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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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天使の遺跡へ

 翌日、俺とソフィアはギルバートを指定したギルドの前を訪れる。明け方直後だったのだが、彼はバッチリ待ち構えていた。


「来てくれたか」


 ちょっと嬉しそうに彼は言う。こちらは「よろしく」と告げつつ、改めて彼に質問を行う。


「で、その遺跡とやらはどこにあるんだ?」

「焦るなって」


 こちらの言葉を制止しつつ、彼は俺とソフィアを一瞥。


「具体的に場所を告げる前に、一番重要なことを決めておこう」

「報酬の分配についてか?」

「そうだ」


 うんうんうなずくギルバート。なんだかはしゃいでいるようにも見える。


「ここは真っ当に半々にするか? それとも――」

「俺達がアーティファクトを貰うという前提でいいのか?」

「ああ、それでいいぞ」

「そうだな……お宝の状況次第だが、こっちとしては旅もあるしかさばるような物は避けたいな」


 召喚魔法による収納箱の説明は面倒なので、こういう言い回しにした。


「ひとまずアーティファクトを手に入れることができるなら、道中の宝は基本そっちでいいよ。よさそうなのがあったら、また話し合うってことで」

「気前がいいな……そっちがいいなら、そうしよう」


 この間、ソフィアの言動はなし。基本俺の方針に従う様子。


 ちなみにソフィアには、修行ということで「俺はサポートに回る」と言ってある。無論、いざとなったら動くけど……ギルバートについては俺の能力を多少は察している様子だが、全力さえ出さなければ本質的な部分は悟られないと思うので大丈夫なはず。

 まあ俺も、ソフィアと共に戦うのは初めてだ。今後も彼女と一緒に戦っていくことになるはずなので、その中で変に目立たないよう立ち回るための訓練ということにしよう。


 俺とソフィアはギルバートの案内に従い移動開始。方角は東。しばし街道を進んでいたが、やがて森が見えそこに入った。この時点でおよそ一時間と少し経過したくらいだろうか。


「……ああ、そういえば一つ言い損ねていた」


 先頭を歩くギルバートがふいに話し出す。


「今から行くのは遺跡には違いないんだが……森の中にある石造りの建物だ」


 洞窟内とかそういう場所じゃないのか……沈黙していると、彼はさらに話を続ける。


「どうも魔王だか魔族の魔力に影響されて現れるようになったが、調子が悪いと入れない場合がある。そうなった場合はどうするか考えないといけないんだが」


 遺跡がどのようなものか知っていることからもわかるが、遺跡について少しは検証しているみたいだな。町から近い場所であるため今まで踏み込まれなかったのが意外な感じだ。その遺跡の魔物が強いのか、魔族の襲撃もあって放置されているのか……個人的には後者のような気がする。


 その時、一瞬だが肌にピリッとした衝撃が走った。どうやら遺跡近くに辿り着き、遺跡のある異空間に侵入できたらしい。


「入れたな」


 ギルバートも言う。同時に周囲から獣の唸り声のような、威嚇する魔物の声が聞こえてきた。

 ギルバートは立ち止まったのと同時に、剣を抜く。合わせてソフィアもまた剣を抜いた。その後俺もまた剣の柄を手に取り……その時、魔物が視界に入った。


 おそらく魔族が作った生物でもなければ、瘴気に当てられ暴走した魔物でもない……右半身が青、左半身が焦げ茶色の毛並みを持った奇妙な犬だった。


 ――これは天使が作った遺跡にしか出現しない魔物だ。俺にも見覚えがある。名前は確か『天界の番犬』という、そのままのもの。

 能力的にはソフィアが単独でこなした依頼に登場した魔物達と比べても上。しかしあの森でどんどんレベルが上がったことを考えると、彼女でも十分倒せるだろう。


 こういう遺跡に出てくる魔物としては、最下級に近い魔物。登場する敵は、それほど強くないようだ。


「来ます!」


 ソフィアが声を上げると同時に番犬達が一斉に走り出す。俺達を囲うように迫ってくる魔物……もしこれがゲーム上であれば仲間の誰かが「囲まれた!」とか「まずいぞ!」とか叫ぶような状況だ。


