イベント検証
翌日、俺達は盗賊に関して調査を始める。
といっても俺はどこに行けばいいか知っているので、ソフィアに提案し次のイベント発生場所である詰所に向かう。前世で言う所の交番と役所が合体したような所であり、兵士の数は魔物の存在に加え盗賊騒ぎがあるためか、町の規模に比べてそれなりに多い様子。
中に入り、受付の人に俺は尋ねる。
「盗賊に関する情報はありますか?」
「……遭遇しましたか?」
問い掛ける受付の男性。ここで俺は首を振り、
「いえ、ただ話を聞いたので自衛のためにと思いまして」
「旅のお方でしたか。わかりました。事情を――」
そこまで述べた時、横にある扉が開き奥から男女が現れた。
「ともかく、この件については俺達の方で――」
「それについては後日改めて話を伺います。今はひとまず帰ってください」
ノグとキャルンだった。おそらく二人は詰所の方に用があって町に来たのだろう。
「お前さん方、俺達の仕業だと思って警戒していないか?」
「そちらの説明については改めて検証しますので……」
内容的には、昨日飯屋のおばさんが言っていたように用心棒が暴れていると兵士が認識し、その弁明に来たといったところだろうか。
口論になりそうだったのだが、先にキャルンが俺達の存在に気付き「あっ」と気まずそうに声を上げ口が止まった。
「どうも」
会釈する俺。するとノグもこちらに気付き、
「あ、えっと……」
まずい、と思ったのかちょっと慌てた様子。キャルンがスリを働いた以上、それをここで主張したらノグ達の弁明は最早意味を成さない。最悪このまま捕まってもおかしくない。
「ああ、その節はどうも」
ソフィアが言う。それによってキャルン達は硬直する。
「この方々とお知り合いですか?」
兵士も興味を抱いたか声を上げる。俺はソフィアに視線を向ける。スリを働きましたと言ったらイベントどころではないのだが――彼女はにこやかに口を開いた。
「いえ、道に迷い魔物と戦っていたところ、お二人に助力していただきまして」
「……ほう」
兵士が興味深そうに呟く。一方ノグ達は多少驚きつつも九死に一生を得たような雰囲気と共に愛想笑いを見せる。
「そうですか……ノグさん。さっきも言いましたが検証は行います。今日は帰ってください」
「……わかりました」
承諾し、ノグ達は詰所を出る。俺とソフィアはアイコンタクトを交わし、俺は受付の人に言う。
「……お二人と話したいので、盗賊の話は今度にします」
「わかりました」
承諾したのと同時に俺達も詰所を出る。すると目の前にノグ達が立っていた。
「……助かりました」
「いえ、こちらも少しお話がしたかったので」
ソフィアが言う。スリをされた当人が言っていることで、ノグ達は訝しげな態度を見せる。
「盗賊についてです……あなた方は濡れ衣を着せられ、今回用心棒として詰所に弁明をしに来たということでいいのですよね?」
「……そういうことですね」
ノグは丁寧に返答。ならばと、ソフィアはさらに問う。
「その辺り、詳しく聞いてもいいですか?」
「首を突っ込むの? やめた方がいいと思うけど」
キャルンが横槍。それにノグも同意するのかうんうんと頷いていたりする。
……詰所からの流れ、会話の細部は違えどゲームとほとんど同じ。ゲームではここで選択肢が出現し、関わらない選択をするといったんイベントが終了する。とはいえ彼らは酒場にいるので、そこで話を聞けば再度イベントは再開する。
「――彼女と俺は、ちょっとした事情で旅をしているわけだが」
ここで俺が口を開く。
「騎士とか治安維持を行う人間の関係者でね。厄介な盗賊団とか、そういうのに敏感なんだよ。もし良かったら、何かしら協力してもいい」
そこまで言うと、ノグ達は驚き目を見張る。対する俺は、ここぞとばかりに続ける。
「役人と話をしに来たくらいだから、色々と困った事態になっているんだろ? 俺達としては見過ごせない問題だし、放っておけない……腕の方はそれなりに持ってる。役に立つと思うけどね」
「……ちょっと、待ってもらってもいいですか」
ノグが俺達を制止すると、すぐさま背を向けキャルンと相談を始める。
いきなりこういう提案をされても困るだろう……けど、実際のところゲーム上のイベントもこんな感じだったんだよな。主人公ごとに会話の細部は違っていたんだけど、こんな風に話をしたのは一緒だ。
