騎士となった主人公
まさか、と思った瞬間、ユスカが少女――ロミルダへ一歩近づく。当然彼女は警戒し、騎士達を見据えている。
とはいえ背後は壁。このままいけばユスカ達に連行される。当然止めないといけないのだが――これ、仮に俺が出現してもロミルダは警戒するんじゃないだろうか……ただ、それをどうにかできる材料なんかないし、なおかつ時間もない。
「――仕方がないか」
呟いた後、近づこうとする騎士の前に立ちはだかる。まだ魔法は解いていないのでユスカ達は気付いていない。彼らに干渉すれば自動的に魔法が解けてしまうので、そのタイミングを計る必要がある――
ロミルダが一歩引き下がる。しかし逃げることはできない。ふと彼女がどうやってこの帝都までやって来たのか、という疑問がよぎったが……全ては後回しにしよう。
「待った」
声を上げた。同時、ユスカ達は真正面に立っていた俺に気付く。
「――何?」
驚愕の後、ユスカともう一人の騎士は同時に剣を抜いた。
「お前は、何者だ?」
「一応、この子の保護者なんだけど」
試しに言ってみる。ロミルダの心の内としては微妙かもしれないけど。
「夜中に出歩かせてしまったことは申し訳ないよ。ついては、見逃してもらえないかな」
――この時点で俺はユスカに注目した。騎士の出で立ちをしている彼。ゲームの中でこのような格好にはならなかったので、俺としても新鮮。
ここで遭遇したのも縁だと思う……彼もロミルダと同様、連れ帰ることができないだろうか。
「馬鹿なことを言うな」
俺の言葉に対し、ユスカは嘲笑を示し返答する。
「彼女は宮廷の人間が丁重に招いた人間だぞ」
「……じゃあ何でここにいるんだよ」
また謎が増えた……が、ネフメイザが何をやろうとしていたのかはわかった。
理由をつけて彼女を宮廷内に呼び寄せようとした。その結果がこれなわけだが……ロミルダは何か危険なものを感じたということだろうか。
まあいい。その辺りも後回しだ。
「丁重に、ねえ」
斜に構え、俺は応じる。
「どう見ても、この子がそれに応じているようには見えないけど」
「邪魔立てすれば、容赦はしないぞ」
ユスカの重い言葉……そこから感じ取れるのは、騎士として職務を全うしようとする気概だけ。
彼の性格は静かな熱血漢といった具合だったが、ゲーム中ではそれなりに喜怒哀楽を出していた。騎士として仕事をしているという点を差し引いても、ここまで無機質な態度というのは俺にとってはずいぶんと違和感がある。
もしや、操られて……? そう考えつつ、彼をどうするか頭の中で検討。
二人をどうにかして連れ去るにしてもその移動手段が問題だ。リチャルが魔物を用意してはくれるが、どれだけ早くとも明日の昼くらいまでは来ないだろう。移動魔法は他者を巻き込んで使えないので、二人をどうにか担いで首都を脱出するしかない。
とはいえ……リチャルが来てから事を起こすにしても、こんなシチュエーションに出会うことはまずないだろう。ロミルダとユスカ――この二人をどうにかするには、今しかない。
「聞いているのか?」
無反応な俺にユスカが問う。感情が何一つ乗っていない声。やはりどこか違和感がある。
それを解明するには、やはり彼を捕まえるしかないか――
「警告する。このまま去れ。今のうちに消えれば、何もすることはない」
普通そう言うよな。周辺にいた使い魔に呼び掛けてみたところ、近くに他の騎士はいない。ならば――
「……悪いな」
「え?」
一瞬の行動。ユスカではないもう一方の騎士に近寄った直後、右手を突き出した。
次に放ったのは雷属性下級魔法『サンダーボルト』。上手く調整すればスタンガンのような効果を発揮することが可能で、彼は直撃を受け――倒れ伏す。
魔力障壁を構築している状況では無論効果はないが、奇襲に近い状況で騎士も動きに対応できなかった。攻撃は見事成功。ユスカを狙うという選択肢もあったが、彼の体に淡く魔力が存在していたので、奇襲同然でも通用しないと思ったのだ。
