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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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悲劇の可能性

「――まず、どうやってロミルダが舞い戻ったのかという方法論については置いておこう」


 俺は頭の中を整理しながら言葉を紡ぐ。


「できれば彼女にも立ち会ってもらいたいが」

「此度の話は、事前の打ち合わせでわしがすべて話すことになっておる。本人としては、余計なことを言いたくないらしいな」

「その言葉からすると、前回の戦いで俺達はやばい状態になったみたいだな」

「そこは頑なに話そうとせんかった」


 アナスタシアは不満顔。なるほど、こうして話をしてはいるが、彼女もまた詳しいことはわからないのか。


「資料を読めばわかるが、戦いの推移については記されているが、肝心の結末部分については記述されていない。おそらくじゃが、リチャル殿がそれを語るとまずいと考えたのじゃろう」

「なるほどな」


 ここで声を上げたのはエクゾン。


「例えばの話、考えにくいがルオン君が危機的状況に陥ることになるとしよう。それを知ったならばルオン君は回避しようと動くかもしれない。だがそれをすれば当然ネフメイザは気付く」

「無論、そうはならん対策を施しているのは間違いないようじゃ」


 アナスタシアは笑みを浮かべながら話す。


「核心部分を一切話そうとしないながら、その対策だけはしっかりと行っている」

「リチャルの判断だ。俺は信用するさ」


 こちらの言葉に隣にいるリチャルは困った顔。自分がやったこと、という自覚はさすがに生まれないか。


「おおよその概要については理解した。で、ここから質問だ」

「うむ」

「まず一つ。俺達と関わっているロミルダが時を巻き戻したロミルダであるなら、この世界本来の彼女はどうしている?」

「リチャル殿も最初に策を施した。ロミルダはこの世界の自分自身と合流し、わしの下にきた」

「つまり――」

「現在は住み込みのメイドとして働いておるよ。で、時を巻き戻したロミルダが入れ替わり、城へ連行された……特殊な事情を抱えてなおネフメイザが反応しなかったことを考えると、騙せたということじゃろう。ヤツとしては、自分以外の誰かがこうやって時を巻き戻すこと自体、想像もしていないということかもしれん」


 アナスタシアはどこまでも面白そうに語っている。その表情を見ながら、俺は言う。


「確認だが現在まで、ネフメイザは気付いていないと考えていいのか?」

「私が知る範囲では、気付いているという要素は皆無じゃ。ロミルダのことを察しているのならば、現時点で変化があってしかるべきじゃ」


 アナスタシアの言葉を聞いた後、俺は資料の内容を確認する。


 この戦いがどういう形で推移していくか。どうやら前回の俺達はできる限り被害を出さないように行動していたらしく、最終決戦の時まで戦争を起こすようなことにはならないようだ。


「……わしは、ロミルダからルオン殿の詳細も聞いている。この戦いを、物語として知っているというわけじゃな?」


 さらにアナスタシアは語り出す。


「しかし、おぬしが知っている情報は現状と大きく乖離しているため、あまり参考にはならん。とはいえ、皇帝候補の情報などは把握していたため、今まで動くことができていた」

「正解だ」

「その物語において、全面的な戦争に発展することは?」

「基本は主人公と四竜侯爵との戦いだったからな。大陸全土が戦乱吹き荒れるという形にはならなかったよ。侯爵は全員倒れるけどね」

「その未来は避けたいな」


 苦笑するエクゾン。俺は頷き同意した後、アナスタシアへ質問する。


「この資料は大きな情報が書いてあるな。俺達は人造竜の完成が二月ほどだと読んでいたわけだが、実際は一月程度で完成する」

「そのようじゃな」

「そう考えると、ほとんど時間がない……対応策をリチャルが示してくれているわけだが」

「竜が完成したと報告を受け、おぬしらは動き出す。この時点で四竜侯爵は既に味方となっており、急ではあったが侯爵達の軍勢を引き連れ帝都へ近づく」


 四竜侯爵達の力により、帝国軍を押さえ込もうというわけだ。


「途中、戦闘は生じない。というより、ネフメイザはあえてそうしたと考えるべきじゃろうな」

「それ自体が罠、ということだな」

「うむ、資料にも書いてあるが……ルオン殿は確か、ロミルダを救うために一度帝都に入っているな。そこで、地底に魔力があったはずだ」

「そうだな」

「どういう推測をした?」

「戦争準備だと」


 それはどうやら正解らしい――リチャルの資料には、地底に存在する魔力を決戦時に使用した、と書かれている。


「ルオン殿、一つ質問じゃが、地底に存在する魔力をその身に受けたらどうなる?」

「さすがに、あれだけの魔力と喧嘩して勝てるかどうかは……わからないな」

「無理と断言せぬところが恐ろしいのう」

「魔力がいっぺんに襲い掛かるとなったらさすがにつらいけど、順々にくるとかなら、なんとかなるかもしれない……が、さすがに正面対決は避けたいな」


 と、ここで俺は一つ思いつく。


 というより、前回のリチャルが資料の中で語っていないことについて――なんとなく予想がついた。


 俺がどうにかなってしまった、というのならリチャルは資料の中で伝えてくると思う。彼は俺が転生した身で、なおかつ規格外の強さを持っていることを知っている。つまり、どういう結末を迎えたのか伝えればその対策を講じるはずと考えるだろう。


 しかしそうではなく、何も語らない……これはきっと、無闇に話せば俺が流れ通りに動かなくなると考えたからだ。

 つまり、俺がそれだけ回避すべきだと考える事案……近しい仲間が犠牲、もしくは何かしらダメージを受けたということだろう。考えられる可能性として一番高いのは、ソフィアか。それに加え、多くの人々が犠牲になった、という可能性も考えられる。


 あるいはリチャル自身筆をしたためたが、まずい状況になっているという可能性も否定できない。どういう理由にせよ、俺が取り乱すことを避けるために書かなかったと考えるのが一番自然だ。


 その事実について、この場にいるソフィアやリチャルは理解しているのか……視線を向けると、頷き返した。わかっているということだろう。


「確認だが、その話は本当だな?」


 エクゾンが念を押すように問い掛ける。するとアナスタシアは笑みを浮かべ、


「ロミルダの情報を知っている点に加え、リチャル殿の筆跡と同じ資料。さらに今後の戦いについてわしが知っている。それ以上に情報はいるのか?」

「……物言いは腹が立つが、そういうことだな。いいだろう」

「わしの報酬については、エクゾンにも協力してもらうぞ」

「確定したことは何も言えんぞ」

「お前は口約束でも履行する人間じゃ。今はそれだけでいい。おぬしがわしのことをどう見ているか知らんが、こう見えてわしはエクゾンという侯爵のことは信用しておるのじゃぞ?」


 エクゾンは肩をすくめた。付き合ってられない、という雰囲気。


「わかった。どちらにせよ戦いが終わった後の話だ。決着をつけた後、ゆっくり語らうことにしよう」

「うむ、それがよいな」

「では、アナスタシア。今後どうすべきなのか……案はあるのか?」


 満面の笑みを浮かべる彼女。その質問を待っていたと言わんばかりだった。


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