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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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竜精のいる場所

 翌日、俺達はリチャルの使役する竜を利用して移動を開始する。無論、使い魔を利用してネフメイザの動向を観察するのは忘れない。


 そしてアナスタシアに言われた山岳地帯へ足を踏み入れる。ユスカ達の能力底上げもあるので、山を登りながら魔物と交戦することにする。ここはゲームには登場しなかった場所。よって、俺としても手探りで進むことになったのだが――


「ソフィア!」

「はい!」

「ユスカが魔物に苦戦している! 援護を頼む!」

「わかりました!」

「よし、それじゃあ……ロミルダ、それ以上進むな! 俺が相手をする!」


 絶賛、魔物と格闘中だ。


 出現する魔物は物語で言えば中盤くらいに登場するもので、カトラにとっては大変だがユスカやロミルダはどうにかできるレベル。特にユスカは予想以上の対応力で、斧を握るミノタウロス相手に力で負けることなく押し返していた。


 とはいえ、問題は数。俺達の魔力につられてやってきたのか、進むたびに魔物と遭遇する。少し歩けばまた魔物。角を曲がると魔物と遭遇。それの繰り返しだった。


 エンカウント率としては、数歩進んだら遭遇といった感じだろうか? これ、ゲームだとしたら苛立ってコントローラー床にたたきつけるレベルだぞ。


「っ……!」


 カトラが短く声を上げる。現在彼女は黒い毛並みを持った狼と切り結んでいる。山に入り幾度となく戦った結果動きもよくなっているが、現状まだ足を引っ張っている状況。


「ロミルダ!」


 俺が指示を出すと、彼女の指先が動く。右手を指揮者のように振ると、その先端から光が溢れた。

 そして放たれる光の矢。紫色のそれは狼の頭部を撃ち抜き、確実に滅する。


 見た目は地味だが、その威力は相当高いのだと戦う間に俺は確信していた。


「ありがとう」

「いえ」


 短いやりとりを交わした後、カトラは別の魔物と対峙する。赤いスライム。あれならカトラも倒せるはず。


「しかし、すごいなこれは」


 後方でリチャルの声。一瞬だけ振り向くと、使役する魔物を利用し後方からの敵を食い止める彼の姿。


「リチャル、俺に任せてくれ」


 素早く彼の前に出て、魔物と交戦開始。今回は竜魔石含有の武器は使っていない。自ら生み出した簡素な剣を用い、敵を一撃で粉砕していく。


「さすがだな。俺もそのくらい強くなれればなあ」

「ぼやいても仕方がない。倒したから俺は他の援護に回る」


 と、ここでロミルダがまたも光を生み出した。進行方向にいた魔物に攻撃を浴びせ、大いにひるませる。

 そこへ、前線にいるソフィアとユスカが攻勢に出た。ソフィアの的確な剣さばきと、ユスカのまっすぐな剣戟。その二つが確実に魔物を倒していく。


「とりあえず、これで周辺の敵は全滅かな」


 俺は空中にいるレスベイルで確認。うん、周囲にあった魔物の気配が消えた。


「よし、それじゃあ休憩にするか」






 岩場に入り込み、休憩する。水筒に一口つけた後、ユスカとカトラの様子を窺う。

 二人とも、かなり疲労が溜まっている様子だが……それと引き換えに先ほどの戦いは山に入った直後と比べ相当練度も上がり、確実に成長している。アナスタシアがこうしたことも考慮して俺達を派遣したのなら、ずいぶんな荒療治。とはいえその成果はしっかりと出ている。


