奥義と解説
エイラドの魔力収束を見て、ソフィアも呼応するように前傾姿勢となる。
彼の奥義は見た目からすると、剣を介した攻撃かな? ゲームに存在していた創奥義は技が発展したものと魔法が発展したものの二種に大きく分かれる。彼の場合は前者だろう。剣に魔力を注いでいることから考えると、斬撃などに特殊な効果を乗せたものとかだろうか?
――ソフィアも俺と同じような結論を出したか、エイラドの攻撃を自身の技で相殺しよう前に出た。
俺はエイラドがどんな技を使うのかしっかりと観察すべく注意を向けた――次の瞬間だった、
突如、エイラドの刀身に存在していた魔力が、刃から離れた。
「え?」
ソフィアが呟いた矢先、それが彼の頭上まで昇り、ソフィアの上から狙いを定め――まるで東洋竜が人間を喰おうとするような動きを見せ、迫る。
頭上からの攻撃はさすがに予想外だったか、ソフィアは即座に退いた。だが竜は追尾し彼女を食らおうとする。
迫る竜にソフィアは少なからず慌てた様子だったが……やがて体勢を立て直すと、剣を薙いだ。刀身に存在する『スピリットワールド』の力により、攻撃を弾き飛ばそうというわけだ。
その目論見は――成功。剣を叩き込まれた竜は、一気に消えることとなった。
「……危なかったですね」
ソフィアは言う。唐突な攻撃に、彼女も戸惑った様子だった。
「剣士だからといって、剣を振れば発動すると限らないわけだ」
解説するエイラド……ここで、アナスタシアが笑いながら話す。
「お前、解説のために剣を交わしたのだ、と言うつもりか?」
「無論実力は見ていたさ。だが、彼女の実力ならば申し分ないと判断し、色々と伝えたまで」
……なんか上手く逃げられたような気がするな。けど、勉強になったのは事実。
「で、もう一人の方だが……」
「言っておくが、ルオン殿は彼女の十倍は強いぞ」
「十倍どころではないと思いますよ」
ソフィアがすかさずフォローする。その言葉に俺は頭をかく。
「……エイラドさん、やる?」
「いや、よそう。恥をかくだけのような気がする」
苦笑を交え語る彼は、剣を鞘にしまうとさらに続けた。
「戦いながら説明したが、創奥義は話題に上る精鋭の騎士や、ネフメイザの護衛をする人間は使えるはずだ。先ほど精鋭の騎士などについては情報があまりないと言っていたな? もし私がネフメイザの立場ならば、相手の裏をかくような切り札を所持させ、対抗するだろう」
「確かに、ルオン殿達の能力をつぶさに把握しているとなれば、創奥義についても手を打ってくる可能性は高いのう」
アナスタシアが同調。俺はそれに頷き、
「心構えをしておくべき、というわけだな」
「そうだ。さきほどの戦いも、頭上から押し寄せる段階で剣を用い弾き返していれば、俺に迫るチャンスもあったはずだ」
まあ振り返ってみれば、奇襲同然の攻撃にソフィアの判断が遅れた結果、後退に繋がった。あらかじめ創奥義の特性がわかっていた――あるいは心構えができていれば、対処できたかもしれない。
「創奥義というのは基本、最後の切り札であり目の前の敵を一撃で倒すのを目的とした技だ。こう言うと一度きりしか使えないみたいに聞こえるが、連発するようなヤツもいる。そして」
エイラドは俺とソフィアを一瞥し、ニヤリと笑う。
「俺の創奥義は、魔力を剣から切り離し、遠くからでも攻撃できるようにするものだ。もっとも魔力が少ない俺は、普通にやっていては威力不足になる可能性があるため、相当気合いを入れて使うことになる。よって俺の場合は連発できない。まさしく切り札ってやつだな」
「……敵は、強力な技を何度も撃てると考えていいのでしょうね」
ソフィアが言う。それに同調したのはアナスタシアだ。
「そういう前提で戦うべきじゃろうな……ふむ、わしも二人の強さが十分だと考え、あまり指摘してこなかったのう」