 先んじて動いたのはギルバート。いち早く接近してきた番犬に対し横薙ぎを繰り出した。

 番犬は止まれずギルバートの剣が命中する。次の瞬間彼は振り抜き、番犬を大きく弾き飛ばすことに成功した。


 だが一撃ではやられない。体勢を整えようとする中、他の番犬が俺達に襲いかかる。


「やっ!」


 そこにソフィアが仕掛ける。剣を振ると同時に刃先から風の刃が生まれ、番犬に直撃。倒れはしなかったが吹き飛ばすことには成功。

 今のは技ではなく風の精霊を手にしたことによる追加効果。精霊を加えると攻撃方法などを多少ながらカスタマイズ可能で、シルフの特典は剣を振ることで風の刃を放つことができるようになるというもの。


 射程はおよそ数メートル。今のも避けられていたらそれほどしない内に刃は消滅していたはず……現実となった今では小型の魔物なら距離を置くくらいに吹き飛ばせるようだ。これは便利。


 視線を転じると、俺に襲い掛かろうとする番犬が一頭。俺はすかさず腕を振り、簡単な風魔法によってソフィアと同様吹き飛ばした。

 ただこれは威力がない……さすがに片っ端から一撃で仕留めていては怪しまれるに決まっている。俺も怪しまれないようどう立ち回るかもっと考えた方がいいな……そんなことを思いつつ、番犬と戦う。


 ギルバートが流れるような連撃で番犬を一頭倒す。さらにソフィアがシルフを加えたことによって威力が上がった『疾風剣』によって番犬を撃破。さらに俺が他の魔物を食い止め時折倒しつつ、数を減らしていく。


 時間にしては五分にも満たない攻防。だが俺達は無傷で魔物を倒すことに成功した。


「よし、先に進もう」


 ギルバートは先頭を歩きながら言う。俺とソフィアは小さく頷き、彼の後を追った。






 その後時折魔物の襲撃などがあったわけだが、俺達は無傷で撃破する。ソフィアの立ち回りも上々で、精霊により身体能力も多少強化されているため以前よりも動きが良い。

 ただソフィアは自分の動きに満足しているわけではなさそうな雰囲気。まだまだ足りないと顔には不満さえも出しているのだが――


「ソフィア、魔族達と戦っていく以上、焦ってはいけないぞ」

「……わかっています」


 こちらの言葉に頷くソフィア。次いで剣を握り締め、前を見据え進んでいく。


「見えたぜ」


 そこでギルバートの声。視線を転じれば真正面に、二階建て相当の高さを持った石造りの遺跡が目に入った。

 元はおそらく砦だろう。ただ森の中に存在するせいか、外観はツタを始め様々な植物が好き放題に生えている。


 さらにずいぶんと建物が崩れている。正面に入口が見えるのだが、どこからかに存在する隙間とかから内部へ入れそうな感じだった。


「さあて、ここからが本番だな」


 ギルバートは周囲を用心しながら入口へと歩いていく。俺とソフィアは彼の動きに従い歩を進める……その時だった。

 俺の耳に金属音が入って来た。それはソフィアやギルバートも察した様子で、互いに顔を見合わせる。その中で最初に発言したのは俺。


「……全員、気付いたみたいだな」

「とすると幻聴じゃないな……ってことは」


 ギルバートは建物を見上げつつ一言。


「先客がいるってことだ……このタイミングでというのは運が悪かったか、それともお宝をかっさわれる前で良かったとみるべきか」

「彼らと合流するか?」


 問い掛けてみると、ギルバートは肩をすくめる。


「呼び掛けに相手が応じればいいけどな……ま、いいさ。ともかく入ろうじゃないか」


 ギルバートは歩み始める。俺とソフィアは一度互いに顔を見合わせ――同時に頷くと、建物へと進み出した。

 単純な戦闘なら負ける可能性はない。だが今回は様子が違う……どう動くべきなのか頭の中で思案しつつ、俺達は建物の中へと入った。


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