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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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礼と課題

 アーティファクトの見た目は首から下げるアミュレット……構造も極めてシンプルで、銀色の金属を土台にして縦に二つ赤い宝石がはめこまれている。


「それは、約束通り……というか、守護者を倒したソフィアさん達の物だな」


 ギルバートが言い、俺達がアーティファクトを受け取ることになった。そこから手に入れたお宝の分配話を簡単にして、その後遺跡を出るべく歩き始めた。

 魔物も行きであらかた掃討したためか、結果的に魔物と遭遇することはなかった。遺跡外周辺にも魔物はいない。まあ、この方が好都合だ。なぜなら――


「あ、あの、ルオン様」

「だから気にするなって」

「し、しかしですね。従者としてこれは……」


 ――現在俺は、ソフィアを背負って歩いているからだ。


 魔力を使い果たしロクに歩けなくなってしまったため、最終的に俺が背負うことになった。途中ギルバートに三回ほど「代わろうか?」と提案されたが、丁重にお断りさせていただいた。


「それとソフィア。さっきの技だが……まだ制御が甘いし、風の刃なんかを周囲に撒き散らしていた。危ないから、当面の間は使用禁止だ」

「わ、わかりました」


 そうした会話をこなした後、森へ。そこでギルバートが口を開いた。


「しかしルオンさん……こうなることを予見していた感じだな」

「……予見?」

「ほら、ソフィアさんが疲れ切って動けなくなるから、そのためにルオンさんは体力を温存していた、という見方も……」

「……嫌味か?」

「単なる冗談だよ。そんなに怒らないでくれ」


 苦笑するギルバート……なんというか、色々反省があった。


 遺跡に入るまでは良かったが、遺跡内部ではギルバートとソフィアが自然と連携して戦うことで出番がなくなり、ライツ達が加わることによってそれはさらに顕著になり……結果としてソルジャーゴーレムの戦いの時も、俺は最後の最後までほとんど動かなかった。

 サポートはそれなりにしていたと思うけど、消極的な動きであったことは間違いなく、この辺り言及されてもおかしくない。どうするか……考えていると、ライツが口を開いた。


「あの、いいか?」

「ああ、言いたいことはわかっている」


 ここで発言したのは、俺ではなくなぜかギルバートだった。


「ルオンさんの行動に疑問を持ったんだろ?」

「ああ、まあな」

「それには理由がある。遺跡の中で話すタイミングがなかったため、説明しなかったんだが」


 なぜかギルバートが語り始める。これは一体――


「実は、近日中に魔物の討伐が行われる。俺達はそれに選ばれた身なんだが、一つ問題があった」

「問題?」

「魔物の能力からして、俺やソフィアさんが太刀打ちできるかわからなかったんだよ。そこで、今回お宝やアーティファクトを取りがてら、討伐に赴ける能力なのか試していた。ルオンさんには、危ない時のサポートをお願いしていた」

「……それで、最後の局面では危ないと判断し助けたということか」

「そういうことだな……ルオンさん、俺達の技量はどうだった?」


 視線を投げてくるギルバート。話を合わせろと言わんばかりであり……どういう意図でライツ達に説明しているのかわからないが、ここは話を合わせた方がいいな。


「ああ、十分だろう」

「死ぬ可能性は低そうか?」

「おそらくは……ただ無謀なことはしない方がいいぞ」

「わかっているさ」


 と、ここでギルバートはライツ達に目を向ける。


「というわけだ」

「……理由はわかった。討伐か……気を付けろよ」

「心配してくれるのか?」

「そちらと関わった以上、な。知り合って死なれると寝覚めが悪い」

「善処する」


 その言葉の後俺達は無言となり……森を出た。街道に出た時、太陽もずいぶんと傾いていた。しかし夕焼け色になる前に安全な場所に到達できたのは良かった。

 ここでソフィアも多少ながら回復し、立って歩くようになる。町に戻って解散ということにして、俺達はゆっくりとした足取りで進み……やがて町の入口に到達した。


 ライツ達とはここで別れる。それを見送る俺達……で、二人の姿が見えなくなった後、俺はギルバートに告げた。


「……彼らにもっともらしい説明をしてくれたのは、何か理由があるのか?」

「まずは、礼だな」

「礼?」

「アーティファクトはそっちに渡したが、残る報酬はこっちがほとんど貰うことができたわけだし、満足できたということで色々言及しようかと……角が立たない方がよかったんだろう?」

「まあ、ね」


 俺はギルバートと目を合わせる。すると彼は肩をすくめ、


「そっちにも、色々と理由があるんだろ? ギルドに所属している俺からすれば、あんた達以上に一癖も二癖もある奴も見たことがあるから、別に今回の戦いについて驚きはしない。それに――」

