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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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老剣士

 アナスタシアの指示により案内されたのは、山と森の境目くらいにある小さな小屋。今回はリチャルも共に進み、小さな小屋を発見する。


「お、あれじゃ。おーい、エイラド」


 外から呼び掛けるアナスタシア。しかし反応はない。


「ん、もしや寝ているのか? 老齢だというのに、あやつは基本昼まで寝ているからのう」

「……別に老人だから、早起きするというわけではないんじゃないかな」


 俺の指摘にアナスタシアは肩をすくめる。


「まああやつの場合は酒による二日酔いで起きられないみたいなパターンが多いからのう」

「……一応確認だが、信頼できるし強いんだよな?」

「なんじゃ、疑っておるのか?」

「なんか不安になってきたんだけど……」

「まあまあ、心配するな」


 手をパタパタと振る侯爵。


「あ、そうじゃ。酒を飲んだ翌日はすこぶる機嫌が悪く、下手をすると剣まで出てくるというパターンもあるぞ」

「……帰っていいか?」


 ここにきて、ロクな話が出てこないじゃないか……。


「腕は確かじゃから。おーい、エイラドー」


 再度呼び掛ける。もしや外から名を呼ぶのは、扉をノックでもしたら突然襲い掛かってくるとか、そういう理由なのだろうか。

 どちらにせよ、わかったことが一つある……結局紹介人がアナスタシアだから、その人物もまた相応というわけだ。実力はともかく。


 少しすると、靴音が聞こえた。とりあえず家にいる。

 やがて扉がゆっくりと開いた。見えたのは――


「ずいぶんと久しぶりだな」


 ――白髪の老人。しかし足腰は当然ながらきっちりとしており、細身だが恐ろしく芯が通っているように感じられる。

 切れ目で視線が俺達を真っ直ぐ射抜いているのだが、それが多少なりとも威圧感を覚える……百戦錬磨の武人という雰囲気であり、アナスタシアが協力を願おうとするのも理解できる。


「ここにわざわざ来たのは……ん、後ろにいるのは屋敷にいる客人か?」

「協力者じゃな」

「……ようやく皇帝打倒のために動き出したか」


 なぜ今までやらなかったんだ、という感じで息を吐くエイラド。


「ずいぶんと遅かった……いや、この場合は密かに準備していたということか?」

「まあ紆余曲折あるのじゃが……話をしたいのう」

「ああ、構わない」


 頷くエイラド。物腰に一点の隙もない。なるほど、本物だな。


「ちなみにじゃが、今まで何をしておった?」

「昨晩飲んでいたツケが回ってきて、二日酔いで倒れていた」

「おいおい……」


 前言撤回。本当に大丈夫なのか? いや、この場合はそんな状態でも隙がないということを驚くべきなのか?


「そうかそうか。ちなみに、客人に菓子くらいは出るのか?」

「悪いがそういうものは置いていない。酒ならいくらでもあるぞ」

「この状況下で飲むのはさすがに無理じゃなあ」

「そうか、酒の話ならお前といくらでもできるから期待していたんだが」


 ……おい、本当に大丈夫なのか?


 心の底から不安になっていると、アナスタシアが俺達へ振り返った。


「どうした? 狭いが座るスペースくらいはあるぞ?」

「確認だが、信頼できるし強いんだよな?」

「実力を検証するのは話が終わってからでよいじゃろう」


 そう語ったアナスタシアは俺達を手招きした。


「まあ心配するな……では、早速話をするとしよう」






 家の中はシャスタの家と同じように部屋数も少ないシンプルなもの。俺達は唯一大きな家具として存在する丸テーブルを囲んで話を始める。


「……ふむ、おおよそ理解できた」


 エイラドは言う。アナスタシアが話した内容は、俺についてのことやリチャルの資料については適度に省きつつ、この戦いのことを大筋語った。ネフメイザの反逆……それを聞いたエイラドは、嘆息する。


「あのネフメイザ殿が、という驚きはあるな。そして人造竜か。俺がやるべきことは、騎士の一人を相手にすると」

「不服か?」

「そういうわけではないが……まあいい。複雑な事情が絡んでいるようだが、俺もこれ以上詳しいことを聞くつもりはない。大体、脳みそが退化しているからな。俺の頭では理解できん」


 ……終始こんな調子なんだよな。物腰はかっこいいのに。


「要はネフメイザとの戦いの障害となる敵を排除すればいい、という話だろう?」

「正解じゃ。そのために色々と決戦に向け準備を行っている。エイラドもそのようにしてもらいたい」

「……私の協力が必要ならば、呼べばいい。屋敷に入る気はないぞ」

「現在、敵の戦力分析を進めている状況じゃ。もし今のエイラドで適わないと判断すれば、多少なりとも頑張ってもらうぞ」

「その騎士達は、それほどの相手だということか?」


 興味深そうに――それこそ眼光鋭くエイラドが問い返す。


 一番関心の高いことは敵について……というより、どれほど強いのかだな。敵が強ければ強いほど燃える感じだろうか。


「現状では不明な部分もある故、断定はできん。じゃが、驚異的な再生能力があり、一太刀入れただけで終わりというわけではなさそうじゃ」

「ほう、それは面白い。是非とも手合わせてしたいな」

「……それで、エイラド。わしとしてはおぬしの腕を疑っているわけではないのじゃが、騎士のことを調べる上で、対抗できるか比較する必要がある」

「実力を今一度確認したいと?」


 ――そういう話の流れになるのは不思議じゃない。というか、俺もわかっていた。

 フォルファに引き続いて実力を確かめるというわけだ。


「その相手じゃが――」

「ああ、アナスタシア。それには条件がある」


 そう言って、エイラドは俺とソフィアを一瞥した。


「二人、それなりの使い手だろう? 是非とも手合わせがしたい」


 ……両方か。本当に好戦的だな。


「ルオン殿、ああ言っているがどうする?」

「別にいいんじゃないか。当人がやりたがっているわけだし」

「ならば、それでいこう」


 というわけで、外に出る。家の前でまずエイラドとソフィアが向かい合う。

 そこでまずソフィアが質問をした。


「何かルールはありますか?」

「そちらは魔法と技、両方使えるのだろう? どういうやり方をしてもらっても構わん」


 あれ、彼女については何も言っていないが……。


「エイラド、なぜ気付いた?」


 アナスタシアが質問すると、彼は肩をすくめた。


「剣だけを学んでいる者と、魔法を平行して学んでいる人間とでは構えの動作からして違う」


 気配とかじゃなくて構えでわかるのか……これも戦歴の積み重ねか。


「お嬢ちゃんはどうやら剣に魔法の力を織り交ぜるようにしているみたいだな。その力の大きさは……間違いなく、俺を上回っているな」


 そこは断言するのか。


「魔力の大きさについて差がある、というのはかなりの痛手だ。魔力強化などに関係するからな。しかし、立ち向かう方法は色々とある」

「ならば、見せてみよ」


 アナスタシアが言う。するとエイラドが剣を抜き、呼応するようにソフィアも抜いた。


「いいだろう。魔力の多くない老兵が、どこまでやるか見せてやろう」


 宣言と同時、エイラドが駆ける。ソフィアもまたそれに応じ――戦いが始まった。


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