精鋭に対する策
使い魔はおそらく魔力に反応して俺に報告をよこしたはずなのだが……山の岩場周辺を飛ぶ使い魔。この辺りに何かあるのか?
「ルオン様、いかがしましたか?」
ソフィアの再度問い掛けてくる。俺はここでようやく返答。
「使い魔が何かを発見した」
「魔物を操っていた存在でしょうか?」
「どうだろうな……」
しばし使い魔を通し岩場を観察する。とはいえ見た目に変化は――
そう思った時だった。突如、視界に動くものを発見する。ただ、それは人影でも魔物でもない。
岩陰に存在した影が、突如日の下に出てきて動き出す。
「は……?」
思わず呟いた――が、すぐに闇系の魔法で隠れているのだと察する。
使い魔はあれに反応したのか……何かあると思って見ていないと気付かないかもしれないな。
少しすると、影は別の岩場に隠れた。それから程なくして影から人が出てくる。
「騎士……だな」
俺は呟く。銀髪を持ったどこか高貴そうな印象を与える騎士。銀髪というのは五人の精鋭の内、一人の特徴であることは資料などでわかっている。
「もしかすると、精鋭最後の一人か?」
「ルオン様、やはり帝国側の手の者が?」
「可能性は高いな」
騎士は太陽の下を歩き出す。もしかすると、俺達が離れるのを待って移動を行ったのかもしれない。
「ふむ、影を操る騎士かな?」
「ルオン様、確か他の四人の騎士は地水火風とそれぞれの属性を保有していたのですよね?」
「ああ、そうだ。残る一つはどうも影……というか、闇属性かな。この騎士を使い魔で追ってみよう」
騎士は山岳地帯を突き進んでいる。方角からすると、帝都に帰るようだ。
「うーん、騎士が単独で影に隠れ、魔物の群れの動向を観察していたと思しき様子……確定でいいかな?」
「だろうな」
リチャルが賛同する。俺がそれに頷き返した時、彼の進行方向に魔物の姿が見えた。
竜……というか恐竜に近い姿で、大きさは人間を二回りくらい大きくしたくらい。それがしめて三体。操っていた魔物とはおそらく違う。大量発生させたことで、山岳地帯に余波としてああいった魔物が出現しているのかもしれない。
すると、騎士が反応した。即座に剣を抜き、移動をしている恐竜三体へ向け疾駆する。
「……速いな」
使い魔から観察していてわかるくらいには俊敏で、最短距離で魔物へ向かっている。すると魔物側も反応。三体同時に襲い掛かっていく。
恐竜型の魔物はゲームにもいたが、どれも耐久力が高くレベルが低いと長期戦になりやすい面倒な敵だった。並の騎士なら三体同時とか、ほぼ無理だ。
この騎士はどうするのか――そう考えた直後、刀身から闇が溢れた。その魔力が使い魔にも触れたのか、わずかだがビリビリと感覚を刺激する。
周辺に拡散する魔力。威嚇の意味合いもあったのだろうが、それ以上に発揮される力が大きいこともまた理由に入るだろう。
結果、恐竜達はその魔力に足を止め――騎士が攻勢に出る。闇を用いた技で一気に蹂躙するか……そう思った矢先、
突如、恐竜の動きが止まった。まるで、時が止まったかのように。
何が起こったのか――使い魔を通し注視した途端、騎士の剣先から闇が生じ、恐竜三体も飲み込んだ。広範囲系魔法……?
