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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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仕込み

 通されたのは、地下室。単なる物置部屋に地下への隠し通路を作り、その下に石造りの……天使の遺跡でも再現したかのような部屋があった。


「ずいぶんと広い地下室だな」

「ここは二番目に広いな」

「……えっと、屋敷の下にはこんな部屋がいくつもあるのか?」

「ふふん」


 胸を張るアナスタシア。別に褒めてないぞ。


「帝国側にバレないよう色々研究するには、それなりの設備が必要なのじゃ」

「そうか……で、竜魔石は――」


 問い掛ける寸前、アナスタシアは一枚の扉を開けた。その奥に、青色に光る魔石が一つ。


「さて、魔力を調整すると言ったわけじゃが、それは人造竜の仕込みにも関係してくる」

「ん、どういうことだ?」

「現在、この竜魔石には人造竜の動きを制限、及び操作できるような処置を行った。じゃが、ネフメイザの切り札とも呼べる存在かつ、多種多様な竜魔石を注いで生み出された存在に、これ一つだけで対抗するには工夫がいる」

「確かに、単純な魔力量では勝てないからな」

「リチャル殿も人造竜の設計図などは手に入らなかったらしいので、普通に考えれば成功しても動きを止めるくらいじゃろうか」


 ま、十分だろう……それに、武器作成のための竜魔石を得られるし。むしろこのメリットがあるからこそやるようなものだ。


「話を戻そうか。ルオン殿にやってほしいのは、竜魔石をすり替える際、罠が発動せんように魔力量を真似ることじゃ」

「真似る……って、ちょっと待て。俺の魔力を使うのか?」

「何か問題が?」

「いや……竜魔石に内在する魔力量を、俺がひねり出せるのか?」

「あれだけ遺跡で暴れておいて、よく言う」


 どこか呆れたようにアナスタシアは呟いた。


「まあ、質そのものを真似ることは難しいじゃろうな。ともかく、罠の発動条件は魔力量じゃ。それだけ似せることができれば、成功する。理論的には、一定の重さがないと発動する罠で、同量のダイヤモンドと石をすり替えるといった感じじゃな」

「俺の魔力は石扱いか……ま、いいや。で、それを遺跡の奥でやるってことか」

「うむ。もちろん事前に魔力を注いでおき、準備はしておく……で、ルオン殿の魔力を使うのは理由がある。仮に人造竜を制御できた場合……当然、誰がその役目を担うかという話になるじゃろう?」

