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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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新たな出会い

 翌日から俺とソフィアは精霊ノームと契約するべく旅を始める。


 ゲームの主人公達の動向は今の所シナリオ通り順調に進んでいる……今後はメインシナリオ以外にも様々なイベントが主人公達を待っている。とはいえキャラごとのメインシナリオはあれど最終目的は五大魔族及び魔王の撃破。五大魔族に挑むようなイベントに遭遇するかを逐次確認していく必要があるだろう。


 一番大切なのは、誰が最初に五大魔族に挑むのかということ。そのままの流れで倒した場合はその人物がシナリオの中心……言わば現実世界となったこの大陸における主人公という立ち位置で間違いないだろう。それが決まったとき俺はどうするべきか……今の内からしっかりと考えておかねば。


 また、遺跡における戦いで俺の気配に関する問題も出た……レーフィンとも相談したが、どうも俺が発する「何か」は手に入れたアーティファクトなどでも解決できないらしい。試しに着けてみたが効果なし。おそらくステータスが振り切れているため、アーティファクトの力でカバーできないのではと推察する。


 これについては、レーフィンも考えると言っていたが……精霊で風を利用し気配を感知する彼女も、俺を一目見た時はそれなりに強いというくらいの推測だった。ひとまず魔族がいるような場で全力を出さない限り、魔王などに俺の実力が伝わる可能性は低いという結論に至った。とはいえ、この辺りも対策が必要だ。


 頭の中でそんなことをまとめつつ――俺は道中でソフィアに魔法の指導を行う。


「それじゃあ『バードソア』の解説を始める」

「はい」


 頷く彼女。神妙な面持ちであり、俺の言葉を一言一句聞き逃さないよう注意を払っていることがわかる。


 ――今から教えるのは本来なら戦闘中の移動速度上昇という効果を持つ魔法。自分自身にしか対象にならない魔法であり、なおかつ結構危険な魔法。


 この魔法、ゲーム上では問題なかったのだが、どうも体の周囲に風の膜のようなものを張り巡らせるらしく、人に触れると吹き飛ばしてしまうくらいの力がある。自分が身に着けている物以外は物にも触れることができなくなるくらいで、中々扱いが難しい。よって、俺みたいな使い方をする人間はいるにしてもそれほど多くない。


「まず、俺が教える魔法の扱い方はあくまで移動手段として用いる場合だ。魔物と遭遇した時に運用する方法とは違うから注意してくれ」

「わかりました」


 というわけで訓練開始……ただ問題が一つ。この手法を開発した時俺は飛躍的に移動速度が上昇したわけだが……操作を誤り木とかに激突したケースもあった。

 なので、制御は注意してくれ……と解説したのだが、ここで誤算が。


「……す、すみません」


 魔法を発動しおよそ二分。彼女はあっさりと力尽きた。


「い、維持ってこんなに大変だったんですね……」


 ……この魔法自体それほど魔力を食うものではないのだが、それを絶えず魔力を注ぎ維持するとなると話は別らしい。攻撃魔法だって相手とせめぎ合うようなことになったら魔力を放出し続ける場合もあるが……攻撃魔法とは魔法の成り立ちも違うから、彼女にとって扱いにくく維持が難しいのかもしれない。


 俺の場合はこの魔法を利用し始めた時点で、既に上級魔法なども習得できるレベルであったため、維持するのもさほど難しくなかったのだが……今のソフィアにとっては荷が重いらしい。


 うーん、こういう問題にぶち当たるとは……魔力自体は魔法を使用し続けていれば増えていく――少なくともゲームではそうだった。なので継続的に魔法を使わせ、鍛えていくしかない。


 ただすぐ使えないとなるとちょっと考える必要がある……もし緊急事態に陥ったら、単独行動できるそれらしい理由を考えなければならないだろうか。

 色々思案している間に、ソフィアはさらに魔法を使用する。とりあえず挙動を確認するようで、風を体にまとわせ動き回る。


 どうやら出力によって移動能力も結構変わるらしく、ソフィアのそれは俺のと比べて遅い。とはいえその速度は馬が駆けるよりも速く、この段階であってもきちんと使いこなせば俺と同じように十分役割を果たしてくれるだろう。


 ただ彼女自身四苦八苦しているのか、操作に手間取っている。


「わ、と……!」


 ソフィアは声を上げながら魔法を操作する……ちょっと休ませるか。


「おーい、ソフィア。少し休憩して――」


 そこまで言った時、彼女の体が突如浮いた。おそらく周囲の風と自身の魔法にあおられ、制御が完全に効かなくなってしまったらしい。

 おっと、これはまずい……ソフィアの体は舞い上がり、こちらへとすっ飛んでくる。その直後魔法は消えたが彼女は止まらない。悲鳴こそ上げていないが、内心驚愕しっぱなしであろう。


