収集家
「ネフメイザが使用する魔法で、どれだけ『彼』に影響を与えるかはわからない」
ソフィア達に向け、俺はなおも話す。
「だが無関係とも言えないんじゃないか、というのが俺の見解だ。それと、世界の崩壊のきっかけとなった出来事について詳しくわからないが……一つ、推測はしている」
「ルオン様、それは?」
「俺が前世で死ぬ前、物語は新作が出ようとしていた。以前語ったが、それは三部作の最後という意味があった。もしかするとそこで、何かが起こるかもしれない」
もっとも、その物語によって世界が崩壊するのか、あるいは何かきっかけくらいのものなのか。これについては俺もわからない。
「今言えるのは、その物語が始まったら現場に急行するべきだ、ということくらいか」
「まだ始まっていないと?」
「ああ……ただ、問題はそこなんだよ。三部作と言えど、近日中に起きるとは限らないだろ? 今から一ヶ月後かもしれないし、あるいは一年後かもしれない。ただ物語の登場人物が既にいるみたいだから、百年後というわけではないと思う」
「その場所は、この大陸やシェルジア大陸ではないのですね」
「この辺りについて情報は集めているよ。俺は物語の始まりがどういうものかくらいは知っているから、そのタイミングで当該の場所に入り込む、って感じかな」
「それまでに、ネフメイザをなんとかしないといけないというわけだ」
リチャルの言葉。俺は深く頷いた。
「今回判明した敵については後回しだ。あくまで目標はネフメイザ。今後もその対策に終始だ」
『まずは目先のこと、というわけだな』
ガルクの言及に俺は「そうだ」と返事をして……話し合いは終わった。
その後、俺達はエクゾンの屋敷へ戻るため移動。結局帝国側の騎士と遭遇することはなく、竜魔石を手に入れた。
その扱いについては今後検討するとして……結果として、夜にはエクゾンの屋敷へ戻ることができた。
「君に任せると安心だな」
出迎えたエクゾンはそう述べた。ただ、俺達の顔はやや硬いことを察したか、訝しげな視線を投げかける。
「どうした? 何か問題が?」
「……今回の戦いの本筋とは少し異なるが」
エクゾンは聞きたい様子。まあ、物語云々についても把握している彼なら、話をしても問題はないか。
ソフィアやリチャルは休むことにして、俺はエクゾンと話を行う。
「ふむ、新たな敵……というより、全ての元凶といったところか」
「今回の戦いにおいては、敵にカウントしなくても問題はない」
「そうかもしれないが……ルオン君はいずれ戦うのか?」
「対策くらいはするつもりだよ」
ここで、俺は竜魔石を思い出す。
「今回手に入れた竜魔石についても、保管しておいてくれ」
「それは、元凶と戦うため、という意味合いもあるのか?」
「一応な。強大な相手であるのは間違いない。できるなら、ネフメイザとの戦いを通じてできるだけ強力な武器を……ただ時間もそう多くはない。無理だと判断したなら、あきらめるさ」
「とはいえ、やれることはやるべきだろう。この大陸に存在する竜魔石を統合し、最強の武具を創りたいところだな」
――話が壮大になってきた。いや、そのくらいのことをした方がいいのは事実か。
「ともあれ、まだ材料については足らないな。それに、今のように大陸各地を回っていては時間も掛かる」
と、ここでエクゾンはあごに手をやった。
「一応、数多くの竜魔石を結集させる手段がないとは言わない」
「残る四竜侯爵の片方だな」
「さすがに君は知っているか。そう、北東に領を構える女侯爵……アナスタシア=ゼレンフィだ」
――確か、その人物は武器収集家という一面を持つ。それを軍事利用するというわけではなく、単なる趣味で集めている。
竜魔石についても収集を行っているが、それを使うというわけではない。ネフメイザだって彼女が保有する竜魔石に目をつけていると思うが……。
「ネフメイザがそれを寄越せ、と言ってきている可能性もあるんじゃないか?」
「それについては本人に直接聞いてみなければわからんな」
「仮に話し合いをするとして……説得できると思うか?」
「厳しいだろうな」
エクゾンとはそんなに仲がよくなかったはず。話をするにしても相手の屋敷へ向かう必要があるだろうし、場合によっては戦闘もあり得る。
「ルオン君ならば、戦ったとしても勝てるだろう?」
「勝てるかもしれないけどさ……それでなびくのか?」
「わからん」
彼女は帝国への忠誠心よりも己の欲望を優先する傾向がある。逆に言えばそれを利用し味方にすることは可能だ。
ただし、この場合交換条件として手に入れた竜魔石を渡せと言ってくる可能性が極めて高い。武具を生み出そうとしているのにその材料を渡すのは……。
「戦いが終わった後、報酬を渡すというのでは無理かな」
「それを聞き入れるとは到底思えんな。質の高い竜魔石はそう数も多くない。コレクションをしたい彼女ならば、手放そうとは思わんだろう」
……厄介だなぁ。ゲームでは味方に引き入れようとして失敗、戦闘という流れだった。彼女を倒して竜魔石を奪うという方法も――保管場所が屋敷ではないため、ゲームでは迷宮入りになっていた。
「俺達とは利害が一致しないからな」
「彼女にとってみれば、今回の戦いもさして興味がないだろう。極端な話、武具や竜魔石を愛でるだけでいいのだからな。それを利用しようとするこちらとは相容れない可能性が高いな」
彼女の持つ竜魔石を手に入れるということ自体、相当難易度が高そうだ。
「うーん、そうなると可能な限り野に眠っている竜魔石を手にする、か……限界があるよな」
「現在ある二つを組み合わせるだけでもそれなりの物ができるのは、私が保証しよう。しかし、ルオン君はそれで納得しないのだろう?」
「……ネフメイザとの戦いにおいても、絶対的とは言えないだろうし」
「そうだな」
この辺りは課題か。しかしいつまでも悩んではいられない。
「ひとまず、使者を送ってみよう」
エクゾンは語る。
「もう片方の侯爵と比べれば話をするだけまだマシだ。反応を見てどうするかは考えることにしようじゃないか」
「それが無難か……その間、俺達はできる限り竜魔石を集めることにする」
「ああ、それでいい」
着実に進歩していると思うが、その歩みが遅い気がする……焦燥感が拭えないけど、今はできることをやるしかない、か。
「それじゃあエクゾン。休むことにするよ」
「うむ」
というわけで、今日はとりあえず成果を得て休む――が、次の日、予想外の出来事が起こることになる。
翌日、朝食を済ませどうするか俺の自室でソフィアやリチャルと協議をする。ひとまず竜魔石については情報源を頼りに調べる、ということになったのだが……ここで、ノックの後侍女が部屋に入ってきた。
「ルオン様、来客の方がお会いしたいとのことです」
「来客?」
「はい」
と、侍女がやや硬質な声で、
「……ゼレンフィ侯爵が、お見えに」
――驚いた。話し合った昨日の今日で、というのもそうだが、まさか向こうから来るとは。
「誰ですか?」
ソフィアが問うと、俺は返答。
「四竜侯爵の一人……竜魔石や武器収集の趣味を持つ」
「もしや、私達が竜魔石を集めていることを知った?」
「にしては、来訪するタイミングが早すぎると思うが……ともかく、会ってみようか」
「ルオン様以外に、お二方も」
侍女は言う。俺とその仲間が対象ということか?
「わかった。行こうか」
ソフィア達は無言で頷き、部屋を出る。廊下に靴音を響かせ客間に到着。ノックの後、俺達は入室した。