「あと、どのくらいなのでしょうか」


 ソフィアがふいに呟く。俺は頭の中で考え、


「現在の時刻が昼過ぎか……朝方から入り込んでこの時間……魔物と戦い続けているため歩みは遅いし、まだかかるかもしれないな」

「夜になるとまずいですよね」

「そうなったら適当な洞窟に逃げ込むか、魔法でスペースを確保して野宿しかないな。ま、俺なら一晩寝ないでも行動できる。なんとかなるさ」


 ソフィアの顔に「無茶はしないように」と出ているが……俺は笑みで応じた後、ユスカ達に問う。


「二人とも、大丈夫か?」

「俺は大丈夫です」


 ユスカが先に発言。続いてカトラは無言で頷いた。

 疲労が多いのはカトラだろうな。ユスカは最初から戦えているけど、カトラは苦戦しているし。


 そしてロミルダは……平然としている。もっとも、こちらにいらぬ心配をかけまいとしているのかもしれないし、確認しておく必要はある。


「ロミルダ、大丈夫か?」

「はい」


 返事はきちんとしている。もし危なくなったら――と言おうとしたが、彼女はわかっているとばかりに頷いた。こちらの意図は理解したようだ。

 残るは……リチャルは直接戦っているわけじゃないから大丈夫そうだ。ソフィアも問題なし。


「……む」


 ここで俺は声を上げた。周囲を監視するレスベイルからの報告。魔物が近づいている。


「本当にキリがないな」

「また来るのですか?」


 ソフィアの問いに俺は首肯。


「ここで待つのは袋小路だ。さっさと移動するか。全員、準備はいいな?」


 ある程度体力も回復したようで、ユスカやカトラも頷いた。


「よし……ここからはソフィア、ユスカ、カトラの三人で前線に立ってもらう。俺とロミルダは援護。リチャルは後方警戒を頼む」


 ――そういえば、いつのまにか俺が指示しているな。まあこの面子だと俺以外にいないんだろうけど。


「では、出発」


 歩き出す。数分後、最初の魔物に遭遇する。

 俺達の進行方向に多数の魔物を確認。ソフィアが先陣を切り、確実に敵を滅する。


 そこへ畳み掛けるようにユスカが後続の魔物に攻撃を浴びせ始める。地面を薙ぎ、衝撃波を生み出す攻撃。威力は十分で、敵は混乱し足並みを乱すことに成功した。

 そして後続が襲い掛かってくる。種類は多いが、俺とロミルダの援護により的確に動きを封じていく。トドメは前線三人。この調子で動ければ無傷で済みそうだ。


 このまま何事もなく進んでくれ……と思いながら、山を登る。それから幾度となく魔物と遭遇するが、ユスカとカトラはきちんと応じた。


「……あ」


 ふいに、ユスカが声を上げた。前方に何かを発見したようだ。


「ルオンさん、村が見えるんですけど」

「え、村?」


 ユスカが指で示す方向を見る……あー、確かに家が数軒見える。


「この魔物の群れの中で暮らしているのか?」


 ――ゲーム内には、どう考えても人が住めないだろうという所に村がある。これだけ魔物が出現する以上、前方に見える村もそのように思える。


 特殊な魔法を使っているのか、それとも他に何か理由があるのか……どういう理由にせよ、現実になって目の当たりにすると違和感があるな。


「……距離はそう遠くないな。よし、目標はあの場所にしよう」

「はい」


 ユスカの返事。俺は前線にいる彼を含めた三人に追随し、歩を進める。

 その間にも魔物が襲い掛かってくる。しかし魔物の質に変化はないため、カトラも徐々に対応できるようになってくる。


「この場所を最初に選んで正解だったかもしれないな」


 竜精のこともあるが、それ以上にユスカ達の戦力強化は大いに価値がある。五人の騎士に対抗できるかはまだわからないが、その可能性を引き上げただけでも成果としては十分だ。


 ただ、カトラについては不安が残るのも事実。彼女の場合はどれだけ装備で補えるのか。あるいは、竜精を利用するのか。

 色々と頭の中で思案する中、俺達は魔物を倒し少しずつ村へと迫る。とりあえず廃村というわけではなさそうだ。


 そして――とうとう目的地である村に到着した。


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