垂涎の武器
次の日、俺達はリチャルの竜を用いてエクゾンの屋敷へと戻る。で、侯爵に三人をお願いすると、彼が口を開いた。
「うむ、私もできる限り協力しよう……もし彼女が何かすれば、私が責任を持って応じる」
「そういうことにはならないから、安心してくれ……カトラさん、ユスカ君、そういうわけでよろしく」
「はい」
「わかりました」
――皇帝候補であるカトラについてはそう心配はしていない。最初にシャスタの力を組み合わせた感触もよかった。彼女についてはおそらく問題は解決したと考えてもいいだろう。
ユスカの方も彼女と合わせ鍛えれば……ひとまず五人の戦士集めについて、二人は解決か。しかし残る三人……これは迷宮攻略後に考えよう。
「よし、ソフィア、リチャル――」
と、ここでロミルダに視線を向ける。
「……危険な場所には違いないから、俺の指示には従うこと」
素直に頷くロミルダ。兄と呼んでいることからも、言うことは聞くってことでいいんだよな。
そして俺達は竜に乗り、一路迷宮へ――
「あ、リチャル。ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
「アナスタシア侯爵も同行する気満々だったから、まずは彼女の屋敷に行こうか」
「わかった」
そして俺達は竜に乗り、飛び立つ。
「迷宮攻略が終わった後は、仲間探しに入るのか?」
リチャルが俺に尋ねる。こちらは「そうだな」と同意した後、答えた。
「帝国側を恨んでいるような人間もいたし、その中には即戦力となる人物もいた。剣豪という感じの人もいるから、剣術を向上させるのにもいいかな」
「ルオンさんはこれ以上技術向上は必要ないだろ」
「いやいや、そういうわけにもいかないと思うぞ」
そう述べるとリチャルは笑い始めた。
「まったく、ルオンさんには恐れ入る」
「それがルオン様ですから」
ソフィアが口添え。こちらはどこか嬉しそうだった。
竜を利用し、アナスタシアの屋敷に辿り着いたのはその日の夜。エクゾンの屋敷と距離はそれなりだが、やはり障害もない空を飛ぶと思った以上に早く辿り着く。
「お、来たな」
アナスタシアが出迎え。俺は早速口を開く。
「迷宮攻略に行くつもりなんだが、そっちが言ったからな。まずはここに来た」
「うむ、わしも付き合おう。ルオン殿としてはわしのことを推し量る絶好の機会じゃろう」
こっちが本当に信用できるのか、などと疑っている前提で話をしている――なんというか、シャスタの言うとおり何でもかんでも口に出すその性質は、損している気がするな。
「ロミルダ、この世界のロミルダに会わせてやろう」
「あ、はい」
頷き彼女は侍女の案内により奥へと進む。
「ルオン殿達はどうする?」
「……さすがに今日行くつもりはない。ただ、武器に使う竜魔石の確認くらいはしたいな」
「それについてはわしも用意しておる。こちらに」
そう言ってアナスタシアは手招きする。俺達はそれに黙って追随し……客室に通された。そこに――
「これは……」
ソフィアは驚き声を上げた。リチャルは言葉をなくし、俺は部屋の奥を見て息をのむ。
室内は、竜魔石の光によって満たされていた。ただ性質の違いか色が異なり、赤、青、紫など様々な光を見せている。
「竜魔石を混ぜ合わせる以上、固有の能力について検証する必要はない。質の良い物を一通り集めてみた」
アナスタシアは秘密基地を自慢するような雰囲気で俺達に言う。
「質の悪い……というより、一定以上の力を持っていないと竜魔石の力そのものが打ち消される可能性もある。よって、ある程度の質は保たないといかん。わしとしては、これが限界じゃな」
「限界って……かなりの数あるんだが……これを全部提供してくれるのか?」
目算、十以上はあるぞ。これらを一つに結集するだけでも、相当な物になる。
「無論、タダではない」
