仲間キャラからの提案
俺は仲間キャラであるギルバートの声を聞き、もしや面倒なことになったのではと思った。
直後、ギルバートは驚く程の軽快な足取りでソフィアに近づき、一言。
「どうやら旅の御方のようですね? もしや、ギルドに用ですか?」
「え? え、いや、あの……」
「もしよろしければ、私が案内してあげますよ。あ、何か依頼を受けるのであれば、私が同行させて頂きますが――」
「はいはい、待った」
俺は心底面倒な気分になりつつギルバートに話し掛ける。すると相手は首を向け、
「……お前は誰だ?」
口調がまるで違う。ため息をつきたい衝動を抱きつつも、口を開く。
「彼女は俺の従者だ。ギルドには用がないから解放してやってくれないかな」
その言葉に訝しげな視線を向けるギルバート。
これは相手にしているとさらに面倒になる……そう思った俺は、会話を無理矢理打ち切ることにしてソフィアに提案する。
「それじゃあ行こう」
「はい」
「――おい、ちょっと待てよ」
呼び止められる……これはやはり、絡まれるパターンか。
「まあまあ、いいじゃないか。この町は初めてか? 少し話をしようじゃないか」
「ソフィア、行くぞ」
「おおい、待ってくれよ」
俺は強引にギルバートを引きはがしてソフィアと共にギルドを離れる。途中ソフィアから「よろしいのですか?」という問い掛けがあったが、俺は「平気」と返し何事もなかったようにする。
すぐに彼の姿は見えなくなったが、ゲーム上の性格を考えるとしつこいと思うんだよな……遠目からつけられているかもしれない。
ソフィアのこともあるので、町中で無理矢理追い返すような真似は目立つからしたくないのだが……。
それからしばし町を回った後、宿に戻る。時刻は夕方。宿に併設する飯屋で料理を待っていると、
「やあ、奇遇だな」
ギルバートがやって来た。やっぱりつけられていたらしい。まったくもって白々しい。
俺達が反応するより早く彼は俺達のいる席につき、話し始めた。
「そう邪険にしないでくれよ。今回俺は情報を持って来たんだぜ?」
情報……? 俺達の目的すらまったく把握していないはずの彼からそんな言葉が出るとは。
彼の目的は間違いなくソフィアとお近づきになることだろうけれど……問答無用で追い返そうとするにもさすがに目立つ。ここは話を聞いて穏便に対応するか。
「情報とは何だ?」
「――お前さん達、この町を拠点に活動しているような人間じゃないだろ? 加え、雰囲気からすると単なる傭兵とかじゃなさそうだ」
俺とソフィアを交互に見る。最初ソフィアの見た目に惚れたという雰囲気がありありとあったが……今はどうも違う様子。
「最近、お前さん方みたいな輩がずいぶんと増えた。で、俺は考えたわけだ。もしかするとあんた方は、どっかの貴族で国を追われ旅をしているんじゃないかって。だったら色々教えてやれるかなと」
……ははーん、なるほど。こいつはつまり、金の臭いを感じたのか。最初ナンパだったけど、俺達の様子を見て方針を切り替えたか。彼は俺達を見て「もし恩を売ったら結構な見返りが得られるかもしれない」などと思い干渉してきているのだろう。
ソフィアが王女である以上、ギルバートの見極めは正しい。当たりの中でも大当たりの部類に入るはずだが……まてよ。
一目見た反応はソフィアの気品に驚いたという感じだったが、もしかするとソフィアのことを過去見たことがあるのか? だからこうやって干渉を? そんな可能性は低いが、決してゼロではない。
もしそうなら、口止めをしておかなければならない。それについては要確認だな。
俺はソフィアを見る。彼女としても多少ながら懸念を抱いたらしく、表情が硬い。こちらは「任せろ」という意味合いで一つ頷くと、ギルバートに話しかけた。
「なるほど、付きまとってくる理由はわかった」
「おお」
「だけど俺達には必要ないよ」
「そうか? それじゃあ魔物の少ない安全な道とかの情報は?」
「悪いけどそういうのもこっちでは把握済みなんだよ。だから平気だ」
やんわりと拒否。するとギルバートも困った表情をする。
「うーん、ずいぶんと警戒されている感じだな」
「当然だと思うが……」
むしろ何で警戒されないと思ったのか。
「……わかったよ。必要ないってことなら大人しく引き下がるさ」
未練タラタラな雰囲気ではあったが、彼はあっさりと席を立った。
というわけでギルバートはいなくなった……のだが、放置でいいと思うけど念の為素性を知っているか確認しておいた方がいいだろう。ソフィアも同じことを思ったか、俺に声を上げた。
「……ルオン様」
「ソフィア。少しばかり彼と話をしてくる」
「は、はい」
彼女が頷いたのを見て、すぐさま行動開始。店を出てトボトボ歩くギルバートに声を掛ける。
「おい、ちょっと待ってくれ」
すると、肩ごしに彼は振り返り、
「……心変わりしたにしては早過ぎるな」
「話があるんだ。いいか?」
そう言って路地裏を指差す。この時点であんまりいい内容じゃないと判断したらしい彼は、ため息をつきつつ「わかった」と答え俺と共に路地裏に入った。
「で、話って?」
「俺や従者についてだが……単刀直入に訊くけど、どこかで見た記憶とかあるのか?」
「……ん?」
首を傾げるギルバート。ふむ、態度から知らなそうな雰囲気だ……俺は続ける。
「あんたの予想通り俺達が旅をするのは訳ありなんだが、もし記憶にあったとしたらその辺りのことについて誰かに喋られては困るんだよ」
説明にギルバートは「なるほど」と答えた。
「お前さん達、色々大変なんだな」
「質問の答えは?」
