思わぬ発見
フローリーの家を出た後、町にある宿に入る。使い魔で念の為に周囲を観察しておくとして……部屋に入った直後、ロミルダが語った内容について調べることにした。
「使い魔、ですか」
同室のユスカが声を上げる。俺は小さく頷きつついくつも使い魔を放つ。
「ま、滞在期間中に見つかるとは思えないし、駄目元だけど」
この町にだって騎士はいるだろうし、見分けがつかないというオチかもしれないけど。
ちなみに、ロミルダから調べようとしている他の町についての名称も聞いた。どうやらエクゾンやシュオンの領内ではないようで……これについてはどうするか一考の余地があるだろう。
確実に言えることは、ネフメイザが遺跡に眠る物を手に入れようとしているのならば、それを止めることがこの戦いを勝利に導く可能性を高める――奴がどこまで考慮しているかわからないが、こちらとしても天使の遺跡に眠るアイテムは欲しい。可能ならば奪取したいところだ。
というわけで、この日は使い魔を放ち様子を見ることにして……宿で特に何事もなく一泊した。
翌日の早朝、フローリーから結果を聞く。
「結論から言えば、異常はないな」
きっぱりと言われた……ネフメイザはユスカ達に必要以上のことをしなかったのか。
加え、ユスカの意識を変更する魔法もきちんと解除されている……というわけで、二人については安心、と思っていいのだろう。
仕込むチャンスはあったはずだが……何もないということは、俺が連れていくことを考慮し、無駄なことをしなかったという解釈もできるかな。
「ただ、一つ気になることがある」
フローリーは言う。それは――
「といっても、実害があるわけじゃない」
そう言って彼は俺へ視線を向けた。
「この面々のリーダーは君でいいのか?」
「はい」
「なら少し話がある」
仲間を残し別の部屋に。小さな書斎といった感じの部屋で会話を始める。
「あの少女についてなんだが」
「ロミルダのことですか?」
「ああ。彼女、戦った経験などはないと話していた」
それは間違いないので、俺は頷く。
「正しいと思います」
「……にしては、ずいぶんと魔力が高い」
ということは、やはり覚醒しているのか。ロミルダは帝都から逃れる時に力の一端を見せたし、フローリーの言及は正しいと言えるだろう。
「あの青年の方は、言ってみれば騎士としての訓練を受け、それに基づいた魔力をしているのが明瞭にわかった。彼も結構強いだろう」
「そうですか。しかしロミルダは違うと?」
「現在表層に出ている部分以外に、潜在能力が非常に高そうな雰囲気だな」
頭をかきつつ彼は言う。気になることがあるのだろうか。
「どうしました?」
「今の時点で結構な力だ。どういう経緯で得たのかは知らないが……注意すべきだと思う」
経緯については詳しく聞いていないんだよな。彼女の様子から無理に訊くのは微妙だし……異常がないということからネフメイザに何かされたわけではないと思うのだが。
「ともかくだ。やりようによっては彼女もすぐに力が使えるのは間違いないだろう」
「即座に戦わせるつもりはないですけどね」
「戦闘経験については皆無だろうからな。ま、そういうことで少し気に掛けた方がいいかもしれない」
俺は頷き会話は終了。で、フローリーに礼を言って俺達は家を出た。
「ルオン様、騎士達の件はどうしますか?」
ソフィアが訊いてくる。俺は使い魔と連絡をとりつつ返答。
「今のところ、異常はないんだよな……もう少し粘るべきかな」
まあ使い魔を残しておいて、変化があったら急行という形でもいいか……などと思いながら歩む。
リチャルが生み出した飛竜は町から少し離れた場所に隠してある。見つかったら大騒ぎになること間違いなしだが、とりあえず問題ない。
「これから俺達はどうすれば?」
ユスカが歩きながら問う。俺は一考し、
「……そういえば、君の能力についてあまり尋ねなかったな。『創奥義』は使えるのか?」
「はい」
即座に返事をするユスカ。
「ちなみにどんな技?」
「剣に魔力を集め、連撃で叩き込む技です」
ゲームと同じだな。彼は『創奥義』を二つ習得するのだが、そのうちの一つが今語ったもの。名は『ソード・アルカディア』だ。
レベルが上がるごとに連撃の数も増え、威力も上昇する。使い勝手がいいので、俺もゲームでは結構多用していた。
もう一つの技は習得していないようだが、こちらはレベルが極まっていないと使えないので、ユスカの実力を考えれば覚えていなくて当然だろう。
「なら……侯爵と相談する必要もあるけど、何にせよ結構働いてもらうことになるかも」
「そうですか。俺は構いませんよ」
「……騎士団に所属していたことについては、未練とかはないか?」
質問に、ユスカは小さく息をついた。
「大丈夫です……という言い方はおかしいかもしれないですけど、ともかく同僚だった人間と対峙しても、戦うつもりではいます」
「覚悟はあるというわけか」
「はい」
彼自身、皇帝の暴虐とされる現状の戦いについて思うところはあるらしい。
「わかった。ただ、相応の訓練だってしてもらうことになる。騎士の訓練よりも厳しいかもしれないから覚悟しておいてくれ」
「カトラについても、そのつもりですか?」
「たぶんな」
前線で戦うかどうかは不明だが、少なくともある程度の強さは持っていた方がいいだろう。
ロミルダについてはどうするか……ふと後方にいる彼女に視線を送る。何か考え込んでいるのか、俯き加減で歩いている。
俺は次に隣を歩くソフィアに小声で問い掛ける。
「宿で、ロミルダの様子はどうだった?」
「ずっと悩んでいるような感じでした。尋ねてみたのですが、何も語らずで」
……彼女は城から逃げたと語っていたが、もしかしてその過程で何かあったのか? 魔法などを掛けられたわけではないが、別の何かが――
「ロミルダ」
立ち止まり、声を掛けた。するとビクリとなりながら応答する。
「は、はい」
「もしかして、戦おうか迷っているのか?」
彼女の表情が固まる。どう応じていいのかわからない、という感じだ。
「……ここで結論は出さなくてもいい。ただ、少なくとも俺達は戦うよう強制するつもりはないから、安心してほしい」
その言葉にロミルダは小さく頷いた。いくぶん緊張がほぐれたのか、表情も少し柔らかくなる。
彼女のことをどうするのかも、しっかり検討しなければならないな……そう改めて思いながら再び歩き出そうとした時、
「……あ」
「どうした?」
リチャルが反応する。
「使い魔から報告でもあったか?」
――その指摘は事実だったので、俺は頷いた。
「町から南に進む騎士がいる。そして森の方向に進んでいるな」
俺達がいるのは町の東側の入口。少し急げば森に入ったくらいで彼らを捕捉できるかもしれない。
「調べるべきだろうな」
リチャルが言う。ソフィアもそれに同意するような表情。
「わかった。リチャルは竜の所で待機してくれ。連絡用の使い魔を作るから、何かあったら頼む。ソフィアは援護を」
「俺はどうすれば?」
ユスカが問う。こちらは彼を見返し、
「戦う意志があるのなら、止めはしないよ」
「なら、行きます」
決意表明を聞いた後、ロミルダへ視線を向ける。リチャルと共に待機かと思ったのだが――
「私も」
少しばかり強い口調で言う。
「行きます。いいですか?」
――迷いはなさそうだった。先ほどの会話で踏ん切りがついたのだろうか。
「……わかった」
俺は頷き――仲間達へ言う。
「騎士と戦うかどうかまではわからないが……気になるのは確かだ、何をするのか、観察することにしよう――」