「俺も何かやった方がいいんだろうか」
リチャルが呟く。俺は「どうだろうな」と返答し、ソフィアへ告げた。
「今回の敵は魔物ではなく人間の騎士だからな。注意すべき点は多いかもしれない」
「ではルオン様。フォルファ様との連携の際、それを念頭に置いて訓練を行います」
「ああ、それがいい」
俺も何かしらやっておくか……さて、
「侯爵、もう一つの用件だけど……」
「む? ああ、そうじゃったな。エイラド、実はもう一つ頼みがある。ちょっと武器の鑑定をしてほしい」
「……お前が持っている武器はどれもこれも曲者揃いだったな。今回は?」
アナスタシアは満面の笑みを浮かべた。
「聞いて驚け。今までのどの武器よりも不可思議じゃ」
「無茶を言うな。まあ一応見るが……どこにある?」
俺は右手を差し出して剣を生み出す。エイラドは、目を丸くした。
「おい、どういうことだ?」
「見てのとおりじゃ。遺跡にあった剣なのじゃが、ルオン殿が手にした途端取り込んだ。魔力を増幅する効果などがあるようじゃが、どういった特性なのかもわかっていない」
「そんな物、わかるわけがないだろう」
真面目顔で語るエイラド。まあ仕方がないか……などと思いながらとりあえず見せてみる。
「魔力の質は当然ながら解明は無理だな」
「わしでもそれは無理じゃから安心せえ」
「まったく……」
ボヤきながら彼は何度か素振りして、おもむろに魔力を込めた。
「エイラドは剣に魔力を注ぎ、その流れを読んで特性や剣の材質などを見極めるのじゃよ」
アナスタシアが解説。へえ、それは面白い。
しばらくして、彼は剣を俺へと返す。
「まず、材質などは当然わからん。これについてはアナスタシアが調べた方が早いだろう」
「何かわかったことはあるのか?」
「魔力の流れだが、いくつか戦闘に必要がないと思われる流れがある」
必要がない? 首を傾げていると、エイラドは解説する。
「通常、魔法剣というのは刀身を覆うように魔力が構成されるよう調整する。この剣も同じような仕組みだが、それとは別にいくつかのポイントで魔力が溜まるようになっている」
「その溜まるポイントをどうにかすると、剣の能力が生かせるのか?」
「おそらくな」
……なんとなくわかったけど、どうやってそれを調整するのかがわからないので、結局手探りしかないか。
「あとはひたすら検証しかないな」
「……わかったよ」
とりあえず、暇があれば調べよう……そう結論を出してアナスタシアに問い掛ける。
「これで、やることは終わりかな?」
「うむ……エイラド、戦いが始まるまではここにいるのか?」
「さっきも言っただろう? 何かあれば呼べばいい。戦いは一ヶ月もないんだろう? 俺は対応できるよう勘を取り戻しておく」
エイラドの言葉にアナスタシアは「頼むぞ」と告げ、リチャルへ言う。
「では、戻るとしようか」
そうまとめ――俺達はアナスタシアの屋敷へと戻ることとなった。
屋敷に戻った俺達は、各々自分のやるべきことを開始する。とはいえ俺とアナスタシアは再び作戦会議だ。
「確か、精鋭の騎士が遺跡探索をするまであまり日がないよな……仲間集めをするべきか、それとも剣の検証をするべきか」
「仲間については、他の侯爵と話し合うことも必要じゃろう。ユスカとカトラ、アベルにエイラド。これで四人。残る一人か二人はどうにかひねり出せるじゃろ」
「それならいいけどさ……なら俺は、竜魔石のすり替えをやっておくべきか?」
「うむ。事前にすり替えておいて、あとは騎士の様子をじっくり眺めるのがベストじゃろうな」
……それならば、
「明日にでも実行するか? 偽物は準備ができているわけだし」
「うむ、それで構わんぞ」
というわけで決定。明日、俺は遺跡に潜り込み策を実行する――