 これは止めないと……俺は考えつつ動く。とりあえず突風の魔法を使って彼女の動きを中和し、体を受け止める……そういう作戦だった。


 魔法を発動し、風を生み出す。すると彼女の動きが目に見えて遅くなり、彼女の体を真正面に捉える。

 そして俺は、彼女を抱きとめた。


「大丈夫か?」


 問い掛けた矢先、ソフィアは目を丸くして驚き、さらにちょっとばかり顔を赤くした。


「怪我は?」

「あ、ありません」


 地面に下ろすと、彼女は驚く程俊敏に一歩引き下がる。別に嫌というわけではなさそうだが……遺跡における戦いの後背負った時と同じように、気恥ずかしいのだろうか。

 その辺り、俺のことをどう思っているのかという部分に関係してくるのだろうか……いや、考えるのはよそう。なんというかほら、相手は従者といっても王女様だし。


「へ、平気なので。お気遣いなく」

「……ああ」


 ソフィアの言葉に俺はただ頷き、その後「先に進もう」と言って歩き出した。


「魔法については、もう少し調整が必要だな」

「は、はい」


 横を歩き頷く彼女……まあイベントも想定していたよりはゆっくり進んでいるので、彼女が練習するような時間はあるだろう。

 そんな感じで考えたのだが……制御できなくて悔しいのか、彼女は険しい顔をしている。そんな姿に、思わず苦笑する。


「ソフィア、ゆっくりでいいさ」

「わかっています……申し訳ありません」


 会話をしつつ……街道を進み、やがて宿場町に到着する。ゲーム上で現れたことのない街道沿いの町。


「ひとまず宿を決めないと」


 時刻は夕方なのであまり時間もない。手早くしないといけない。

 そう思った矢先、一人の人物がすれ違う。ソフィアの横を抜けそのまま通り過ぎようとして――


「待った」


 それを呼び止め、俺は相手の右手首を掴んだ。


「っ!」


 相手は短く呻いた……フードつきの茶褐色の外套姿で顔は見えないが、体格や呻き声からして、女性だろう。


「ルオン様?」


 ソフィアが何をしているのか不思議そうに問い掛ける。その直後、

 俺が握っている相手の右手首の奥から、何かが落ちた。


「……え?」


 ソフィアは声を発する。それは紛れもない驚愕。


 ――俺も旅をして幾度も見たことのある、革製の見た目シンプルなソフィアの財布だった。


「スリだよ」


 俺は端的に告げると相手を力を入れて引き寄せる。


「い、痛いって!」


 喚く相手。とはいえ俺は容赦なく手首を握ったまま、顔を確認する。

 予想通り女性だった。くすんだ茶色い髪に、日焼けした顔。磨けば結構綺麗になると思う。


 そして俺は、相手の顔を確認した直後内心驚愕する……彼女、もしかして仲間になるキャラではなかろうか。


「は、離してよ!」


 声を上げる女性。だが俺は手を握る強さを変えないまま彼女に言う。


「とりあえず、落ちた財布を彼女にきちんと返すのなら離してやる」

「わ、わかったって!」


 手を離す。そのまま逃げ出しても追い切れる自信があったのでそうしたわけだが、相手は逃げ出す素振りも見せない。きっとこちらの力を感じ取り無理だと思ったんだろう。


 直後フードがはだけ顔が露わになる……で、俺は確信する。

 彼女は仲間になるキャラの一人である、キャルン=バッフィだ。


 スリを働いたところからもわかる通り、彼女は盗むスキルを持つ盗賊系キャラ。こういうキャラは全部で三人いるのだが、その中でも最初に仲間にできる人物である。


 さらに言えば彼女を仲間にできるイベントをこなすと、もう一人の仲間キャラが出てくる。サブイベントであるため仲間にする必要がないと思えばスルーしてもいいのだが、そのイベント自体そこそこ稼げるイベントなので、仲間にする必要がないにしてもわざと起こすこともある。


 で、肝心の彼女の能力なのだが……はっきり言って弱い。装備できる武器が短剣などの軽い物であることに加え、盗む以外のスキルで突出するものもない。

 肝心のステータスも敏捷性が高いので回避率はそこそこあるのだが……ゲームの時は敵の攻撃を回避するより力押しで進んだ方がダメージも少ないというバランスだったため、はっきり言ってその利点の使い道が限りなく皆無だった。


