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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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漆黒の中にいた存在

「やあ」


 漆黒の中であまりにも似合わない、軽い挨拶が聞こえてきた。

 対する俺はじっと相手を注視する。山の中に存在する自然洞窟。そんな場所で俺以外の人間がいるはずもない。


 だが、目の前にいる……いや、こいつは人間ではない。そう断言できた。


 なぜなら――


『……こいつは何者だ?』


 ガルクすら驚愕の声を上げた。


 目の前に現われた存在。それは――


「悪いね、僕は決まった姿を持っていないから、君の存在で代用させてもらったよ」


 ――服装も、顔立ちも、全てが俺と同じだった。


「魔物、というわけでもなさそうだな」

「理解が早くて助かるよ」


 にこやかに語る相手――『彼』とでも言えばいいか。悪い夢でも見ているような気分にさせられる。

 とはいえ、目の前の存在を観察していると、徐々にではあるが正体がわかってくる。


 そいつは、特殊な魔力を抱えていた。


『不可思議な魔力だな』


 ――魔王との戦い。その過程で入り込んだ天使の遺跡にあった、精霊達も判断に困った魔力。その力を湛え『彼』は存在していた。


「いや、こうして話をしようと思ったことについて、さしたる理由はないんだよ」


 おどけるような風に両手を挙げながら『彼』は語る。


「この場所は時折覗きに来るんだけど、まあ当然ながら暗闇ばかり。精々さっき君が倒した竜人がいたくらいだ」

「……お前は」

「その様子だと、僕が何者か見当はついたのかな?」


 笑みを浮かべ『彼』は語る。俺自身の笑みでありながら、果てしなく不気味だった。


『ルオン殿、こいつは――』

「頭の中で会話をしていないでさ、出てきなよ。神霊さん」


 ガルクは一度として表に出ていないが、目の前のコイツにはその存在が明確らしい。するとガルクは反応し、俺の右肩に出現する。


『貴様は、何だ?』

「僕がさすがに答えるわけにはいかないな。本物さんの顔つきからすると、少しは知っていそうな雰囲気だけど」


 含んだ笑み――俺は一瞬、心でも読めるのかと訝しんだが、違うな。少なくとも目の前のコイツが俺達に何かをしている様子はない。


「そう疑心暗鬼にならないでよ。言っておくけど、僕が君について知っている情報はたいしたことないよ。あくまで伝聞だからね」

「伝聞……?」

「そう、伝聞。君の心を読んだわけじゃない。もっと別の人物だ」


 その言葉を受け……俺は一つの結論に至る。


「ネフメイザか」

「正解だ。神霊さんにもわかるように言うと、僕はネフメイザという人物のお手伝いをしている存在だよ」

『手伝いだと?』

「といっても、ネフメイザ本人は僕のことを知らないよ」

「時を巻き戻す魔法だな」


 俺が断定すると、相手はあっさりと頷いた。


「そういうこと」

『……時を巻き戻す際、干渉できる存在ということか?』

「いや、違うと思う。この場合――」


 ガルクの言葉を受け、俺は告げる。


「こいつの力を借りて、時を巻き戻している」

「それも正解だ」


 面白そうに相手は笑う。


「他にも色々聞きたいんだろうけどさ……ま、ヒントをたくさんあげるのもどうかなぁ。僕としては、登場しただけでいいと思うんだけど、どう?」

『……何を企んでいる?』


 ガルクが問う。すると、相手は心外だと言わんばかりに肩をすくめた。


「言っておくけど、僕は何もしていないし、何かをするつもりもない。君達が僕の力を勝手に利用しているだけじゃないか」

『何……?』

「僕が自分の意思で力を融通したのは、そこで倒れている竜人くらいだねぇ」

「あの魔力は、お前が渡したのか?」


 質問に、『彼』は笑みを浮かべた。


「その通りだよ。ここに何度も来るからさ。少し遊んであげたわけだ」


 戦いの中で感じた魔力。それは紛れもなく不可思議な魔力だった……暴走した竜人が二十年も体を維持し、なおかつ誰にも討伐されずにいたのは、こいつが原因の一端を担っているのかもしれない。


