竜精との連携
最初に魔物へ仕掛けたのは、ソフィアだった。
俺よりも先行した彼女は両手で剣を握りしめ、横に一閃する。魔物は狼や熊などの動物系を始め、見た目ゾンビのようなヤツもいるが……最初に剣を当てたのは、悪魔のような敵だった。
剣戟が入った直後、その刀身から衝撃波が生まれた。おそらく竜精フォルファの影響によるものだろう……などと考えていた矢先、その衝撃波がソフィアの正面で膨らみ、爆散した。
その勢いは、周辺にいた魔物達をも巻き込み……一切合切消滅させていく。俺でも驚くくらいの威力だった。
「ソフィア、今のはフォルファの力か?」
こちらもまた交戦を開始しながら問うと、彼女は神妙な顔つきで頷いた。
「はい。それほど力を入れていたわけではないのですが……」
ソフィアはさらにもう一度剣を薙ぎ――またも衝撃波が拡散。オーガのような巨体を持つ魔物が吹き飛んでいく姿もあり、力が相当強化されたのだろうと容易に察せられる。
この強化で、彼女が決戦の際大丈夫なのかは未知数だが……少なくとも、前回の戦いと異なる状況であるのは確かなので、あとは練度を高め、さらに力を自在に操れるようにしておくべきか。
一方、俺の方は問題なく全て一太刀で魔物を片付ける。遺跡で手に入れた剣を使っているのだが……刀身に魔力を注がずとも撃破できている。そして魔力を注いで斬った場合、感触がほとんどないほどの切れ味となる。
数は多いが迫り来る魔物を片っ端から斬り捨てているような状況なので、案外早く終わるかもしれない。
「しかし、これだけの魔物……侯爵に対する報復でしょうか?」
ソフィアが疑問を提示すると、俺は肩をすくめた。
「おそらくな。けど、公に反旗を翻したのはエクゾンだけで、アナスタシアについては中立という立場だ。仮に彼女が糾弾しても、帝国側は知らぬ存ぜぬで通すだろうな」
俺は子鬼のような魔物に蹴りを入れながら、語る。
「ま、どちらにせよ降りかかった火の粉は払わないといけないわけだ」
「魔物の数を考えると、火の粉どころの騒ぎではない気がしますけどね」
会話をする間にもどんどん魔物が減っていく。すると魔物達は俺とソフィアが脅威と悟ったか、前進していたのを中断し、俺達を取り囲み始める。
「動きが変わったな。誰かが指示している可能性もあるな」
「魔物の中に指揮官が?」
「あるいは、遠隔操作で帝国側の人間が……いや、これだけの魔物を一度に操作できる人間がいるとは思えないな。ソフィアの意見の方が可能性としては高そうだ」
どんどん魔物を消し飛ばしていく間に、魔物が俺達の退路を塞ぐ。とはいえ俺もソフィアもまったく危機とは思っていない。
俺達は自然と背中合わせとなり、魔物を屠っていく。俺が縦に斬撃を叩き込んで一体滅したかと思うと、背後からザシュ、とソフィアが剣を決める音が聞こえる。まるで競い合うようだ。
「ソフィア、大丈夫か?」
「はい、魔力は問題ありません」
「フォルファとの連携は上手くいっているみたいだが、長期戦となれば体に負担がのしかかってくるかもしれない。異常があったらすぐに言ってくれ」
「わかりました」
会話の間に俺は勢いよく剣を振る。連撃により並んで襲い掛かろうとしていた狼を同時に滅した。
これなら、予想以上に早く片付くか……? そういう考えに至った時、レスベイルから報告が届いた。
数が多い以上、魔物の中には好き勝手に行動し始め、あらぬ方角へ進む個体がいてもおかしくないのだが……統制がとれているのか、そういう魔物が一体もいない。
「ふむ、魔物のリーダー的存在がいるのは間違いなさそうだ……それを倒すと逆に魔物が散らばりそうだな」
「最後にすべき、ということですね」
ソフィアが言う。俺は「ああ」と返事をし、