「え……もしかして、それを――」

「使い魔を利用し、ルオン殿が一番戦況を把握することができるじゃろう。ならば、わしは貴殿に任せるべきじゃと思ったのじゃよ」


 ああ、そういう考えか……でもまあ、一番理に適っているか。


「えっと、わかったよ。どちらにせよ俺の魔力で調整するんだから、それ以外に方法はないんだろ?」

「そうじゃな」


 頷く侯爵。次いで、怪しげな笑みを浮かべた。


「わしとしては、ここに期待しておる。人造竜を自由に動かすまでに至る可能性として、最も高いのが外と内、両方からルオン殿が干渉することじゃ」


 俺の能力により「勝算」はあると言いたいようだった。買いかぶりすぎだと思うんだけど……。


「というわけで、早速魔力を注いでくれ。竜魔石の魔力量についてはリチャル殿の資料にも記載されておる。それを基に魔力を注入し、あとは現地で調整じゃな」


 またしんどいな……でもまあ、やるしかない。


 というわけで俺は偽の竜魔石に魔力を注ぐ。アナスタシアが「そこまで」と言うくらいまで。

 俺としては余裕のある量だったんだが……これ言ったらまた侯爵が呆れるだろうから、何も言わないでおくか。


「よし、第一段階は完了じゃ。それで、今回遺跡を探索する騎士じゃが」

「確か資料には三人……俺達を阻む騎士が帯同するんだったな」

「うむ。騎士についてはリチャル殿の資料にもほとんど記載がなかったため、わしも調べているのじゃが……ずいぶんとガードが硬い」

「騎士達のプロフィールとかは?」

「それらも手には入らんのじゃよ……経歴くらいは調べられそうなのじゃが、深く詮索すると見つかるかもしれんからな」


 ……ネフメイザとしても騎士の能力が漏れるのは避けたいだろうし、厳しいということか。


「だからこそ、今回ルオン殿が騎士達の様子を確認することに意味がある」


 ――俺ではなく、ユスカを始めとしたこの大陸の人間が戦う以上、つぶさに能力を把握しておくことは重要だろうな。


「調査が入るのは数日後となっておる。それまでルオン殿の方は剣の検証をしていてくれ」

「まあいいけど……侯爵は何かするのか?」

「時間もあることだし、わしも色々と動いた方がいいじゃろ。精鋭の騎士に対抗できる戦力……その一人を呼ぼうと思っておる」


 あ、候補がいるのか。


「名前は?」

「エイラド=ザファーという。知らんか?」


 首を左右に振る。ゲームで仲間になる人物ではない。


「侯爵が言う以上は、信用がおけると考えていいんだよな?」

「まあのう。気難しい老剣士じゃが、一応わしに忠義を持っておるからな」


 忠義……目の前の侯爵には似合わない言葉だな。


「む、今似合わんと思ったじゃろう?」


 あ、バレた。


「……元々、先代侯爵に仕えていた者でな。わしの子供の頃から屋敷にいた」

「頭が上がらなさそうだな」

「その通りじゃよ。現在は隠居しているのじゃが、力が必要であれば呼べと言っておった。一ヶ月ほど前に帝国側の情勢を気にしていた文も来たため、まあ元気じゃろうな」

「へえ……」

「それと、現皇帝をあまりよく思わんようじゃな。ネフメイザの情報操作による影響じゃろう」


 ……ゲームで登場しなかったのは、アナスタシアが皇帝側に協力していたから、かな?


「その人物についてはわかったけど……強いのか?」

「全盛期と比べれば落ちたかもしれんが、そこいらの騎士が束になっても適わんレベルじゃぞ」


 うーん、判断に迷うところだけど……。


「疑うなら、おぬしもついてくるか?」

「……会いに行くってことか?」

「うむ、どうせあやつは屋敷に寄りつかんじゃろうからな。話をするなら、事情を説明した時にやった方がいい。ここからそれほど遠くないため、日帰りでも問題ない」


 そこまで言うと、アナスタシアはポン、と手を叩いた。


「そうじゃな、あやつは武器鑑定みたいなこともしておった。ルオン殿が手に入れた剣の詳細が判明するとまではいかんじゃろうが、何かヒントくらいは手に入るかもしれんな」

「……別にいいけどさ」


 剣の検証については、模索しているところだし。


「他には? 日帰りってリチャルの竜を使って、の話だよな?」

「ここから馬で数時間といったところじゃよ。竜ならあっという間じゃろうな」


 それなら……頷こうとした時、ソフィアのことを思い出す。


「ソフィアも連れていっていいか?」

「別に構わんが、何かあるのか?」

「いや、戦歴長い剣士なんだろ? ソフィアも興味があるかなと思って」

「うむ、構わんじゃろう。人が多くても気にせんじゃろうし」


 そう答えると、アナスタシアは出口を指差す。


「早速行動するとしようか……休んでもらっているリチャル殿には悪いが」






 というわけで、俺とソフィアとアナスタシアとリチャル。この四人で出かけることになった。ちなみにフォルファだが、なぜかロミルダと話し込んでいた。


「あれ、どうしたんだ?」


 ソフィアに訊くと、彼女はフォルファに視線を送り、


「なんでも、彼女にも色々教えた方がいいと」

「……指導してくれるってことか。まあ彼女は俺達でも戦い方の説明が難しいし、竜精の方がいいかもしれないな」

「準備はいいかー?」


 アナスタシアが問う。既に竜に乗り準備万端。俺はそれに手を挙げ、ソフィアと共に竜に乗った。


「というわけでリチャル、頼む」

「任せろ」


 頷いた彼は、竜に指示し……昨日に引き続き、今日もまた竜の背に乗り飛び立った。


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