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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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勝つために

 アナスタシアの言葉を受け、ロミルダに視線を向ける。いまだソフィアに抱きしめられる彼女を見て、口元に手を当て考える。


「勝利の鍵、か……」

「うむ、ネフメイザについてはなんとかなるかもしれん。問題はそれ以外。リチャル殿の資料によれば、この戦いの大きな障害となるのは二つ。一つは人造竜を始めとしたネフメイザの策。そしてもう一つが、『漆黒の剣』に存在する、五人の騎士」

「ルオンさんの手に掛かれば、騎士なんて楽勝だと思うんだが」


 リチャルが言及。けれどアナスタシアは首を左右に振った。


「ルオン殿には人造竜などを相手にしてもらなければならん……その辺りは、ロミルダの方が事情を把握しておるはずじゃな」


 話を振られ、ロミルダはようやくソフィアから体を離した。泣き止んだ彼女は、目を赤くした状態で俺達に視線を送る。


「ロミルダ、話してもらえるか?」


 アナスタシアが言う。すると彼女は言葉を慎重に選ぶように……ゆっくりと語り出した。


「その、私と……ルオンお兄ちゃんがネフメイザという人のところに行こうとしたんだけど……」


 ――お兄ちゃんが微妙にくすぐったい。まあいいか。


「それを邪魔するように五人の騎士が出てきたの。その時、町中では魔力が一点に集まり始めていて、そこへ行かせないように立ちふさがった……ということだと思う」

「その時、俺はどうしたんだ?」

「もちろん戦ったよ。けど、倒しても体が元通りになってしまうの」

「再生能力……俺の攻撃を受けて、ということならその戦いに備えて力を蓄えたという感じかな。俺と戦うのを前提に生み出された存在であるのは間違いなさそうだ……確認だが、そこは町中なんだな?」

「うん。周りにはたくさん人もいた」


 ――能力に加え、下手に全力を出せば周囲に被害が及ぶ状況を利用したわけか。なるほど、考えたな。


「つまり、その五人の騎士に対抗する戦力を生み出すべき、ということだな」

「そいつらを食い止めるなら、五人に限定しなくてもいいんじゃないか?」


 リチャルの意見。確かにそうだが――


「残り時間が一ヶ月しかないからな。人選を考慮しないといけないし、大勢を鍛えるのも難しいだろうな」

「可能ならば、五人加えるべきじゃろう」


 アナスタシアが口を挟んだ。


「資料には、五人とまではいかないが候補も書いてあるぞ」

「え……あ、本当だ」


 名前を見ると、アベルやカトラといった皇帝候補に加え、ユスカの名前が記してある。


「この面子を見ると、前回の戦いで彼らはあまり活躍しなかったのか?」

「アベル殿はエクゾンの影響により皇帝を打倒する組織の盟主という形だったようじゃな。とはいえ、アベル殿を除いてあまり関与しなかったと書かれているところを見ると、ルオン殿達もそこまでは手が回らなかったようじゃ」


 まあ二ヶ月の期間を予測している状態で、決戦が一ヶ月後だったわけだから、対策もとれなかったということかな。


「わかった。なら俺達がやるべきことは、騎士に対抗できる戦力を集め、なおかつ俺とソフィアが今以上に強くなることだな」

「結構無茶な話ですよね……」


 至極冷静なソフィアの言葉。そう言いたくなるのもわからないでもない。

 今回は厳しい時間制限もあるからな……それを打開するには――俺は資料を読み始める。


「とりあえず、前回の戦いがどういう過程を経たかを調べて、今後俺達がどう動くべきかを判断するしかないな」

「ルオン様、時を巻き戻す魔法について、詳細はないのですか?」

「……そういえば、書いてないな。いや、待て」


 読み進めると……あった。


「調査は、一ヶ月では間に合わなかったらしい」

「そちらも平行して調査すべきなのでしょうか?」


 ソフィアの疑問だが……とにかく時間がないんだよな。


「とにかく効率的にやる必要があるな。結論を出すのも、今日か明日にはやらないと」

「ネフメイザが行使する魔法については、優先すべき事柄じゃろう」


 そう話すのはアナスタシア。


「どういう仕組みで発動するのかは、より精査に調べた方がよい」

「なら俺達がすることは、精霊達に時間がないことを知らせることか」

『ふむ、しかし我の分身をこれ以上生み出すことはできんぞ』


 右肩にガルクが出現。すると、アナスタシアが目を見開いた。


「おお、資料にも書かれていたが、おぬしが神霊と呼ばれる存在か」

『いかにも』

「できれば本体と話をしたいところじゃが、勘弁願いたい」

『構わん……ルオン殿、我が完全に独立して動くことも可能だ。本体と連絡がとれない現状では、我の活動についても限定される。分かれて行動するのもアリだと思うが』

「確かにそうだけど……」


 ガルクの言うとおりデメリットはなさそうだが……いや、待て。


「結論を出すのは後にしよう。とりあえずガルクの手段も、一つの方法ということで」

『うむ』

「今日、もしくは明日のうちに結論を出すようにする。それを踏まえてガルクをどうするか……決めよう」

『何か案があるのか?』

「色々と候補は浮かんではいるよ。ただ、行動の仕方については一工夫いるから悩んでる」


 ――ゲームの状況と異なってはいるが、ゲームの知識を利用して能力を高めるということはできる。一気に能力を高める手法も、課題はあるが存在している。また、例えば高レベルの魔物が潜むダンジョンとかは魔王との経験から考えると現存しているはず。それを上手く使えば、短期間で修行が済むかもしれない。


 ただ、例えばゲームのように「弱いキャラとパーティーを組んで強い魔物を倒し、一気にレベルアップ」という手法は使えない。つまり大なり小なり本人の努力が必要となる。修行するにしても、ここをどうするかが鍵となりそうだ。


「今日一日、頭の中を整理して考えてみるよ」

「私達はどうすれば?」


 ソフィアの問い。俺はロミルダに目を向け、

「ロミルダと一緒にいてやってくれ」

「わかりました」

「資料を読み込む前に、一度強さを確認しておくか?」


 ――俺はこちらに告げたアナスタシアに視線を送る。


「……それもありだけど、宴の前だ。資料を読まないといけないし、今日はやめておくよ」

「そうか。ルオン殿の実力も少しは見てみたかったのじゃが」


 彼女にとってはそれが目的なのかもしれない……俺は肩をすくめ、改めて言及。


「今日は、宴のこともあるし休むことにしよう。ただ明日以降は相当忙しくなる。覚悟は決めておいてくれ」


 ソフィアとリチャル――そしてロミルダもまた頷いた。彼女もまた戦う意志はある。今はそれだけで十分。


 とはいえ、課題は山積みだ。俺とソフィアが強くなる方法を見つけることに加え、五人の騎士に対抗するためアベルを始めとした面々を強くする手法。さらに竜魔石を集約した武具の作成に、時を巻き戻す魔法の詳細……それを一ヶ月で行わなければならない。


 正直、できるのかという疑問がつきまとうが……いや、やらなければならない。


 その多くを解決する手法……それについてはゲームの知識を活かせば、どうにかなるかもしれない。とはいえ、俺の思い浮かぶ手段が正しいのかどうかわからない。


 期間が短い以上、失敗はしたくない。資料を読み込み、それについて結論を出そう……そう頭の中で俺は結論を出した。


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