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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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潜む竜

 突如発生した魔力に、ソフィア達は周囲を見回す。俺もまた席を立ち、魔力の発生源をつかもうとして――


「……おい」

「お、気付いたか」


 アナスタシアが言う。魔力がどこから発せられているのかわかっている様子。


「わしは竜魔石を普段から利用している身じゃから、すぐに気付けたが……ザウル、お前趣味が悪いな」

「そうか?」


 飄々(ひょうひょう)と応じるザウル。やがて俺にもその場所が理解できた――刹那、


 見事な景観を見せていた湖の水が、盛り上がった。


「湖の中から……!?」


 驚くソフィア――護衛か何かで潜ませていたか。

 やがて竜が姿を現す……手足と胴体がある漆黒の西洋竜。目は青く輝き、本能だけで動いているような野性的な色を見せている。


 ソフィアやリチャルからすれば驚愕するような状況だと思うけど……なんというか、俺にとっては特撮系の怪獣映画を思い出すなあ。それがリアルな光景として目の前に広がっている。


 そして、確実に言えることが一つ。

 景観、ぶち壊しである。


「驚いてもらって結構結構」


 満足げにザウルが言う。


「湖の中に仕込ませていた甲斐があったというものだ」

「……楽しそうだな」


 俺の言及に、ザウルは嬉々として頷いた。


「君はそうでもないようだが、君の仲間達が驚く姿を見て私は満足だ」


 とりあえず、コイツと趣味が合うことはなさそうだな……しかし、なんというか、俺としては全てをぶち壊しにする竜を見て、ため息をつきたくなった。


「ルオン殿、頼むぞ」


 アナスタシアが言う。俺は小さく頷き、歩き出す。


「ルオン様、お気をつけて」


 背後からソフィアの声を聞きながら俺は庭園を出て湖のほとりへ。漆黒の竜は俺を見据え、警戒を露わにして唸り始めている。

 さて、どうしようか……といってもこの竜は腐ってもザウルが生み出した竜。当然、竜魔石を含んだ武器でなければ倒せない。


 えっと、普通の武器で攻撃しても再生するんだったかな? 手持ちにあるのは全力を出せない剣だけだが……ま、やりようはある。

 俺はまず詠唱を開始する。対する竜はさらにうなり、大きな口を開けた。


 ブレスでも吐くのかな――と思った矢先、予想通りに炎が俺へ飛来する。

 それを横に跳んで避けると、俺は魔法を発動させる……すると、突然湖が凍り始めた。


「普通の時よりも、明らかに威力が高そうだな」


 使った魔法は氷属性最上級魔法『スノウユグドラシル』。氷が一気に湖へ浸食し、あっという間に轟音と共に竜を丸ごと飲み込んだ。

 これで動きを止めた……が、終わっていない。さらに竜も竜魔石の力を活用した魔法ではないためか、ピシピシと氷に細かいヒビが入り始める。


 だが俺はそれに構わず走り出す。魔法により湖の表面が大きく凍り、俺と竜の間に阻むものはない。

 竜はまだ氷の中。けれど少しずつヒビが大きくなり始めこのまま放置すれば脱出を果たすだろう。


 だがその前に、俺は仕掛けた。


「――ふっ!」


 剣を振りかぶり放ったのは風の刃。剣が耐えられるだけの魔力を注いだわけだが……なんとなく、いけるという予感がした。


 刃は竜の首付近に存在する氷に直撃する。傍から見れば氷を貫通しても強固そうな竜のウロコによって刃が弾かれ、多少傷を負わせた程度になる……と思うところだ。

 だが結果は違った。風の刃は易々と氷に入り込み、その勢いのまま首から上を氷ごと両断した。


 その瞬間、氷が溶ける。さすがに首を両断したため、竜はあっさりと消滅した。


「……よし」


 これで終わり――と言いたいところだが、まだ続きがある。


「ならば、これでどうだ?」


