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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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すり替え

 竜魔石のすり替えは俺一人で行う――よって、一人早朝から屋敷を出発し、資料に書かれている場所へ向かう。


『そう気合いを入れなくともいいのではないか?』


 山に入った直後、ガルクが言う――騎士が遺跡を訪れるタイミングは確定しているわけだから、それまでに対処しておけばいいので朝早く起きる必要はないかもしれない。


「こういうのは気分だよ。ガルク」

『そういうものか……? まあいい。入口についてだが……』

「お、あれだな」


 指差したのは単なる岩場。見上げるくらい大きい岩がいくつかある。


「えっと、場所は……」


 懐に突っ込んでおいたメモを見ながら歩き回る。一応周囲を使い魔などで確認するが、誰もいない。


「お、この岩だな。地面が開くようになっているらしいぞ」

『これは見つけようと思って見つけられるものではないな。それで、どのように入るのだ?』

「えっと、資料には外からでも入れる仕掛けがあるって書いてあるな」

『……ここは脱出のための抜け道ではないのか? なぜそんな仕掛けがある?』

「リチャルの資料に推測が書かれていたよ。この遺跡は何かしら隠れて実験でもやっていた施設で、入口以外に道がこうしていくつも存在している」

『ほう』

「で、その一つがこれ。例えば秘密裏に人間を連れ込む時、こういう場所から入れていたと」

『……人体実験か?』

「そういう可能性が真っ先に浮かび上がるけど、真実はわからないな。天使に訊かないと」


 屈みながら地面に積もる砂を払っていく。少しすると、直線の切れ目を発見した。

 明らかに人工的なもの。もう少し砂を払うと、俺が両手を広げたくらいの幅がある。


「おし、入口は見つけたな。で、岩のどこかにスイッチが……」


 カモフラージュされているけど……見つけた。


「ソフィアを救う時に通った秘密の抜け道を思い出すな。構造はまったく違うんだろうけど」


 仕掛けを解除すると、ゴウッ――と音がして、入口が開いた。地下への階段が見え――

 ついでに、階段下に天使がいた。頭部はあれど顔のパーツがない、不気味な赤い天使。


「……へ?」


 呟いた矢先、猛然と天使が襲い掛かってくる――!