「とはいえ、せっかくの遊び相手を消されたのはちょっとね。こうなるともうこの場所を訪れる意味はないかな。そうすると退屈になる……あ、もしよかったら、遊んでいかない?」


 呼び込みでもするような軽い口調。しかし発せられる気配は、殺気に満ちている……普通の人なら気を失ってもおかしくないほどのもの。

 何かをするつもりはない、と先ほどは言ったが……現在の状況は、自分の庭に突如進入され、遊び道具を壊されたといったところか。それならこちらに干渉してもおかしくない。


「その様子だと、どう答えても逃がすつもりはないんだろ?」

「まあね」


 一言。対する俺はまず、剣を地面に突き立てた。


「おや、その剣は使わないのかい?」

「お前に竜魔石の力を利用する必要はなさそうだしな」

「そうだね。それに、下手すると壊れるかもね」

「だろうな」


 言葉の直後、魔力を体内から引き出す。


 こちらの魔力を認識させ、どう反応するか見るという意味合いもあった。しかし『彼』は涼しい顔で俺を見返している。


「……お前」

「なんだい?」


 ――ネフメイザに協力している以上、お前もまた時を繰り返しているのか?


 そう問い掛けようとしたが、愚問だと気付いた。


「さっさと終わらせるさ」


 明言と共に、両手から光が迸る。それを見据えた『彼』は、静かに笑みを浮かべた。






 ――俺が本気を出す場合、通常利用している剣では当然魔力を抱えきれず壊れる。よって、魔法剣を生み出すことでその力を引き出す。


 例えば神霊との戦いにおいては、基本魔法を用いて対処してきた。今回も同じように対処するという選択肢もあったが、それはしなかった。

 目の前のこいつには、剣と魔法を駆使し、全力で相対する。


「――そぉら!」


 先に攻撃を仕掛けたのは相手。両腕を突き出すと手先から炎が湧き上がった。

 見た目、それほど凶悪そうには見えない。炎は僅かに俺の正面で揺らめき、こちらへ向かって放たれようとしていた。


 それと同時に、俺の腕には一本の長剣が生まれていた。シンプルなそれはゲームに存在していた魔法剣とは異なるもの――俺のオリジナルだった。

 魔王との戦い以後、俺は今以上に強くなるにはどうするべきか悩み、辿り着いた一つの結論がこの剣。


 そして生み出した直後、決断に迫られる。

 目の前の攻撃を避けるか、弾き飛ばすか。


「さて、どうする?」


 口の端を歪めながら『彼』は問う。その直後、両腕が一気に紅蓮へと染まる。


 刹那、魔力が急速に膨らみ、熱波が押し寄せてきた。


 炎を浴びせるなどという生やさしいものではなかった。炎熱をまともに食らえば一瞬で炭化してしまいそうなほどの――


 それに対抗すべく、俺は一気に剣を振り抜く!


「おおおっ!」


 声と共に放ったのは、神霊フェウスに対しても使用しなかった氷属性最上級魔導技。名は『フェンリルレイド』。伝説の魔狼を模した氷で相手を撃破する技だった。


 炎熱と氷塊が炸裂し、火山が噴火したような轟音と衝撃が空間を襲う。魔力が荒れ狂い熱風と氷風が生じ、この戦場に混沌を生み出す――


「さすがだ」


 評価するような『彼』の声。


「今ので大体の人間は死んでくれるんだけど。君なら耐えられるんじゃないかと思ったよ」


 言ってろ――次の攻撃準備に入る。同時に魔法詠唱も行う。相手に主導権を渡す前に倒す。

 炎熱と氷が荒れ狂う中で俺は真正面にヤツを捉える。即座に剣に魔力を込め、振り下ろす。


「一気に決着を、と考えているようだけど――」


 剣は炎熱を易々と斬り、『彼』の体に刃がたたき込まれる。手応えはあった。だが――


「まだ戦いは終わらせたくないな」


 言葉と共に『彼』は両腕に魔力を発生させる。それと同時、俺はなおも攻撃を仕掛けるべく――足を地面に打ち据えるくらいの勢いで踏み出し、全身の魔力を膨らませた。


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