 システム面で不遇だったということもあるけど……盗むのスキルは利点だけど、彼女が仲間になる時期から少しすると、彼女よりも優れた能力を持つ盗むスキル所持者が現れるため、最後まで使い続けることも少ない……いかん、なんだか可哀想になって来た。


「ご、ごめんなさい……」


 緊張した態度でキャルンはソフィアに財布を返す。何がなんだかわからないといった様子の彼女は「どうも」とだけ答えて財布を受け取る。


「み、見逃してもらえる……?」


 そして彼女はおずおずと俺に尋ねる。なんだか可哀想にも思えるが……うーん、まあ仲間になるキャラだし……。

 そんな風に思っていると、俺達に近づいてくる男性が一人。着色されていない革鎧を着た角刈りの人物。彼は間違いなくキャルンの仲間――


「おい、キャルン」


 声に彼女は一度ビクッと肩を震わせた後、視線を転じる。


「あ、ノグ……」

「お前、やったな?」


 キャルンは固まる。えっと、確かゲーム上では――


「ご、ごめん。その……」

「悪い癖が出たということか……旅の御方、申し訳ない」


 謝罪する男性。するとソフィアが俺の前に出て、


「財布自体は盗られなかったので良かったですが……」

「本当に、申し訳ない」


 ノグが再度謝る。


「元々私達は、盗賊稼業をやっていまして……しかし今は改心し、周辺の兵士と協力し魔物を倒しています」

「用心棒のようなものですか?」

「ええ……ただ、そういう素性の人間なので」


 そこまで言うとキャルンの頭を手でグリグリと押しつける。


「こういう手癖の悪い奴もいるってことです。こいつはスリの技術を再確認しようとして、すぐに返すつもりでこういう事をやるんですけど……盗んだ事実は変わらない。詰所に連行されても文句は言えません」

「……ふむ、そうですか」


 ソフィアは神妙な顔つきとなっている。うーん、これは面倒なことになるかもしれない。というのも、今の会話ほぼゲーム上でキャルンに関する最初のイベントそのままだった。


 イベントを起こす場所はまったく別の場所だったが、見知らぬ宿場町で俺達はイベントフラグを立ててしまったらしい。


 これ、どうするかな。


「いえ、大丈夫なので」

「そうですか……キャルン、行くぞ」

「うん」


 肩を落とす彼女を引きつれ、ノグは去っていく。とりあえず何事もない感じで会話は終わったのだが……ゲーム上ではこの後、別所でイベントが発生する。

 それに遭遇した場合、どうするべきか考えないといけない。イベントをクリアして「魔族や魔王と戦う人間に協力してやってくれ」と言うことはできるけど、無視したらそういう人に協力することもなくなってしまうかもしれない。


 俺はその辺りを気にしつつ宿を探す。二部屋空いている宿を見つけ、とりあえず夕食をとるべく飯屋に入る。

 注文を済ませた後、俺達は会話も無くしばし沈黙。まだ時間が早かったのか人がずいぶんと少ない……やがて、料理がきた。


「はい、お待ち」


 おばさんが料理を運んでくる。早速食べ始めようとしたのだが、おばさんがなぜか話し掛けてきた。


「お二人さん、旅をしているんだろ? 盗賊に襲われなかったかい?」


 うわー、早速かよ。この発言、間違いなくイベントが発動するやつだ。


「盗賊?」


 聞き返すソフィア。するとおばさんは深く頷いて、


「そうだよ。魔王が現れたなんて物騒な話もあるけど、この辺では盗賊が色々と悪さをしているんだよ。砦まであって、時折商人なんかを襲っている……迷惑な話だよ」

「それは……もしかすると、用心棒をしている人々の話ですか?」

「あ、もしかしてあんたら彼らに会ったのかい? いや、それがね。彼らは違うと否定しているんだけど、用心棒をしていた人物が盗賊団にいるんだよ」


 用心棒側のリーダーと仲違いした人間が盗賊になっていたはずだ。復讐もかねて近隣を荒らし、それを用心棒のせいにしている……確かそんな話だったはず。


「わかりました。ありがとうございます」


 ソフィアは礼を述べるとおばさんは場を離れる……で、ソフィアは一言。


「もしよろしければ、調べてみませんか?」


 まあ、当然そういう話になるよな。相手が盗賊団だし、彼女としても気になるのは仕方がない。

 さすがに「面倒だしやめよう」とは言えない。加え、ここで仲間フラグを叩き折るとキャルン達が魔王との戦線に参加しなくなる可能性がある。


 彼らがもしかすると、魔王と戦うことになる人間となる可能性もあるし……関わった以上やるしかないと俺は結論を出し、


「……わかった。明日調査してみよう」

「はい」


 ――というわけで、調査に乗り出すこととなった。


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