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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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侯爵の提案

 会議室に場所を移した俺達は、席に着き話を始める。


「まず、俺が得た情報について説明するよ」


 そう前置きして、俺はユスカ達に騎士の詳細を語り始める――結果、まずコメントしたのはアベル。


「周囲の人々を無理矢理巻き込むことで、動きを制限するのか……どう動く?」

「一番重要なのは遭遇した直後だ。影使いさえなんとかすれば人々の避難はできるから、やりようはある」

「次に問題となるのが再生能力だな」


 エクゾンの指摘。俺は小さく頷いて、


「騎士の魔力は無尽蔵というわけじゃないから、長期戦に持ち込めばいずれそれもできなくなるが……そこまで待っていたら敵の思うつぼだ」


 そう述べた後、俺は息をついた。


「やり方は二つある……その再生能力そのものを封じるか、騎士の動きを封じるか」


 ――前回の戦いは、驚異的な再生能力を持っていたが故に足止めを受けた。資料によれば、最終的に勝負を決したのは俺の火力により再生能力そのものを使えなくしたからみたいだが……そこまで悠長に戦い続けるわけにはいかない。


「動きを封じるのは暴れ出すリスクがあるから、できれば再生するのを防ぎたいけど……」

「ルオン君、アナスタシアはそれについて何か言っていたか?」

「まず再生がどういうメカニズムなのか解明しないと難しいと語っていたな。ちなみに、動きを封じる手法はある」

「その方法とは?」

「竜魔石を活用し、魔法を使うらしい……侯爵が開発した魔法らしく、精鋭の騎士だけを封じることができるものらしい。ただ、準備に時間が掛かる上に、事前に仕込むとかも無理だ」

「戦闘している最中に魔法を使う必要があるわけか」


 エクゾンが腕組みをしながら述べる。


「アベル君の組織に魔法使いもいるだろう。彼らに頼めばいいとは思うが……アナスタシアが開発したとはいえ、単に動きを封じるだけでは通用しない可能性もある」

「だが、再生能力を封じるのは相当難易度が高いぞ」


 アベルの主張。それはもっともな話……リターンはでかいが、仕方がない。


「方法が確立されていない以上、ひとまず動きを止めるやり方を前提で話をしよう」


 俺の言葉にエクゾンは頷き、語り始める。


「まず影を使う騎士をルオン君が倒して機先を制し、さらに動きを封じる魔法を構築し始める。騎士達はルオン君を食い止めるべく暴れ回るだろうから、人々を避難させながらユスカ君達が動きを縫い止める、といったところか」

「俺達がどうにかできるのは一人だろう。誰がどう戦う?」


 アベルの問いに、俺は少し考えてから述べる。


「最初に連携を崩さないといけない。アベルの創奥義を使ってまずは分断を図る。奥義の動きを制御できるなら、それも可能だろう?」

「ああ、できるはずだ」

「続いて一対一の戦いに持ち込む……精鋭の騎士はそれぞれ特性があるけど、それを逆手にとれば戦いを楽にできるはずだ」


 俺はこれまで出会った精鋭のことを思い浮かべながら続ける。


「火属性と地属性の二人はおそらく前衛……次いで、水というか氷を扱う騎士は足止め役。で、風が遠距離からの攻撃を得意とする。一番面倒なのは氷を扱う騎士だ。動きを止められたらその時点でまずい」

「影を使う騎士の次に狙うべき相手か」


 アベルが言う。俺は首肯し、


「ヤツの氷を抑える人物が必要だ。俺もフォローに回るけど、専任で戦う人物を決めておくべきだな……そこでユスカ」

「はい」

「さっきの戦いで最後に見せた創奥義、どのくらい連用できる?」

「ある程度出力を絞れば、何度も使用できますが……」

「あと、光の粒子自体にも衝撃波が存在するってことでいいんだな?」

「はい、そうですね」

「ならユスカ、氷の騎士については任せる。さっきの技、発動さえすれば衝撃波などで氷を砕くことができるはず」

「創奥義を駆使すれば、拘束はされないというわけだな」


 エクゾンの言葉に、俺は「そうだ」と答え、


「カトラは地の騎士だな。直接攻撃を得意とするみたいだから、創奥義で封殺できる」


 近寄らせなければ対処は容易だし……残るはアベルか。


「アベル、創奥義を使って火の騎士を担当してくれ」

「火属性となると、無差別に攻撃しそうだな」

「ああ。放っておくとこちら全員を巻き込みそうな勢いだからな……アベルなら技を制御してどうにかできるかなと思う。そして風の騎士は……もう一人の剣士に頼むさ」


 ただ、あくまでこれは理想論。戦況次第でどうにでもなるし、こちらの思惑通りにいくとは限らない。


 情報を手に入れたことで対策はできるようになったが、さすがにこれだけで思い通りに物事を進めるのは難しいか……そう思っていた時、エクゾンが言った。


「ルオン君、質問がある。仮に動きを封じるという方針でいく場合、完全に騎士達の動きを縫い止めるまでは君も共に戦うのか?」

「そのつもりでいる。四人の騎士達の動きを止めながら、なおかつ人々を避難させ、魔法を完成させる。俺やロミルダがすぐさま急行しても、騎士達を押しとどめられなければ、多数の犠牲者が出るし、追撃される可能性も――」

「この戦いについてだが、私に任せてもらえないか?」


 唐突な申し出。エクゾンに視線を送ると、彼は笑った。


「ルオン君が影を使う騎士を倒した後、すぐさまネフメイザの下へ行けるよう上手くやってみよう」

「……本当か?」


 何か手がありそうなエクゾンの様子。すると彼は頷き、


「再生能力を封じる方法も、少し調べてみる。一つ案も浮かんでいるのだが……それにはロミルダ君の力が必要になってくる」

「彼女が?」


 ――皇帝の竜魔石の力を所持している以上、エクゾンなりに応用できると考えたのかもしれない。


「ひとまずルオン君が立てた案で動くものとして……もし私の考えが上手くいくなら、そちらの方針に切り替えてもいいか?」

「ああ、構わない……ただ失敗は許されない以上、どちらの案でも動けるようにはしておいた方がいい」

「無論だ。そしてロミルダ君に色々と協力を仰ぎたいんだが……」

「わかった。俺が話をしてくればいいのか?」

「竜魔石の回収が終わった後で構わない。数日中には終わるだろう?」


 俺は頷く……さて、とりあえず方針は決まった。精鋭の騎士にどう対応するか明確になったので、以後の鍛錬はそれを中心にするだろう。


「それじゃあ、話もまとまったから俺は行くぞ」

「ああ」


 エクゾンが軽く手を振る。俺はユスカ達に「頼む」と一言告げた後、部屋を出た。


「さて……」


 竜魔石の回収だ。まあ移動ルートなども決定しているし、俺ならさして問題ない。


 そして――味方になった侯爵とアベルを初めとしたゲームの仲間達が一丸となって決戦に向け準備を行う。また今回の戦いはネフメイザと同様過去に戻ってきたロミルダがいるため、情報という観点で俺達がアドバンテージを握っているのは間違いない。


 だが、もし仕損じればネフメイザはそうした情報を持って同じことを繰り返すだろう。


「絶対に、今回で決着をつけないと」


 移動しながら俺は呟く。


 決戦まではそう時間もない。あっという間にその時期がやってくるだろう。

 それまでにどれくらい準備ができるのか……ともかく、今は少しでもネフメイザの裏をかけるよう行動するだけだ。


 魔法を用いて俺は目的地へと疾駆する。体力は問題ない……だから俺は、少しでも急ぐべくさらに魔法の出力を上げた――


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