模擬戦闘
数日後、急ピッチで生み出された剣がとうとう完成する。
俺とソフィアは剣。さらに魔法を放つ際に竜魔石の影響が出るよう腕輪ももらった。さらにリチャルは杖。
「ルオン君は折らないように注意してくれよ」
場所は庭園で、エクゾンが言う。俺は一つ頷くと、質問をした。
「遺跡から取って来たアーティファクトについてはどうなっている?」
「まだ調査中だ。あれも結構な魔力が入っていた。能力が確定するまでは下手に発動させるのもまずい。調査が終わるまでは預からせてもらう」
「わかった」
「どのような効果なのか……それ次第でどう扱うかは決めるとしよう。さて」
と、エクゾンは俺を見据えながら尋ねる。
「剣もできたため、早速行くようだが……その前に、やらなければならないことがあるな」
「ああ。まずは武器を試さないと」
もらった剣に目を移しながら俺は言う。
ソフィアの方はまだしも、俺は全力で魔力を注げば当然剣が壊れるだろう。その検証をやらなければならないのだが――
「その過程で壊しそうだな」
「大丈夫、と言えないところがなぁ……」
ボヤくように呟いた後、俺はソフィアに顔を向ける。
「出発前に、軽く準備運動といこうか」
「わかりました」
ソフィアはすぐさま首肯。ここで横にいるリチャルが質問する。
「そういえば、旅の道中二人が剣を合わせる光景はあまりなかったな」
「俺の方は技もだいたい習得しているから、主にソフィアに頼まれて、というパターンが多いけど……魔王との戦いが終わって以後は、そういうケースも少なかったな」
返答しつつ俺はソフィアと向かい合い、手にする剣の感触を確かめる。
見た目は普通の長剣と変わらない。俺の能力を考慮してかわからないが、多少剣に厚みがあるくらい。
対するソフィアは元々所持していた剣と形状が似通っている。もっとも重量はさすがに違うだろうから、同じように扱うのは難しいだろう。ここは慣れないといけない。
「ソフィア」
「はい」
応じると共に俺は剣を抜き構える。一定の緊張感が生まれる中、模擬戦闘が始まった。
今回はあくまで剣の能力を確かめる訓練。さて、どうやるかな。
まずソフィアが走り込んでくる。俺はそれに応じ、真正面から剣が激突する。力勝負でも当然俺の方が上なのだが、ソフィアは負けじと力を加える。
ここで俺は両腕に力を注ぎ、一気に押し返す。ソフィアは流れに逆らわず後退。しかし即座に向かってくる。
次いで彼女は剣に魔力を加えた。それを認識した瞬間、呼応するように俺もまた剣に魔力を――
「――っと、危ない」
多少注いだところで嫌な予感がして止める。どこが限界なのかまったくわからないのが怖いな。
その間にソフィアと再び激突。俺は上手く出力を調整できなかったが、剣の強度がそれなりにあるためか、彼女の剣を受けてもヒビ一つつかなかった。
「大丈夫ですか?」
「心配してもらわなくてもいいよ」
ソフィアの問いに答えた俺は、剣を弾くと後退。ソフィアは即座に追撃を行う。
誘い――ではないが、彼女がどう動くかは予想がついていた。間合いを詰めてきた時点で既に反撃の準備を整える。
先に攻撃したのはソフィア。鋭い横薙ぎは勢いが相当あり、魔力による身体強化もあって、力自慢の騎士とかでも弾き飛ばせるくらいの威力になりそうな感じだ。
とはいえ、彼女ならば俺にそれが通用しないことは理解できているはずで――なんというか、ソフィアと訓練をやると手の内を知っているため読み合いになってしまうな。
ここで思考を中断しまず彼女の剣が来る。魔力を調整しながら刀身に注ぎ、構え直した瞬間、刃が衝突。噛み合う音が俺の耳に入ってくる。
ここで反撃に転じるか……と思った矢先、ソフィアがさらに前に出る。押し切る気か。けど、彼女もそれが通用しないことは――
と、ここまで考えてやめた。即座に切り返し、彼女の剣を弾き飛ばす。