次いでユスカに狙いを定め――
「おっと」
彼は俺に剣を向ける。こっちは剣を抜きつつ一歩後退し、問う。
「おとなしく俺に従っては……もらえないか」
言葉と同時、ユスカが仕掛けた。
一歩で踏み込み剣を薙ぐ。鋭さは一級品で、騎士となり着実に腕を上げているのは間違いなかった。
俺は剣を合わせる。伝わってくる膂力は結構なものだが、対処は容易。
剣の音を聞きつけ他の騎士が来る可能性もある……手早く終わらせるか。
「ふっ!」
僅かな呼吸と共に一閃。一度目、ユスカは応じることができたのだが、二度目の剣戟で受け損ない、俺の刃が鎧に触れる。
魔力を剣に集めていた俺は、すかさず衝撃波を浴びせる。鎧を通しユスカの体に当たり……確実にこちらの攻撃が抜けた感触が。
「ぐ……」
これで沈まなければさらなる追撃を、と思ったところでユスカは倒れ伏す。あっけない勝負だったが、実力差を考えれば当然の結果か。
次いで振り向く。いまだに硬直しているロミルダを見て、俺は口を開く。
「助けに来た、って言っても信じてはもらえないか」
「……あな、たは……?」
僅かな沈黙の後、俺を見上げ少女は問う。体が固まっているようで、とりあえず逃げる気配はない。
「色々話をしたいけど、騎士二人を倒した状況だからな。あまり悠長にもできない」
使い魔の報告では周囲に他の騎士はいない。手早くここを去った方がいいだろう。
「一つ質問させてくれ。騎士に追われていたようだが、その理由は?」
答えてくれるのか疑問だったが、ロミルダは少なくとも助けてもらったという事実は認識しているようで、あっさりと返事をした。
「あの人達は……魔法で私を、封じ込めようとした」
――魔法の知識はないはずだが、どうやら封じられるという事実は認識できたようだ。
ふむ、皇帝候補であるため味方にするというわけではなかったのか。しかし、封じ込めるというのは……処刑するとか、そういうわけではないのが少し気になる。
「封じ込めるというのは、どういうことを?」
「巨大な……竜魔石の中に私の体を封じ込めようとした」
ここで直感。処刑ではなく封印……もしや、皇帝の保有する特別な竜魔石の利用に際し、彼女の皇帝候補の力を利用しようと考えたのでは?
ネフメイザが過去を何度もやり直しているのなら、そうした案を思い浮かんでもおかしくない。
「わかった。俺は君をこの町から脱出させたい。理由は……申し訳ないが、後で説明させてもらいたいけど」
ロミルダは小さく頷いた。助けたという点が評価点になっているのか、おとなしい。
「一応確認だが、俺のことは信用するのか?」
「……その、悪い人じゃないと思う……なんとなく」
――ロミルダは潜在能力の高さから敵意があるのか見極められるんだったかな。城に招待されたとき、そうした能力もあって命が危ないと思い逃げた。で、俺からはそういうものを感じられないので逃げないといった感じかな? 警戒度合いが薄い気もするけど……やっぱり混乱しているのか。まあその方がこちらとしては都合がいいけど。
彼女がここにいる流れとしては、騎士達が彼女を城へ連れ帰る。この時点で騎士達は彼女をどうするかは聞いておらず、ロミルダも城から呼ばれたということでおとなしく従ったのだろう。結果として身の危険を感じ、城の外へ……といったところか。
ただ、一つ気になる点が。騎士が彼女を捜索するのは違和感ない。ただ、彼女の逃がさないようにするなら城門を警戒すると思うんだが……取り仕切る兵士なんかの様子は普通だったし、増員されている様子もない
彼女については城の人間にも言っていないということかな? ネフメイザの直属と思しき『漆黒の剣』しか動いていないことを考えると、その結論が妥当か。
ここで俺は思考を断ち切り、口を開く。
「信用してもらえて助かるよ。それじゃあ――」
俺は、倒れるユスカに目を向ける。
「脱出するために、動き始めるとするか」




