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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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名もなき存在

 地上に出現した魔物。数も結構多くソフィアにとって厄介ではないか――と思いながら洞窟の入り口へ急いだのだが……結果は、


「やっ!」


 洞窟を出た瞬間、ソフィアの短い掛け声が聞こえてきた。攻撃した魔物を避けながら反撃に転じる姿が目に入り、正確な剣戟はしかと魔物を斬り、滅する。

 魔物は見た目、リザードマン――といってもそのウロコは暴走していた竜人のそれと似ている。おそらく竜魔石の力を借り受け生み出した存在だろう。


 竜魔石を奪ったことにより、発動した罠といったところか。俺は援護に入るべく魔法詠唱を開始。直後、ソフィアはさらなるリザードマンと切り結び、撃破した。

 今度は同時に二体。だがソフィアは冷静だった。リザードマンの得物は剣だが、それを受け流すと刺突を決める。


 頭部へしっかりと入る剣。リザードマンはか細い悲鳴を漏らした後、塵と消える。

 そこへすかさず二体目がくる。彼女は即座に横薙ぎを伏せるように避け、すくい上げるように剣を振るった。


 結果、腹部から頭部へかけ斬撃が走る。これにはリザードマンも耐え切れず、消滅した。


『問題ないようだな』


 ガルクが言う。俺は魔法の援護をする体勢を維持しながら、レスベイルを生み出す。


「空から魔物を監視しろ。もし逃げるような魔物がいたら、すぐに報告を」


 指示に鎧天使は即座に飛び立つ。とはいえ、もしこれが罠であるならば魔物は逃げるよりも向かってくるだろう。

 考える間にもソフィアが魔物を撃破していく。今度は同時に三体。これはさすがに援護を――と思ったが、刹那、


 彼女は後退し、舞でも始めるような軽やかさで剣を水平に掲げる。同時にリザードマンが襲い掛かってくる。どう応じるか。

 魔物の剣が迫る。対するソフィアはそれを軽やかなステップで回避した後、刀身に魔力を注ぐ。


「――終わりです」


 言葉と共に横一閃。彼女に似合わない大ぶりの一撃。それがリザードマンに触れた瞬間、衝撃波が彼女の真正面で炸裂した。


 轟音と共に例外なく魔物が吹き飛び、消え失せる――ゲームとはやや異なる見た目だが、これは長剣上級技の『竜波の剣』だ。本来は前方広範囲に衝撃波を浴びせかなりの敵にダメージを与えるのだが、彼女は調整したのだろう。範囲が狭い。


