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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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宴の夜

 ロミルダはソフィアに任せ、俺はひとまず資料を読み込む。これから起こること……といっても、あくまで前回の戦いにおいてだ。この通りに進んでも結末は変わらない以上、どこかで行動を変えなければならない。


「魔王との戦いとは異なる面倒さがあるな……」


 無論、あの戦いだって予定外のことはあった。けれど魔王についての全容は理解していたし、物語の延長線上にあった戦いなので、対処はそう難しくなかった。

 今回は敵の全容を完全につかめていない。そこが大きなネックとなっている。


「もっとも、相手を完全に封じ込めるだけの力があれば別か」


 結局、最終的にはそこだ。前回の戦いと異なり情報も持っている。さらにロミルダも力を得ている。こうした点があるからこそ、今度こそ倒せるはず。


 昼前には資料を頭に叩き込み、頭の中を整理し始める。俺達がとるべき行動は――


「うーん、やることが多すぎる」


 取得選択しなければならないのは事実だが……。


「優先すべきは、時を巻き戻す魔法を精霊達を急かすことと、ソフィアや騎士に対抗する面々を鍛えることかな?」


 あるいは……ソフィアの場合は切り札がある。それはガルクもわかっているようで、ふいに声が聞こえた。


『ソフィア王女については、神霊の剣があるだろう』

「……最終的にはそれかな」

『現状、彼女にしか使えんだろうから、奪われてどうにかなる心配もないだろう』


 前回の戦いにおいては、精霊達の調査も間に合わなかったのだから、剣を持ってくることはできなかったのだろう。


「それさえあれば解決……で、いいのか?」

『わからん。ルオン殿が不安ならば、念には念をという考え方もあるぞ』


 どうするか……この場合、ソフィアがどういう戦いを経たのかが問題だ。


 リチャルが結末についてぼかした、というのはソフィアが原因ならば理解はできる。ただ、仮にそうでも「ソフィアがこういう戦い方をした」という記述くらいあってもいいだろう。けれどそれもない。ということは、おそらくリチャル自身その場にいなかったためではないか。


 つまり、結果は知っているがどういう状況でそうなったかまではわからない。よって、神霊の剣を所持していてもそれを活用する前にソフィアが――という可能性だって考えられる。


「俺が所持するレスベイルのように、彼女の意志とは別に動ける存在がいればまた別の話だな」

『しかしそれはハードルが高いぞ。精霊を生み出すにしても神霊達がいない以上、レスベイルのような存在はこの場で生み出せん。ネフメイザの策に対抗できるものとなれば、相当な力が必要だろう? 厳しいかもしれんぞ』


 確かに、どうするか……ゲームの知識により候補が浮かび、それを逐次頭の中で検討する。昼を迎えて食事の後も、そのことをなおも考え続けた。






 色々思案を続け、結果的に結論が出ないまま夜を迎えた。そろそろ宴の時刻ということで、着替えさせられたのだが……。


「ルオンさん、似合っているな」

「……どうも」


 正装なのか知らないが、一応貴族服的な物を渡されてそれに着替えた。黒を基調としたそれは、俺の背丈にぴったりと合っており、違和感はあまりない。


「ルオンさんは身長もそれなりにあるから見栄えがいいな」

「そうか?」

「少なくとも俺と違って着られていない」


 そう語るリチャルの服は紺色。幾分ゆったりとした感じであり、俺が騎士なら彼は魔法使い、という雰囲気に仕上がっている。


「そういえばルオンさん」

「ん、どうした?」

「ソフィアさんのドレス姿というのは見たことがあるのか?」


 ……言われて見ると記憶がないな。出会いも牢獄の中で外套姿だったし、魔王を倒した後の宴は無礼講で俺達もそのままの格好で参加したし。


「無いな」

「じゃあこれが初めてか。しかし、変わった所で宴をやることになったな」

「まったくだ」


 俺としてはこういう舞台がほとんど初めてなので、ちょっと緊張している……まあ集う面々の中で高貴な人物というのがソフィアと侯爵達くらいなので、そう構える必要はないのかもしれないけど。


「集まっているな」


 アベルの声。視線を転じると、俺と同じような衣服を着たアベルと、その隣にはユスカ。


「アベルさん、どうも。『天の剣』からは他に誰が?」

「幹部クラスを複数人。男女半々といったところだ。侯爵と話をする機会としてはいいだろう」


 彼が話をした後、後方から男性達がやってくる。ただ見覚えがなく、ゲームで仲間になるような人物でないのは間違いない。


「俺が出て大丈夫なんでしょうか」


 ユスカが不安げに呟く。一人元騎士なので不安になるのもわかる。


「その辺りは別に気にしなくてもいいんじゃないか?」


 そう返答した後、周囲を見回す。女性陣は別所で着替え中のようで、姿は見えない。


「もうすぐ時間だろうから、会場に向かうか」

「ああ」


 リチャルが返事をしたと同時、俺達は歩き出した。すると、


「お、来たな」


 その途中に、アナスタシアが立っていた。ただし、格好は変わっていない。


「そちらは、そのままで通すつもりなのか?」

「わしに問題があるというわけではなかろう。それに、このくらいの格好をしていた方が、そちらの肩も軽くなるじゃろう」


 物はいいようだな、と俺は内心思いつつ彼女に問う。


「他の女性達は……」

「ああ、そろそろ着替えも終わる頃じゃろ。男であるおぬしらと比べ、女というのは大変じゃな」


 そう語るとアナスタシアは笑い始める。


「ソフィア王女はさすが、といったところじゃが、他の面々はドレスに着られているという感じじゃったな」

「それは仕方ないさ……俺達は会場に入ってもいいのか?」

「うむ、進行はエクゾンがやるようじゃし、そっちは思うがまま食べて飲めばよい。わしもそうする」


 と、彼女は俺達を先導し始めた。それに従い俺達は歩を進め、やがて会場に到達。既に設営も終わっており、いくつものテーブルと、その上に豪勢な食事が並べられている。

 立食形式らしく、立ち位置も特に指定されていない。なんとなくアベルに目を向けると、彼は小さく頷き組織のメンバーを先導して前のテーブルへ進んでいった。


 俺達はどうするか……と、ここでリチャルが近くのテーブルを指差し、そちらに寄っていく。

 テーブルには他にもユスカが。三人で始まるのを待つことに――


「お、なかなか似合っているじゃないか」


 背後からエクゾンの声。振り向くと、笑みを浮かべる彼の姿。


「もうすぐ女性も来るから、それまで少し待っていてくれ」

「わかった」


 彼は返事を聞くと俺達の横を通り抜けて前へ。屋敷の主ということで司会進行役みたいだが……ああいうのは大変そうだな。


「俺達はどっちかというと、脇役だな」


 その時、ふいにリチャルが呟いた。


「名目上は親睦会だからな。侯爵達と『天の剣』のメンバーがしっかりと話をすべきだろ」

「まあそうだな……ま、その方がいいよ。矢面に立たされるのは勘弁だ」

「とはいえ、この戦いに勝利した後、騒ぐことになったら間違いなくルオンさんが前に出ないといけないぞ」


 ……魔王との戦いでもそんな感じだったが、あれはキツいんだよな。


「ま、今のうちに気の利いた言葉でも考えておくべきだろうな」

「気が早すぎるだろ……」


 そんなやりとりをした後、後方で扉が開く音。女性陣が到着したようだった。


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