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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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少女の言葉

 俺達はザウルと別れ、アナスタシアの屋敷へと戻ってくる。それから少しばかりのんびりし、夕食前になって呼び出された。

 部屋には俺とソフィアに、リチャルとロミルダ。そして向かい合う形でアナスタシアが話を始める。


「状況の確認じゃ。エクゾンから報告がきた」


 ユスカやカトラ達についてかな。


「アベル殿を始めとした反乱組織の知名度云々については、かなりのレベルにまで到達した。エクゾンが上手くやったのは間違いなく、このままいけば決戦までに相当な支持を集めることができるじゃろう」

「なら、決戦後のことは解決か」

「あとはアベル殿がしっかりしてくれれば、な」


 そこが一番の問題かもしれないが……アナスタシアはニヤリとなった。


「フォローは入れる。心配するな……さて、ユスカ殿達の鍛錬も順調に進んでおるようじゃが……はてさて、騎士に対抗できるのか」

「そこは、直に見てみないとわからないな」

「どこかで一度確認しておくべきか」


 腕を組むアナスタシア。少しばかり何かを考える素振りを見せた後、続ける。


「まあよい。では次じゃ。現在ネフメイザの動向については資料通りに進んでおる。竜魔石のすり替えについても、気付かれてはいない様子」


 そこで視線を落とす。机の上には、竜魔石が一つ。


「ナシア、よいか?」

「ええ、どうぞ」


 喋り始める竜魔石。事情がわかっていないと不思議な光景だな。


「偽の竜魔石は、既に人造竜へ投下されたのじゃな?」

「ええ。簡単に魔力を確かめられてから問答無用でね」

「入り込んだ竜魔石の魔力に、おぬしの分身とでも言うべき魔力を仕込んであるはずじゃが。中がどうなっているか説明できるか?」

「ええ、まあ。一応、解説できるけど」


 お、それは面白そうだ。言葉を待っていると、ナシアは話し始めた。


「人造竜の中に取り込まれた後は、暗い空間を漂っている感じね。魔力の中を漂っているということかも」

「何か……そうじゃな、その中で魔力の中心となっている場所などはわかるか?」

「魔力の流れは不定だから難しいわね。それと、自由に移動するのは難しいかな」

「ナシアを利用して、何かをやるというのは厳しいってことでいいんじゃないか?」


 俺の言葉に、アナスタシアは小さく頷きつつも、


「とはいえ、中にいることでわかることもあるじゃろう……決戦において人造竜が動くタイミングや、どういったことをするのかを……何かあれば報告を」

「ええ、わかったわ」


 ナシアについては以上か。ま、元々組み込む予定なんてなかったことなので、これは仕方がない。


「ふむ、ルオン殿やソフィア王女も順調とくれば……ひとまずやれることはやっている状況じゃな」

「ではこの後、どうする?」

「以降は各々がネフメイザを打ち破れるよう鍛錬……じゃが、ルオン殿には色々と働いてもらうか」

「……竜魔石を取ってくるのか?」

「うむ」


 頷くアナスタシア。その表情は嬉々としている。


「資料に精鋭の騎士達がどこの竜魔石を奪取したか記載してある。逆を言えば、それ以外の場所は如何様にもできるというわけじゃ」

「で、俺が取ってくるんだな」

「まあそうじゃな。そう難しい仕事というわけではあるまい」


 それはそうだけど……これも最高の武具を作るためか。


「竜魔石を結集した武具の作成については、ある程度余裕を持ってとりかかる。それまでにできる限り竜魔石を集めておきたいところ。ルオン殿の頑張りに期待しよう」

「わかったよ」


 これから慌ただしいかもしれない……そんなことを思っていた時、ソフィアが手を上げた。


「ルオン様、一つご質問が」

「何だ?」

「時を巻き戻す魔法について詳細は?」