 そして気付けば彼女の戦いは終わった。上空にいるレスベイルも魔物が消え失せたと報告をよこしてくる。


「ソフィア」


 歩み寄り声を掛けると、彼女は即座に振り返った。


「ルオン様、ご無事でしたか?」

「ああ、大丈夫」

「足下くらいから、何やら魔力を感じたのですが……竜人の仕業でしょうか」


 俺が全力で戦ったせいだな。


「それについては、後で説明するよ」

「ルオン様がやったのですか?」

「ああ。厄介な相手がいたんだ」


 そう言いつつ、俺は懐から竜魔石を取り出し、ソフィアに見せる。


「けれど、目的は達成した」

「それはよかったです。これで、戦いは終わりですか」

「ちなみにだがソフィア。さっきの魔物は?」

「ルオン様が洞窟へお入りになってしばらく。突如出現しました」

「竜人を倒したか、それとも竜魔石を手にしたからか……どっちにしろ、竜人の仕業と考えてよさそうだな」


 ならこれで山も平穏になるだろう。


「それじゃあリチャルと合流して帰ることにしよう」

「はい」


 頷いたソフィアと共に、山を後にした。






 最寄りの町でリチャルと合流。その足で屋敷へ戻っても問題なかったのだが……ガルクが『話をしたい』と言い出したので、結局宿の一室で会議を行うこととなった。


 俺は地底で遭遇した『彼』について説明する。結果、いの一番に口を開いたのはソフィア。


「ルオン様が、全力で相対しなければならない相手、ですか」

「全力じゃなくても倒せたと思うけど、短期決戦の方がいいかと思ってさ」

「ルオンさんは正体を知っているため、そうすべきだと判断したと?」


 リチャルの言葉。俺は頷いた。


「ああ。魔王との戦いで……色々と推測をしていたが、それがようやく確信に至った」

『魔王は確か、言っていたな』


 右肩にいるガルクが語る。


『滅びる寸前……お前ならば、全てを救えるかもしれん、と。そうした言葉を呟いた理由が、今日遭遇したヤツなのか?』

「ああ、おそらく」


 俺の言葉にソフィア達の表情も硬くなる。


「ネフメイザ以外に、厄介な相手が出てきたと」

「いや、現状すぐに戦うことにはならないと思う」

「根拠があるのですか?」

「ヤツ自身は自分からは何もしないと語っていた。前世の記憶を引っ張り出しても、この戦いの間やその後、ヤツが自発的に何かをする、という状況はなかった」

「となれば、放置するのが得策だと?」

「そうなんだけど、いずれは誰かが干渉するんだろうな」

『……ルオン殿、まず根本的なところから説明してくれ』


 ここで話を切り、ガルクが言う。


『ヤツは何者だ?』

「……具体的な名前があったわけじゃない。ヤツに触れようとする存在によって、言い方は様々だ」


 俺はゲームの記憶を頭の中から引っ張り出し、言う。


「ある人間は『創造者』と呼び、ある竜人は『破壊神』と呼んでいた。天使の中に『神』と呼称する者がいれば、とある魔族は『混沌そのもの』だと語っていた」

『バラバラだな』

「そうだな、バラバラだ……何が言いたいかというと、天使や魔族であってもその正体をつかみかねていた、ということさ」

『正体不明……?』

「ああ。ちなみに精霊は『世界の中心』だったかな……良いように捉えているのか悪いように捉えているのかはわからないな」


 俺はふう、と息をつく。


「そいつは……具体的にこうだ、と説明するのが難しい。言ってみればこの世界のどこかに存在する、巨大な魔力の塊、とでも言えばいいのかな」

『それだけ聞くと、たいしたことがないようにも思えるが……』

「俺が語っているのは前世の情報なんだが……物語の中で断言していたわけじゃない。もしかすると続編の中で説明する予定だったのかもしれない。ただ、そいつの力によって何が起こるか、というのは説明できる」

「……嫌な予感がするんだが」


 リチャルが言う。それは正解で、俺は苦笑を交え語る。


「膨大な力……それは世界を崩壊させることだって可能だ」

「実際、それが起きたんですか……?」


 掠れた声でソフィアが問い掛ける。


「世界が……?」

「ヤツの言動を信じるならば、自発的にそういうことが起きるわけじゃない。きっかけは誰かが干渉したことによるものなんだろうな」


 こちらの言葉に沈黙するソフィア達。話のスケールが大きくなっているからな。当然だろう。


「物語がシリーズだって話は以前しただろ? 実は一作目というのは今から遠い未来の話で、その崩壊が起きた後の話となっている。二作目以降は過去に遡り、一作目に登場した存在――天使や魔族、竜人や精霊。それらを主題にした物語となっている。そして、現在と未来の間に何が起こったのか、ということは詳しく語られていない」

「ルオン様、その原因……例えば人間が干渉するのを止めれば、崩壊を防ぐことができるのですか?」

「どうだろうな」


 頭をかく。単に人間を止めて終わり、というわけでもないだろう。力そのものは存在し続けるわけだし。


「ともかく、だ。どういうきっかけでその崩壊が起こるのかはわからないが、ヤツに干渉する存在を倒すべきではあると思う」

「俺の魔法もまた、同じようにそいつに干渉していたのかもしれないな」


 リチャルが言う。けれど俺は彼にフォローを入れた。


「魔王との戦いに勝つため、仕方がないことだと考えよう。魔王も何かしら動こうとしていたようだが、多くの犠牲を生み出した以上、許されるものではないからな。現状で俺達にできることは、ネフメイザの凶行を止める……つまりこれ以上、時を巻き戻す魔法を使わせないことだ」


 俺の言葉に、ソフィア達は一様に頷いた。


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