覚醒の一端
ユスカが身に着けている鎧なんかを全てはぎとって、なおかつ身体検査をする。
ネフメイザがこうした組織を立ち上げたのなら、騎士の所在を把握するような道具くらいは渡しているだろうという推測だった。それは見事的中。ズボンのポケットに発信器らしき魔石を発見。
「とりあえず移動の最中適当に捨てるか」
結論を出しユスカを抱える。身体強化を用いれば何のことはない。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
ロミルダは頷く。男性一人を抱えることについても特に驚いていない……頭が追いついていないだけかもしれないけど。
使い魔による探索では、周囲に騎士の姿はない。このまま彼らを避けるように移動し、町を出たいところだ。
「ついてきてくれ」
俺の言葉にロミルダは再度頷き……歩き始める。
とはいえ、問題は山積みだ。脱出するとなれば門を抜けるか城壁を越えるかだが、今回は気配隠しの魔法が使えない。あれは対象が一人で、例えば一定の範囲の人物を丸ごと消すとか、そういった手法がとれない。
同行者がロミルダ一人なら城門から出ようとしても誤魔化せるかもしれないが、ユスカを抱えている。さすがに兵士がいる中で通過しようとしても無理だろう。
「となると、やり方は一つか……力技なのに変わりはないなあ」
小さく呟いた時、大通りに出た。とはいえ深夜近い時間であるため人は皆無。どこかの酒場で談笑でもしているような声は聞こえるが、耳に入るのはそのくらい。見張りの兵士なんかは巡回しているようだが、使い魔を利用し鉢合わせしないように移動を行う。
ロミルダは俺の後方を何も言わずついてくる。ひとまず信用してもらっているのは間違いないようで、安心する。
そうこうする間に城門に近づく。といってもまだ二つ目の門であり、町を出るには三つ目の門を抜けないといけない。
「……この辺りで、連絡しておくか」
俺はロミルダに指示しつつ、いったん物陰に。そして近くにいる鳥型の使い魔を招きよせる。俺の近くを飛び回る奴なのだが、こいつには同じ型の使い魔が、エクゾンの屋敷にいる。つまり――
「リチャル、聞こえるか?」
『ああ』
鳥から声が聞こえたためか、ロミルダはちょっとばかり驚いた表情。俺はそれを無視しつつ、会話を行う。
「魔物についてはどうだ?」
『急ピッチで進んでいるけど、そっちに送るにはまだ時間が……って、まさか――』
「そのまさかだ」
『さすがにこんなに早く結果が出るとは思っていなかったな。どうする?』
「常に会話ができる状態にはしておいてくれ。俺はこのまま町を脱出する」
『こちらは急ぐが……いけるのか?』
「なんとかなるさ」
連絡を終え、俺はロミルダに視線を送る。
「外に出た後はしばし歩くことになるけど、大丈夫か?」
頷くロミルダ。まあ、なるようにしかならないか。
俺は再度移動を開始。ともかくできるだけ速やかに都を出る必要がある。
城門近くに到達。やはり見張りの兵士がいるのだが……ここで俺は詠唱を行う。
「――悪しき者よ、眠れ」
言葉と同時、城門に立っている兵士の体が傾いた。倒れ込むくらい強くはしていない。兵士は合計二人だが、そのどちらもが手に持っている槍で体を支えつつも、力が抜けその場にへたり込む。
使い魔で周囲を確認すれば、他の騎士などの姿はない。近くの詰所にも人はいない。
「行こう」
ロミルダに告げ、先へ進む。眠る兵士の横を通り、第一関門を突破する。少しすると兵士達は目覚める。さすがにずっと眠りっぱなしでは怪しまれるので、一瞬だけ眠るように魔法を調整したのだ。
「この調子でもう一つの城門も突破できればいいけど……」
そう簡単にいくのか――疑問に感じながらも歩き続ける。ロミルダに視線を転じれば、俺に従う彼女の姿。無言で付き従う彼女からは不安な表情は見受けられない。
この点においては信用してもらっている……のだろうか? 少し気になったがひとまず後だ。今は従ってくれているという事実に安堵することにしよう。