 背後からザウルの声がした……次の瞬間、氷が存在していない湖面から、新たな竜が一気に出現する。


「やりたい放題だな……」


 そんなことを呟く――リチャルが残した前回の戦いにおける資料から、こうなると書かれていたので衝撃度は少ない。

 またその見た目は、さっきと違う。先ほどが黒だったが、今度は真紅。どちらが強いのかはわからないが……。


「さあ、次の竜も討ってみせよ」


 背後からザウルの声が聞こえてくる。自分が生み出した竜を倒されているというのに、平然としている様子。

 ふむ、その様子から考えると消されても問題ないくらいの力なのかな……考えながらも俺は二体目へ向かう。雄叫びを上げた竜に対し同じように『スノウユグドラシル』を使用して、一気に凍りづけにする。


 だが、全身を覆うべくせり上がった氷が、突如砕けた。しかも竜は熱を発し、なおかつ魔力をみなぎらせる。


「氷で動きを止めることはできないか……ふむ、侯爵の持つ強力な竜魔石から作られた竜であることと、熱もあって抵抗力が高いのかな?」


 なら別の属性で……と思った矢先、竜が反撃に出た。俺が凍らせた氷を踏みしだき、猛然とこちらへ突き進んでくる。


 ……このままよけたら間違いなく屋敷へ向かうな。ザウルもさすがに止めるとは思うが、ちょっとばかり不安なのでここで押し留めることにしよう。


 そう考えながら発動させたのは――風。俺の周囲に乱気流とでも言うべき豪風が生じ、それが俺と竜を取り巻き始める。


「ここは通さないぞ」


 明言と同時、俺は魔法を解放する――風属性最上級魔法『ゴッドサイ』。本来は頭上から途轍もない力を持った多量の風が敵を押し潰すがごとく降り注ぐのだが、今回は多少アレンジして俺の正面で発動させた。


 刹那、竜の動きがピタリと止まる。より正確に言えば動こうとしているみたいだが、風が竜の周囲に滞留し、動きを制限する。

 ゲームでは風が一挙に敵へ降り注ぎ圧殺するような魔法だったが、少し応用すれば大量の風を利用し敵の動きを封じることができる……神の力によって生み出された風の牢獄、といった感じだろうか。


 こうなればあとは楽勝。身じろぎ一つできない竜に対し、俺はゆっくりと刀身に魔力を注ぎ、構える。


 先ほどの竜と耐久力にどの程度違いがあるのか……考えながら俺は剣を振った。竜魔石の力を含んだ風の刃が風の牢獄をすり抜け、竜の首下に到達する。


 そして――あっさりと頭部を両断した。か細い悲鳴のような声が響き……竜は力をなくしたか、風に抵抗する動きも見せなくなった。

 魔法を解除。すると頭部をなくした竜がゆっくりと傾き始め……倒れながら、消滅していった。


「……ま、こんなところか」


 俺は握りしめる剣を眺める。とりあえず竜にトドメを刺すくらいの威力を出すことはできたな。

 俺は凍った湖の上を歩いて庭園へと戻る。ソフィアが「お疲れ様でした」と呼び掛けてきたので、俺は手を上げて応じた。


「こっちに被害は?」

「まったくありません」

「――しかし、ずいぶんと用心なヤツじゃな」


 アナスタシアがザウルに発言した。


「湖に作成した竜を潜ませるなんぞ……よもやわしを消そうと考えていたのか?」

「いやいや、さすがにそんなことはせんさ。反乱軍が活況ということで警戒し、潜ませていただけの話」

「護衛というわけか。じゃが、そいつらを失って問題ないのか?」

「代わりはいるからな」


 ……ふと、ネフメイザから何か聞いているのだろうかと疑問に思った。けれどザウルはそれについて言及することなく、俺達へ告げる。


「実力、しかと拝見させてもらった。帝国を打倒するのに十分な力の持ち主のようだな……いいだろう、さっきも言ったとおりどちらが勝っても問題ないよう立ち回るつもりだが……それなりに協力はしよう」


 笑みを顔に出すザウル……とはいえ、言葉と裏腹にその雰囲気はどこまでも怪しいものだった。


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