「って、おい! いきなりかよ!」


 声を出しながら即座に魔法を使おうとして……なぜか右腕が反応した。


「っ!?」


 短く声を発しながら俺はその流れに任せてみる。すると、遺跡で手に入れた剣が出てきた。


「戦闘態勢に入ったら、反射的に出てくるのか……?」


 疑問を感じながら剣を握り天使と相対する。敵が持つのは長剣。それを一切容赦なく俺へと振り下ろした。

 奇襲、とまではいかないが問答無用で攻撃を仕掛けてくるのでなかなか面倒だ。けれど、俺にとっては楽勝の相手。


「そらっ!」


 斬撃を繰り出す。相手の剣へ向けて放ったもので、剣が噛み合った瞬間、あっさりと刀身を両断し、天使の体に刃を叩き込んだ。

 威力は十分だったらしく、あっさりと天使は消滅。ちょっと驚いたが、俺なら対処できる。


 よし……念のため、使い魔で周囲に人影はないか確認。結果、誰もいない。


「では、進もう」

『ルオン殿、注意しろよ』


 頷きながら階段に足を踏み入れる。明かりを生み出すと、壁に鉄か何かでできたレバーのようなものが。


「入口を閉めるやつかな」


 試しに仕掛けを動かしてみると……ゴゴゴ、と音がして入口が閉まった。

 完全な静寂が空間を支配する。光を強くすると、真っ直ぐ続く通路が見えた。


「しかも……さっきの天使がいるな」


 声を発した矢先、敵が体を向ける。


「まあいいや。排除しながら進むことにしよう」

『うむ』


 ガルクの声と共に戦闘開始……といっても、俺にとっては造作もない。見事に一撃で全部片付けていく。というか、


「切れ味いいな、この剣」

『普通に使っても十分価値がありそうだな』


 うん、竜魔石の力が必要ない時は、この剣を使うことにしよう。検証にもなるし。

 周囲に敵がいなくなった段階で剣を消し、再び通路を進む。距離がどれほどなのかわからないが、まあ抜け道なわけだし、そう長いわけでもないだろう。


 そんな予想を立てた直後、行き止まりに到達した。


『うむ、この壁の奥から魔力を感じるな』

「それじゃあ――」


 見れば、壁にまたもレバー。それを動かすと――扉が開いた。


「おし」


 その言葉の直後、魔力を感じ取った。それに伴って見えたのは、青色の光。


「さて、ここからが本番だ……レスベイル」


 精霊を生み出し、部屋の中へ。真四角の天井がやや高めの一室で、中央に目当ての竜魔石が安置される台座がある。


「ふむ……」


 目を凝らす。台座の周辺に仕掛けがあるのをレスベイルを通し感知するが、視界には何もない。


『台座の周辺に、少しだけ魔力があるな。それこそ仕掛けだろう。竜魔石を手に取り、持っていこうとした瞬間、罠が発動する』


 面倒な罠だ……これから発動しないように作業するんだけど。


「えっと、まず」


 懐から色々と取り出す。まずすり替える竜魔石。そしてもう一つが、白色の魔石が埋め込まれたペンダント。

 魔力を調整し、罠が発動しないようにこれからやるわけだが、ペンダントは本物と偽物にどれだけ差があるのかを色で判別できるようにする。


「作戦開始だ」


 まずペンダントを首から提げ、台座に置かれている竜魔石に近づき問題ないか確かめる。魔力が減ったら罠発動だが、増えても問題はない。これは資料通りだ。

 台座の片隅に偽物を置く。次に右手で偽物、左手で本物に触れる。


 すると、ペンダントの色が変化する。赤色……まだ差があるな。


「確か右手にある物から比較して高いか低いかだったな……赤だから、まだ低いのか」


 俺は右手に少し力を入れて魔力を注ぐ。すると、どんどんと赤色が薄まっていく。


「うーん、やっぱり実際調べてみると、注入した魔力は少なかったみたいだな」

『となれば、予想以上に強力な竜魔石ということか?』

「そうかもしれない」


 ガルクの言葉に返答する間に、ペンダントの色合いがまた白に戻る。均一の場合は色が変化しないので、これで揃ったことになる。


「成功だな」


 本物を手に取る。そして少し慎重に、偽物を台座に設置した。


 ここまで問題なし。念のためもう一度確認し……手順通りにいったことを確かめる。

 さて、本物を台座から離す……絶対に大丈夫という保証はない。緊張の一瞬だ。


「いくぞ……」

『うむ』


 どこか緊張感のないガルクの声を聞きながら……俺は、仕掛けの外に出た。

 周囲を見回す。特に異常はない。


「何もない……ということは、作戦完了だ」

『では、あとは帰るだけだな』

「ああ。ここを訪れることになる精鋭の騎士については、後日――」


 その時だった。突如、視線を感じた。


「え?」


 まさか、騎士がいるのに気付かなかった――などと思ったのだが、当然ながら部屋には誰もいない。


『ルオン殿、どうした?』

「いや……気配がしなかったか?」

『我は何も感じなかったが』


 気のせいか? だが念のため調べた方がいいか。


 部屋の中を見回してみる。台座にある竜魔石が偽物になったこと以外、入った時から変化はない。


「気配隠しの魔法か……? レスベイル、調べろ」


 魔法を発動させているのなら、レスベイルの魔力探知が糸口になるかもしれない。俺は精霊に指示を出した後、剣を生み出し軽く振りながら部屋を歩く。

 天井とかにいないかも確認したが、結局成果なし。取り越し苦労だろうか。


『心配のしすぎではないか?』


 ガルクが言う。まあちょっと神経質になっていたのかもしれない……そう考えた時、外にいる使い魔から報告が。


 山岳地帯で人間が、騎士に追われている。


「次から次へと……」


 騎士は帝国側の人間か? 一応、様子を見に行くべきか……俺は少し迷った後、足を出口へ向けた。


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