やがて外に出る門に近づく。使い魔を用い開いていることは確認済み。全ての門を閉じる、ということはないらしい。
「さて、通用するか」
俺は口の中で詠唱を開始。そして――
「悪しき者よ、眠れ」
言葉と共に魔法が発動。見ていると……兵士の体が傾く姿。
とりあえず成功のようだ。俺はロミルダに目配せをした後歩き出す。少しドキドキしながら俯く兵士の顔を眺め――
外へと出た。拍子抜けするくらいであり――少々違和感を覚えたが、ひとまず安堵の声を出す。
「成功だな」
とはいえ、兵士達はすぐに目が覚める。俺は彼らに見咎められないよう街道から少し逸れ、歩き出す。
「夜の間にできるだけ移動したいけど……」
ロミルダの表情を窺う。月明かりに照らされた彼女の表情は眠気などまったくないように見える。
ひとまずこのまま歩き進めてもよさそうだが――
「……何かあったら言ってくれ」
こちらの言葉にロミルダは頷き――俺達は、闇夜の中を進み始めた。
帝都から少し離れた時点で、俺は思考する。ロミルダがいるため移動速度としては正直遅い。彼女もユスカと同様抱えて走るという選択肢が浮かび……それを実行するべきかと思った。
「……あの」
そんな折、彼女が声を上げる。
「歩くの……遅い、よね?」
こちらの様子を窺うような発言。なんだか心の内を読まれているような感じだ。
「まあ、本音を言えば」
「……その、お兄さんは、大丈夫なの?」
ユスカを抱える俺に躊躇いがちに言う。
「魔力で体を強化しているからな」
とりあえず、笑みを見せつつ返答。
彼は気絶した状態から眠らせてあるので、道中暴れるようなことはないはず。このままエクゾンの屋敷までご同行願いたいところだが――
「私、あの……」
ロミルダはちょっとばかり躊躇するような表情を見せ、
「足に力を注いで……速く走ることはできるよ」
「走る?」
「うん、そうやって城からも出た」
「誰かに教えてもらったのか?」
質問に、ロミルダが少々まごついた後、
「逃げようって思ったら……自然に……」
――力が覚醒しているということなのか。ゲームでは仲間になった時点で魔法も技も使えなかった。それを考慮した場合現実でも魔力を引き出すなんてことはできないはずだが……ともかく、確認すべきか。
「わかった。ただし、何かあったらすぐに言うこと」
すると、コクコクと頷いた。
「なら……準備はいいか?」
「うん」
あっさりと答え、彼女は足に魔力を集める……うん、しっかりと足元に魔力が生じた。
『制御もいいな。これなら十分な速度で進めるだろう』
ガルクの指摘。俺も内心同意しつつ、ロミルダに言う。
「じゃあ、行こう」
言葉と同時、走り出す。ロミルダはそれに追随――というか、一瞬俺を追い抜いた。
ちょっと見くびっていたと思いつつ、俺は速度を上げる。ただ途中、彼女は上手く地面を捉えられず僅かにつんのめったりする。それに俺はアドバイスを行いつつ、先へと進む。
やがて、前方に町を発見。だが俺は逸れるように進路を変更。町を迂回しつつ駆け抜ける。
「町、入らないの?」
「ああ。このまま体力が続く限り目的地へ向かう」
俺はそう明言しつつ、使い魔で帝都の状況を確認する。
まだユスカのことは気付かれていない……いや、城の方で帰りが遅いというのは察したのか、幾人かの騎士が動き始めている。気絶させた騎士には魔法を使っているので目覚めないし、発信器だってとりあえず適当な場所に捨てたわけだが……異変が起きていると気付くのは時間の問題だろう。
おそらく夜明けまでには状況を把握されてしまうに違いない……時間的にあと数時間といったくらいか。それまでにできるだけ帝都から離れておきたい。
「あとはリチャルがどの程度速く魔物を完成させるのか、だな」
完成し迎えが来ればあっという間にエクゾンの屋敷に到達できるだろう。そこまで行けば皇帝側が異変に気付いても逃げ切れる。
ロミルダに視線を移す。俺と同様闇夜を疾駆する姿はまだ余裕がありそうだった。月明かりに浮かぶ姿は様になっているなどと思いつつ……俺達は、進み続けた。