「とりあえす、レスベイルは戻そう。それで――」
上空を飛び回る使い魔に指示を与える。もしこれが帝国側の仕業ならば、騎士などが観察していてもおかしくない。
レスベイルや、竜に乗るリチャルなどが近づけば隠れるだろう。しかし使い魔なら、その姿を捉えることができるかもしれない。
その時、上空からゴオオ――という音が。見れば、竜が恐ろしい速度で下降を行っている。
「リチャルか」
呟いた瞬間、竜が魔物の群れへ突撃する。地面ギリギリを飛びながら魔物を蹴散らしていく……やがて攻撃を終え、一気に上昇していく。
竜の一撃を受け、魔物達は大きく隊列を乱す。滅んでしまったものも存在しており、竜が通った場所は相当な被害が出ている。
「リチャルさん、すごいですね」
ソフィアが空を見上げ驚嘆した。
「竜の攻撃力もそうですが、地面スレスレまで近づくとは」
「確かに、下手をするとそのまま地面に激突するだろうな……ここまできちんと使役するのは、彼の努力だな」
強化されたソフィアに、リチャルの援護。そして俺の存在から、それほど経たずして敵を殲滅できると俺は確信する。
「よし、ソフィア。この調子で一気に終わらせるぞ」
「はい!」
軽快な返事と共に、彼女は豪快に剣を薙ぐ。今まで以上の衝撃波が生じ、魔物の数をひたすら減らす。
その威力は余波で地面がえぐれるくらいのもの。魔物達も威力に警戒したか一度立ち止まり……それでもなお突撃する。
今は単に衝撃波を生み出しているだけだが、応用でいくらでも戦術を変えられそうだな……そんなことを思いながら、俺は近づく魔物を縦に一刀両断。次の魔物へ……と思った矢先、一際魔力を抱えている魔物が一体、視界に入る。
人間の体に狼の頭……ワーウルフだな。
「気配からして、あいつが指揮官か」
「人狼のことですか?」
「ああ。倒すと魔物が散開する可能性があるから、後回しで」
「わかりました」
彼女の声を聞きながら、俺はなおも動く――そうして、戦いへ没頭していった。
全て終わったのは、それから一時間と少し経過してから。数だけは多かったが、それでもあっという間の戦いだった。
最後にワーウルフを撃破し、おしまい。念のため、周囲に魔物が残っていない調べ――
「うん、もうこちらに突き進んでくる魔物はいないな」
俺は使い魔で確認し言及。さらにリチャルが空から下降し、俺へ口を開いた。
「空から見て魔物が動く姿はないな……どうやらこれで終わりのようだ」
そう述べた彼は、俺へ視線を向ける。
「遺跡で手に入れた剣の感触はどうだ?」
「悪くないよ。魔力を注がない場合でも魔物を倒せたから、威力については十分だ。それと、リチャルも援護ありがとう。あの竜の操作は、訓練したんだよな?」
「まあな。決戦の時に活用できないかと思案中だ……ソフィアさんは?」
「私も問題ありません。フォルファとの連携による疲労などもありませんから、長期戦も可能ですね」
戦果としては上々かな。
「それで、ルオン様。この敵は帝国側の差し金ということでいいのでしょうか?」
「そう考えるのが妥当だろう。何者かに操られていたからこそ、あれだけ理路整然と進んでいたんだ」
周囲に帝国側の人間がいないか使い魔で探しているのだが……見つからない。魔物を生み出して簡単に指示を出し、あとは放置という感じなのか?
「ひとまず、戻るか?」
リチャルが問う。俺はこれ以上情報は得られないかな、と思い、
「ああ、そうだな」
承諾し、竜に乗る。そして飛び立った。
ただ、使い魔はなおも帝国側の人間を探しているのだが……と、ここで何かを見つけた。
「これは……」
「ルオン様?」
ソフィアが問うけど、俺は答えず――使い魔に意識を集中させた。




