絡が来ているのじゃが、精鋭の騎士達について、策が成功する可能性が高まったと」

「本当か?」

「ロミルダに色々と頼んだらしいが、その辺りはどうじゃ?」


 侯爵の問い掛けに、ロミルダは首をすくめながら答えた。


「私が指導を受けたのは、持っている力を利用した竜魔石同調だけど……」

「ほう、なるほど。エクゾンめ、そうきたか」

「……どういうことだ?」


 こちらが聞き返すと、アナスタシアは眉をひそめた。


「ルオン殿、皇帝が所持する竜魔石については物語から情報を読み取っていないのか?」

「……物語の中で使用した能力は、ただひたすら強大な力を持つ竜魔石だった、ということくらいだ」


 名は皇帝にあやかって『竜帝石』とついているが、その実何か特殊能力を持っているというわけではなく、ただたすら力に特化したものだった。


「まあしいて言うなら、いろんな属性の魔法を扱えたりはしていたな」

「ふむ、ヒントはそこにあったな」


 ん、どういうことだ?


「皇帝が所持する竜魔石は、わしら四竜侯爵でも解明しきれていない……が、エクゾンは決戦に際し色々と調べたらしくてな。その中で他の竜魔石の力と同調することができるという能力がある。というより、これこそ『竜帝石』の能力なのじゃろう」

「同調……?」

「大陸に存在するあらゆる竜魔石の力を読み取り、その力を活用することができる……その他に竜人の魔力と同調し、ポテンシャル以上の力を発揮する……ルオン殿が物語で見たのはこれじゃな」

「それを応用すると、精鋭騎士の再生能力を封じることができるのか?」

「彼らの再生能力が、竜魔石にあるとエクゾンは考えたのじゃろう。わしの調べでもそれは当たっている」

「つまり、その竜魔石の力と同調することにより、魔石本来の力を封印することができる……と?」


 俺の言葉に、アナスタシアは頷いた。


「まあそういった理屈じゃな。これにはロミルダの竜魔石制御力が試されるわけじゃが……」

「一応、エクゾンさんが持っていた竜魔石で検証はしたよ」


 ロミルダの言及に、アナスタシアは頷く。


「報告によると、実験自体は成功したと」

「うん、いろいろな竜魔石の力を抑える実験をしたんだけど……魔力を抑えることに成功した」

「なら、精鋭の騎士達の力も……」

「たぶん、できると思う」

「これなら話はずいぶんと変わってくる」


 アナスタシアが怪しく笑いながら語る。


「要はロミルダが再生能力を封じる能力を行使するだけの時間を稼げばいい。それはどの程度だ?」

「長くて、三分くらい」

「ルオン殿、つまりその時間ユスカ殿達が食い止めればよい」

「三分か……」


 精鋭の騎士達が暴れ出さないように抑えれば、俺達の勝ちか。こちらにはユスカ達の援護もあるし、勝算は十分。


「そのくらいの時間なら、俺達が予定外の行動をしていてもネフメイザは対応できないかな」

「それについては戦況を見てみなければわからんところもあるが……例えばロミルダの魔法発動が早いタイミングで行われれば、ルオン殿が影を操る騎士を打ち倒した直後に突破できるかもしれんし」

「そうだな……」


 同じようにするといっても、事情を把握している俺達が完璧に前回の戦いをトレースすることは無理だろうし……そこでネフメイザがおかしいと気付いたなら、やり方を変えないといけない。


「ま、この辺りはユスカ殿達と会ってから話をもう少し詰めることにしよう……で、ルオン殿」

「どうした?」

「資料で、ルオン殿達はエクゾンと共に帝都へ赴くことになっておる。決戦前にそちらへ移動しておいてくれ」

「わかったけど……その前にロミルダに竜魔石を結集した武具を渡しておくべきだな。そっちはどうだ?」

「うむ。では移動しよう」


 席を立ったアナスタシアに、俺達もまた追随し部屋を出る。

 そして赴いたのは地下室。石造りの室内で感じられるのは濃密な魔力。


「竜魔石の魔力を集結させ、しばしなじませる必要があったのじゃが……先日、ようやくそれも終わった」


 台座のような物に設置されているのは、剣や槍といった武器ではなく――見た目、水晶球のようなものだった。


「名前は、そうじゃな……竜宝玉というのはそのまますぎるかのう。ルオン殿、何か案はないか?」

「俺?」


 気付けば、全員の視線が俺に向けられている……ちょっと待て、この流れはなんだ。


「この戦いの表の主役はアベル殿。裏の主役はロミルダとルオン殿達じゃ……その中でリーダーをやっているルオン殿の意見は参考にすべきじゃろう」

「すぐに思い浮かばないって」

「ふむ、そうか? まあ便宜上『皇竜玉』とでも呼んでおくか」


 もうそれでいいんじゃないかと思いつつ……言葉を待つ。


「これは至極単純に、使用者本人の力を活性化させるものじゃ。とはいえ、使用者については限定してある。自在に扱うことができるのは、皇帝候補だけじゃ」


 そう言いながらアナスタシアは皇竜玉に手を置く。


「まあ、ネフメイザと対峙する人物が持つべきじゃから、これを使うのはロミルダに決定なのじゃが……一つ問題があってのう」

「魔力だな」


 俺の言葉にアナスタシアは首肯した。


 この部屋に満たされている魔力からすぐにわかる。要は魔力を隠すような処理をしていないということだ。


「これだけ膨大な力を持っているとなると、物に直接そういう処理をするのも一苦労でな。さすがにこればかりは戦いに間に合わん。よって、使う時までは箱で厳重に封をしておく必要がある」

「ネフメイザとの決戦までは隠しておくべきだろうから、それでいいんじゃないか?」

「うむ、そうじゃな……本来ならいつ何時でも使えるようにしておくべきじゃったが、申し訳ない」


 そう言いながらアナスタシアは近くのテーブルに置いてある四角い箱を手に取った。見た目金属っぽい。


「ロミルダ、この箱の中に入れておく故、常に持ち歩くように」

「うん」


 とりあえず、彼女については準備が整ったか――


『ルオン殿、こちらも一つ報告が』


 ガルクの声だった。俺の右肩に出現し、


『我から少しやってもらいたいことが』

「やってもらいたいこと?」

『うむ、魔法陣を作ってくれ』

「何のために?」


 聞き返すと、ガルクはソフィアへ視線を移す。


『本体と再び連絡をとることができたのだが……上手くいけば、神霊の剣をこちらに転移させることができるかもしれん』

「あの剣を?」


 ソフィアが目を見開く。ふむ、竜精と組み合わせ神霊の剣があれば心配はいらないが。


「転移魔法を使うのか?」

『ああ……言っておくが、ルオン達のように生きている存在を転移させるのは無理だぞ』

「けど、武器とかならできると……わかった。早速やろう」

「どのような武器なのか気になるのう」


 興味津々のアナスタシア。俺は肩をすくめ、仲間に言う。


「それじゃあ外に出て準備をしよう……あ、リチャルも手伝ってくれ」

「無論だ」


 そうして、俺達は部屋を後にした。


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