彼らが相談している間に、ゲームならとある騒動が起きる――ここで俺は、イベントがゲームのように進行するのかを検証できると思った。
これまで俺はゲームにおける主人公達のメインイベントと関わった。その結果、下手に介入しなければ大筋ゲームの通りになるとわかった。
だが、サブイベント……しかも主人公ではない人物が関わった場合、ゲーム通りに進行するのか。しかも今回の場合、ゲームとは異なる場所。この場合内容が変わってしまうのか、それとも俺の知識通りなのか……確認しておいて損はないだろう。
今の所、筋書き通りに進んでいるが、果たして――考えていると、一人の兵士が詰所へと走り寄ってくる。お、これはもしや。
「す、すみません!」
兵士は周囲の人へ謝りつつ詰所の中へ。同時、遠吠えが聞こえてきた。
「魔物、か?」
ノグも話し合いを中断し呟く。
「ソフィア、行くぞ」
すかさず俺は彼女に告げ、走り出す。追随するソフィア。それと共にノグ達もまた動く。
現場は町の入口。どこから来たのか、灰色の毛並みと濁った緑色の瞳を持った魔物が存在していた。
灰色の毛並み、といっても単なる動物とは違うというのが如実にわかるのは、所々毛先がハリネズミのように鋭く尖っているためだ。魔物の名前は『ニードルウルフ』で、こいつは動物からの発展形ではなく、魔王や魔族の進攻によって出現した仮初めの生物である。
魔物のレベルとしては雑魚。俺はもちろん、ソフィアにとっても取るに足らない存在だが、数がそこそこ多い。ゲームでは確か四体だったはずだが、目に見えているのは倍の八体……この辺りはさすがに同じじゃないようだ。
「ひとまず、倒そう」
「はい」
こちらの言葉に剣を抜くソフィア。合わせて俺も剣を抜く。兵士達が戸惑っている間に、ニードルウルフ達はこちらに気付き襲い掛かってくる。
「今のソフィアなら二度三度決めれば倒せる相手だ」
「わかりました」
返答と同時にソフィアは先行する魔物へ迫る。その魔物が口を大きく開けようとした瞬間、剣を縦に薙いだ。
頭部に斬撃。だがさすがに一撃とはいかなかったが、大きく怯ませることには成功し、連続攻撃を仕掛ける。
今度は横薙ぎ。それによって魔物はあっさりと消滅した……さすがに本職の剣士や騎士のレベルには到達していないが、それでも単調に攻め込んでくる魔物相手には楽勝の様子だ。もうこのレベルの魔物は敵じゃないな。
続けざまに迫る魔物にも一撃食らわして、今度は魔法『エアリアルソード』により魔物の体を撃ち抜く。さらに周囲にいた魔物も数体巻き込み、動きを大きく鈍らせる。
その中で俺もまた動く……前回の反省点を踏まえどう戦うか検証することにする。
向かってくるニードルウルフと相対。真正面から襲い掛かる魔物に対し――俺はまず、魔法で応じた。
光属性下級魔法『ホーリーショット』――白い光の弾丸を相手に食らわせる魔法。基本的な威力は下級魔法なので推して知るべしだが、俺なら目の前の魔物は基本一撃……ただし、頭部か体にきちんと当たれば。
狙いは足。魔物の進攻速度に合わせ放った魔法は、狙い通り右前足に直撃し、体勢を大きく崩した。
よし。俺は心の中で呟くと同時に頭部へ一閃。魔物を撃破する。
――例えば炎系の魔法の場合、『フレイムニードル』でも着弾すれば火炎が体に広がる。よって当たり所が悪くても炎に巻かれ一撃という可能性が存在する。
しかし『ホーリーショット』は違う。余波がないので狙った部位だけを破壊することができる――他の魔法でもいいのだが、俺が一番得意な光魔法の方が目論見通りになりやすいだろうと思い、選択した。
結果は成功。適度に部位を破壊しつつ、斬撃で決める――こうして立ち回れば、少なくとも遺跡のように疑問に思われる可能性は低くなるはずだが……この辺り、もっと考える必要がありそうだ。
さらにキャルンやノグもまた戦う。キャルンは短剣、ノグは長剣で……二人は魔法を使うこともなかったが、レベルもそれなりにあるのか対して苦労せずニードルウルフに対処できていた。
魔物の数は八体だったが、俺達はさほど苦労することもなく……時間にして五分にも満たない戦闘により、殲滅することに成功した。