力で強引に応じたため、僅かにソフィアの表情が硬くなる。だが食らいつく。無理矢理前に出て、さらに剣を放つ。
この強引さは……理由はわからないが、とにかく今日の訓練はひたすら押せ押せということか。
それならこちらも応じるまで――弾き飛ばすとなおも迫るソフィア。この行動に策があるのかわからないが、受けて立つ。
そう思った次の瞬間、彼女が握る剣の刀身から魔力が溢れた。大技――というより、これは、
「――来たか」
笑みさえ零し俺は迎え撃つ構えを見せる。それは間違いなく『スピリットワールド』。
彼女としては攻撃の最中にどれだけ切り札を速やかに使えるか、といったことを検証したかったのかもしれない。
彼女の中で最強の技。無論、剣の強度を考えて加減はしているはず。ただあれを受けて俺の剣が耐えきれる保証はない。彼女も結構容赦がない。あるいは、信用してもらっているのか。
さすがにもらった初日で破損は避けたい……と思いつつ、俺は彼女の剣を受けた。剣から伝わる感触から、どうなるかを推測する。
手先からわかったのは、このまま押し返そうと魔力を注入すると折れるかもしれない、ということ。ならば――俺は受け流しを選択。彼女の流れに逆らわず、体を横に滑らせ回避を果たす。
「っ!」
ソフィアは短く声を上げながら、追随しようとする。だが大振りの一撃となってしまったことにより、明確な隙が生じた。
そこに、俺は前に出る。彼女が剣を差し向ける前に俺は剣の柄で右肩を叩く。
体勢を戻そうとしていた彼女はバランスを崩す。もっとも、数秒足らずで姿勢は戻るくらいのもの。しかしこの場においては致命的な一撃。
彼女の首筋へ剣を突きつける。それにより、戦いは終わった。
「……ありがとうございます」
「ああ」
剣を鞘にしまいつつ俺は答える。
「技の発動タイミングを試したのか?」
「はい。『スピリットワールド』は剣によっても少しやり方を変えないといけないので……スムーズにいくかどうか、訓練の中で試したかったのです」
「今くらいなら、実戦で使えるはずだ」
「わかりました。ありがとうございます」
俺の方は……彼女と剣を合わせながら検証したが、思った以上に強度がありそうな雰囲気。そこまでわかれば十分だ。
「それじゃあ、行くとするか」
「はい。移動手段は魔法ですか?」
「俺はともかくソフィアは長距離移動はしんどいだろ。リチャルに頼んである」
「というわけで、よろしく」
リチャルが手を上げながら言った。
「リチャル、そっちの準備は?」
「いつでも行ける。剣の感触は?」
「悪くはないよ。侯爵クラスと戦うには不安要素はあるけど……ま、ソフィアの大技もあるし、対処の仕方は増えている。おそらく大丈夫だ」
「今回の戦いで、そうした人物は出てくるでしょうか?」
ソフィアの問い。どうだろうな。
「あり得ない話じゃないが、もし四竜侯爵が出てくるならエクゾンだって気付くはずだ。それ以下……どの程度の技量なのかはわからないが、ソフィアの技が通用するようになった……倒せるさ」
「ならいいのですが」
「二人に伝えておこうか」
と、ここでエクゾンが言及。
「皇帝達の動きは現在なしだ。シュオンが退散したことで警戒しているのかもしれんが……まあネフメイザとて大規模な軍事行動に出るのは色々と大変だろう。当面の脅威は残る四竜侯爵と考えていいだろう」
そこまで言うと、彼は肩をすくめた。
「時を巻き戻すネフメイザについて気になっているようだが、そう警戒してばかりでは意味がない。私は私でやれることをする。心配するな」
「わかった……ロミルダ達のことは頼んだ」
「無論だ」
俺はソフィアに視線を送る。頷き返した彼女と共に、歩き出す。
「いい結果を期待しているよ」
背後からエクゾンの声。俺はそれに軽く手を挙げて応じ、屋敷を後にした。