「それについてはガルクの報告待ちなんだが――」

『ルオン殿、ちょっと待ってくれ』


 ガルクの声。気付けば俺の右肩に出現している。


『実は連絡がとれそうなのだ。もう少々待ってもらえないか?』

「少々って……どのくらい?」

『今日中にはどうにかできる。もし結論が出れば報告しよう』


 お、ここでも前回との戦いとは異なる要素になりそうだな。


「では、ガルク殿が情報を得るまで待つことにしよう」


 アナスタシアはパンパンと手を叩き、話をまとめる。部屋を出て、どうするかなと考えていた時、ソフィアが話し掛けてきた。


「ルオン様、ご相談が」

「……どうした?」

「ロミルダのことです。決戦の日が近づくにつれ、少しずつですが思いつめた表情が増えています」

「……唯一決戦の詳細を知っているからな。緊張しているのも頷けるけど」

「事情を聞いてみるべきか……しかし資料をしたためたリチャルさんは、なぜ頑なに語ろうとしなかったのでしょうか」

「リチャルが現場にいなかったため、詳細を語ることができないというのもあると思う。それと記すとまずいことになる、とも考えたんだろうな」

「――どうするかは、ルオンさんに任せたんじゃないか」


 ここでリチャルが話に割って入った。


「前回の戦いで何かがあったのかは資料を読めば大体予想できるし、前回の俺だってルオンさん達が資料を読み気付くと思っただろう。それに――」

「それに?」

「侯爵に渡す資料だからな。ルオンさん達の詳細についてはあえて省いたと考えることもできる」


 ……意図がどうであれ、最終的にどうするかは俺達に一任したと考えるべきか。


「そうだな……改めて、ロミルダから話を聞いてみるか」


 結論を出すと、ソフィアもリチャルも頷いた。






 夕食後、俺達はロミルダを誘って部屋でお茶を飲むことにした。リラックスするようなハーブティーを飲みながら話をすることにしたのだが……ロミルダはこれから何を話すかわかったらしく、ガチガチに緊張している。


「……あー、ロミルダ」


 苦笑しながら俺は口を開く。


「そもそも、リチャルが記した資料からどういうことがあったのかはおおよそ推測がついている。それを防ぐために俺達は色々準備しているわけだが」


 そこまで言うと、ロミルダは俺達に視線を移した。


「……私」

「ルオン様がどうにかなったというのは考えにくいですから、私の身に何か起こったと考えるのが筋ですね」


 冷静なソフィアの言葉に、ロミルダはビクリとなる。


「口に出すのは怖いと思うのは理解できます。ですが、話してもらえませんか?」

「……その」


 対するロミルダは、どこか不安な面持ち。


「私も、詳しいことはわからない……誰に聞いても、詳細はつかめなかった」


 ――ソフィアが俺と別行動であっても、使い魔くらいは側にいると思うのだが……ネフメイザが何かやって、情報をつかめないようにしたのか?


「つまり、何が起こったかわからないけれど、結果は知っていると」


 ソフィアの言葉に小さく頷くロミルダ。その時の光景を思い出してか、またも体を震わせる。


「……どうやら、私は相当な出来事に遭遇したようですね」


 彼女の言葉に、ロミルダは表情を変えることなく続ける。


「戦いの中で、何かが起こったみたいだけど……リチャルさんは何かをされる前に倒そうという考えに至ったみたい」

「ネフメイザが動き出す前に倒すというのは、資料からも読み取れるな……ふむ」


 口元に手を当て考えてみる。リチャルはソフィアに策を施し、なおかつネフメイザが事を起こす前に勝負を決めるべく助言した。だからこそ精鋭の騎士をどうにかすべく戦力を補強し、さらにネフメイザ自身を打倒するべく強力な竜魔石の武具を作る。


「ネフメイザは、戦いの後どうなったんだ?」

「逃げられた。それもどうやってなのかはわからない……」


 申し訳なさそうに語るロミルダ――その時、ふと、思い至ることがあった。


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