「以前言った対価のことか」
「うむ、便宜を図ってもらうと言っていたが、あの時は詳しく話さんかったな」
「エクゾンがいるからか?」
「まあそれもある……できればルオン殿達だけと話したかったのじゃよ」
「……で、要求は?」
問い掛けると、アナスタシアは笑う。
「なあに、それほど難しい話ではない。要求は二つ。一つ目は、生み出した武具について、管理をわしに任せて欲しい」
「使う気はないのか?」
「わしが使えないように加工するんじゃろ?」
わかり切ったことを聞くな、とばかりにアナスタシアは言う。
「皇帝候補専用とかにしておけば、少なくとも問題はあるまい……いや、屋敷にはこの世界のロミルダがいるな。万全を期し、おぬしらと行動するロミルダ専用とかでもよいかもしれん」
「使えない物を管理するというのはどういう了見だ?」
「大陸に眠る竜魔石を余すところなく収束した力――これ以上の武器はないじゃろう? それをわしは愛でたい」
そうだった、この人武器収集マニアだった。
というか、話しているだけでもヨダレ出しそうなくらいニヤけている。
「常日頃考えておった。竜人が扱える究極の武器が欲しいと。じゃがそんなものを下手に製造すれば、目をつけられることは必至な上、わしのコレクションだけではおそらく足りん。しかし今回はネフメイザ打倒の下、進んでそれを作成しようとしている。しかも魔王を打ち破った存在が協力してくれるとなれば、わしが渇望する物ができよう。それを毎日間近で眺めることができれば……考えただけでもゾクゾクする」
なんだかなあ。けど、生み出した武具の管理をどうするかというのは問題の一つではある。遺跡の奥深くに封印するといっても候補なんてすぐには見当たらない。味方につけた竜精辺りに任せるという案もあるけど――
「……どちらにせよ、それは武器を作成し、使い終わった後に考えることだな」
「うむ、そうじゃな。ではもう一つの要求じゃが、これもそう難しくはないぞ」
と、彼女はソフィアに目を向けた。
「おぬしらの旅……その詳細を、わしにも教えてほしい」
「何?」
「興味本位で語っているのではない。どうやらこの戦いはネフメイザ……いや、この大陸で収まるようなものではないのじゃろう? そうした情報……言わばこの世界に隠された秘密。それを知りたいとも思っておる」
そこまで言うと、アナスタシアは腕組みをした。
「これについてはルオン殿にもメリットがある。もし竜人の協力が必要になった場合、わしに話してもらえれば動けるよう態勢を整えておこう。アベル殿やエクゾンにその辺りを頼むというのもアリじゃろうが……戦いに勝てばアベル殿は皇帝として忙しくなるじゃろうし、エクゾンは彼と共に色々動くことになろう。ならば、もう一人くらい話を通すことができる人間が必要ではないか?」
――言っていることは間違っていないな。こちらも協力者が増えるわけだからメリットはある。
「……それさえすれば、協力してもらえるのか?」
「うむ、信頼関係はこれから築いていこうではないか」
両手を広げ、さらに笑いながら主張するアナスタシア。どこまでも食えない性格だ。
「さあて、話はここまでにしておこう。明日はいよいよ迷宮に突入じゃな」
何で嬉しそうなのか。まあいいか。考えてもムダだろう。
「ルオン殿、場所などはわかるのじゃな?」
「ああ。早朝からそこに向かうことにしよう。迷宮で内部もある程度は把握しているけど……かなり大変なのは間違いない」
「望むところじゃよ。久方ぶりに我が竜魔石を活用する時がきたようじゃな」
――彼女の竜魔石か。それがどういう力を持つのか、現実となった今確認しておくことも必要だろう。
「さて、おぬしら夕食はまだじゃな? 明日に備えてたっぷり食べさせてやるから安心するといい」
どこまでも無邪気に――アナスタシアは俺達に言った。