しばし魔力だけが周辺に拡散し……やがて闇が突如バリン、と甲高い音を立て割れた。そして恐竜は、全て消滅していた。
「倒したみたいだな……」
だが、唐突に恐竜達が動きを止めたのは一体何だ? 騎士が何かをした様子はないんだが――
「……あ」
声を上げる。ソフィアやリチャルがこちらの顔を窺うのがわかった時、俺は言った。
「もしかすると……」
「ルオン様?」
名を呼ぶソフィアに対し、俺は見返し、
「わかった……決戦の時、騎士がどういう戦法をとるのか」
「え?」
「あくまで可能性だけど…この考えで正しいかどうかは、いくつか確認しなければいけないな」
俺はソフィアとリチャルを一瞥し、述べた。
「ロミルダから話を聞く必要がある。屋敷に戻ったらまずはそれをやろう」
屋敷に戻ってきた後、アナスタシアが出迎え改めて話し合いということで客室に。ただし、今回はロミルダやソフィア達も同席する。
「確認したいことがある。最終決戦について」
「うん」
アナスタシアの隣で、俺と向かい合うように座るロミルダは神妙な顔つきで応じる。
「ロミルダが知っている範囲でいいんだが……決戦の際、俺とロミルダがネフメイザの所へ向かうんだよな?」
「うん、そうだよ」
「その前に、俺は精鋭の騎士五人と戦った」
コクコクと頷くロミルダ。
「以前話を聞いた時、周りには人がいる状態だったんだな?」
「うん」
「で、その人達はすぐに避難を開始したのか?」
問い掛けに、彼女は首を左右に振った。
「慌てて逃げた人もいるけど……腰が抜けて動けなくなった人が多かった。だから私はルオンお兄ちゃんに言われて、そういった人達を避難させようとしたの。それに集中して、戦いのことはほとんど見れなかったけど……」
「そこについては今回観察できたから大丈夫。話、ありがとう」
「で、今ので何がわかる?」
アナスタシアの質問に、俺は頭の中を整理しながら答えた。
「最後の騎士……もし俺達が先ほど見た騎士がそうなら、名前は確かシャード=アラバス……彼が闇属性の魔法を使うとして、たぶん予備動作なく影縛りのようなものができるんだと思う」
「影縛り? ふむ、それを用いることによりルオン殿ではなく、周辺の民を拘束したということか?」
「恐竜を拘束できるんだから、人を拘束するのは容易いだろ。で、彼らが動けないため、俺も全力出すのが難しかった……相手の作戦通りというわけだ」
「私以外にも、どうにかしようとした人はいたんだけど……」
どこか悔いるようなロミルダの顔つき。
「攻撃に巻き込まれたみたいで……」
「精鋭の騎士が阻んだってことでいいのかな」
「まあ、タネがわかっていればやりようはあるじゃろう」
アナスタシアが述べる。俺は深く頷き、
「ネフメイザは、騎士で俺をどうにかできるとは考えていないだろう……その目的は時間稼ぎ。なら、俺は一刻も早くネフメイザの所へ向かうようにしないとまずそうだ」
そこまで言って、俺は腕を組む。
「理想的なのは、俺がシャードを一撃で叩き潰して人々を避難させ、他の騎士も一気に突き崩す……あるいは、精鋭騎士四人をこちらが集めた面々とぶつけて動きを抑え、俺とロミルダは一刻も早くネフメイザの下へ向かう……といったところか」
「どちらを取るかは、戦況次第でしょうか」
ソフィアの言葉に俺は頷き、
「ネフメイザは何らかの方法で決戦の行方を見ることができるはず……騎士達をはね除ければ当然、前回の戦いと異なることは確実にバレるだろうな」
「そこからはルオン殿次第じゃな」
アナスタシアが言う。
「いくつか課題はあるが、まだ時間はある。その間に全て埋めていけばよい」
「残る四竜侯爵についてはどうするんだ?」
「うむ、ルオン殿からもらった情報から考察すると、あやつは皇帝寄りじゃろう。こちらに寝返らせるのは厳しそうじゃから、好きなようにやらせるつもりじゃ」
そう述べると、彼女はポケットを探り、丸められた書状を取り出した。
「ヤツからの招待状も届いた。どこぞの場所で密会をしたいらしい。わしと密かに協力関係を結ぼう、などという話のようじゃ。実際は違うだろうが」
侯爵は書状を手の上で器用にクルクルと回しながら、続けた。
「この話し合いにはルオン殿やソフィア王女も同席している……ルオン殿が活躍する場面もあるようじゃから、よろしく頼むぞ」