「それに?」


 ここでギルバートは笑みを浮かべる。


「変に言及せず恩を売っておいた方が、得になるような気がした」


 ……なるほどな。


「ただ、今日の戦いみたいに立ち回るにしても、ルオンさんは気を付けた方がいいんじゃないかな」

「……気を付ける? 何を?」


 首を傾げると、ギルバートは頭をかきつつ話す。


「なんというか、形容しがたいが……ルオンさんは戦っている間、他の人とは少し気配的なものが違う気がした。ああ、悪い意味じゃない。なんというか、その気配によって信頼できるというか、引き寄せられてしまうというか……」


 なんだか彼自身も上手く説明できない様子……うーん、気合を入れて戦っていたわけではないが、ギルバート自身何かを思わせるような雰囲気が漂っていたということだろうか。これって俺のステータスが何か関係しているのか? というか、思い当たる節はそこしかない。


 そういえば、ソフィアの父親である王も俺から「何か」を感じ取っていた……ギルバートが語っていることと王の視線が意味していたことは同じ事なのかわからないが、どうやら見る人によっては俺は普通の人と違うように見えるらしい。


 これが良いのか悪いのか……ただその「何か」とお宝によってギルバートがライツ達にもっともらしい理由を語ったのだとしたら、上手く利用できれば良い方向に話を動かすことができるかもしれない……この辺りは検討課題だろうか。


「さて、俺もそろそろ行くとしますか」


 ギルバートは言う。軽く伸びをした後、俺達に改めて告げた。


「今回の戦い、色々と勉強になった……魔族の襲撃もこれからさらに激しくなる。気合を入れ直さないとな」

「戦う気なのか?」

「積極的に動くかどうかわからないが、ああした遺跡の魔物と戦ってなんとなく危機感を覚えたのは事実だな」


 今回の戦い、彼にも何かしら教訓を与えたらしい……やがて彼は俺達に背を向け、


「ギルドにはいるから、今後町に寄ったらいつでも話し掛けてくれ」


 そう言い残し立ち去った……出会いはずいぶんと軽いノリだったが、最後はなんだかスッキリとした別れとなった。

 今回はお宝という報酬もあったから、カティの時のように理由は尋ねないという結果になったと言えるかもしれない。ただ今後同じようにいくとは限らない……というより、運が良かっただけかもしれない。立ち回るにしても、色々考える必要があるだろう。


「……さて、ソフィア」


 二人となり、俺は名を呼ぶ。


「はい」

「アーティファクトを手に入れ、魔力探知されることもおそらくなくなった。で、戦っている間に移動魔法だって習得できたはずだ。ここから色々と動き回ることになるかもしれないが、覚悟はいいな?」

「はい、もちろんです」

「うん。ただ目的地はひとまずノームの住処だな」

「東ですね……その後は他の精霊を?」


 彼女の質問に対し、俺は少し考え、


「大陸の状況を見て判断したい所だな。それに三体以上契約する場合、さらに強くなる必要がある。ひとまずノームと契約してから考えよう」


 それからどうするか――ゲーム後半、五大魔族の内四体を倒すと大陸南部の町にイベントが発生する。多数の魔物や魔族達が魔王のいる北部からではなく比較的平和だった南部から攻め寄せてくるというもので、主人公はここに駆け付け防衛戦に参加する。

 もし町が陥落すればゲームオーバー。現実世界となった今ではさすがに町の陥落イコール大陸の崩壊ではないと思うけど、さすがに陥落するのはまずい。


 そこから最後の五大魔族が軍勢を率いて本格的な侵攻を始める。人間側はそれを食い止め、主人公がその魔族を倒した瞬間――賢者の力が完全に解放され、主人公は魔王を倒す力を手に入れるというわけだ。


 ソフィアを表立って戦わせる場合……エイナの動き次第だが、少なくとも防衛戦ならば彼女が生きていることが露見しても問題はないだろう。いや、むしろ王女としての彼女の発言力があれば、防衛の兵を集められるかも。


 ともかく――ソフィアをどう扱うかを含め、全ては今後のイベント次第ということは間違いない。シナリオはまだ序盤ではあるけれど、主人公達は全員動いており情勢は流動的。色んな動きに対応できるよう心構えをしておく必要がある。

 なおかつ、ゲームにあった後味の悪いイベントが残っている……それだけはできれば介入して回避したいところだ。


「よし、ひとまず今日は休んで、明日から旅を再開だ」

「はい」


 ソフィアは返事を聞いた後、一緒に町へと歩き出す……今回の戦い、色々反省点もあった。自分のことやソフィアのことをどうするか含め、しっかりと考え直す必要があるだろう。


 俺は思考しつつ……宿を手配するべく、大通りへと足を向けることとなった。


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