「いーや、あんた達のことは全く知らないまま話し掛けた。それは約束するぜ」
「もし嘘だったら……」
ちょっと威圧を込めて言うと、彼は両手を上げこちらに敵意がないことを示しつつ、
「そう怖い顔しないでくれよ……というか、一ついいか?」
「どうした?」
「訳ありって言ったが、こうして旅をしている原因は魔族だよな?」
ギルバートは質問しながら肩をすくめる。
「人間同士の戦争なんて最近耳にしていないから、当然魔族に侵攻により国を追われたってことだろ? で、魔族にも警戒しているってことでいいのか?」
「……そうだな」
「なら、面白い話がある。もし魔族関連で気に掛かることがあるのなら、旅をするのに良い道具があるんだが」
「……道具?」
聞き返すと、彼は意味深な笑みを浮かべた。
「この大陸は、人間達が繁栄する前天使が住んでいたと言われている。そうした天使が残したと言われる遺跡に、アーティファクトという超強力なアイテムが眠っていることがある……で、学者さんによると、どんなアーティファクトがあるのかわかっている遺跡がこの町の近辺にある。それは魔力の質を変えてしまう特殊な道具……それを使えば魔族から正体をバレずにすむ。興味はないか? もし欲しいなら、協力してやってもいいぜ」
降って湧いたような内容……とはいえ、俺としてはすぐに頷くことはできなかった。
唐突なギルバートの提案に対し、まず確認を行う。
「……何でそこまで俺達に肩入れする?」
「なんとなく予想できているんだろ? ここであんた達に色々関わったら、儲かりそうだと思っただけだ」
――そういえば、確か仲間になる時出世払いの報酬とかなんとか言っていたような気がする。つまり魔族と戦うにしても多くのリターンを求めているわけだ。
彼にとって現在のギルドの依頼は危険だけど見返りが少なくて不満、ということだろう。対する俺達はリスクはありそうだが協力すると儲かりそうである上、一緒に遺跡を探索して宝を手に入れ一石二鳥……という感じかな。
「……アーティファクト、ねえ」
そこで俺は疑わしい目でギルバートを見た……彼は肩をすくめるだけ。
確かに、彼の言うことは一理ある。王女であっても人々の認知度が低いため、人間相手はそう心配いらない。けれど魔族は違う。何かの拍子に魔力でも解析されたら正体がバレる危険性はある。
今の所使い魔を通して魔族を確認しているが、城にある遺体が偽物であることに気付いている兆候はない。なのでひとまずは大丈夫なはずだが……アーティファクトに関しては気に掛かる。
ゲーム上でも、天使が作り上げた遺跡のダンジョンというのはいくつもあった。そしてその奥に眠るアイテムが『アーティファクト』と呼ばれ、通常とは異なる強力なアイテムが眠っている。
こうした遺跡は異空間内に存在し、相当複雑な手順を踏まなければ見ることすらできない。俺も修行している時目にすることはなかった。けれど現在魔族が襲来した事で遺跡を守る魔力が変質。多くの遺跡が出現……ゲームではそういう設定だったと思う。
しかしギルバートの言う内容のアーティファクトは聞いたことがない。無論ゲームで存在していた遺跡ばかりでないのは俺も理解できていたけど……さて、どうするか。
彼の言う通り、ソフィアの存在を隠すためにはそういう超常的な物に頼るのもアリだろうけど……この話が本当なのか真偽もつかない。
「信用してくれよ」
ギルバートが言う。俺はしばし考え……まず、本題に入る前に確認を行った。
「最初に話しかけた時、完全にナンパする気だったよな?」
「そうだな」
あっさり認める。俺はちょっと脱力しつつも、さらに質問。
「で、今はその方針を転換したってことでいいのか?」
「そっちが俺の後を追うくらいだから、ならばと思って提案をしたんだよ。あんた方にとっても、魅力的な道具だろ?」
……こうやって話を持ちかけていること自体、完全な善意というわけではなく報酬目当てなのは間違いないが、アーティファクト云々について興味があるのもまた事実。
どうするか……思考しているとギルバートがなおも告げた。
「俺の報酬については、遺跡にも潜ることで手に入るお宝でいいさ。アーティファクトは効果的に俺には必要ないからいい。関わることで得られる対価としては上々だ」
「……その遺跡についてだけど、他の誰かと行くようなことはしないのか?」
「ギルドにいるような面々じゃあ戦力的にちとキツイし、そもそも誘いにも乗らない」
「俺達にだって、手に余るかもしれないぞ?」
問い掛けると一転、ギルバートは苦笑した。
「おいおい、少なくともあんた達がそれなりの技量を持っているのは、俺から見たら一目瞭然だよ」
……ソフィアのことを見て金の臭いを感じたのと同様、何かしら彼には俺達の技量を読み取る基準があるのかもしれない。この辺りは、仲間キャラとして何かしら特性を所持しているのだろうか。
「こうやって追っかけてきたくらいには色々と大変なんだろ? で、俺はあんた達の様子なんかを判断して話を持ちかけた。戦力的にもよさそうだし、俺の言うアーティファクトが必要なら誘いに乗るかなと思ってさ」
口調から、遺跡については元々戦力となる人間を探していたようだ。遺跡で手に入る宝を入手という時点で彼にもメリットがある……加え、俺達としてはソフィアの素性が露見しないようなアーティファクトが手に入る……彼の言う事が本当であれば。
ゲーム上に存在していたダンジョンなら確実なことが言えるはずなんだが、今回は違う。ギルバートと遭遇するイベントはゲーム通りだが、こうした話はゲームの範疇外。さて、どうするか。
「従者さんと相談して決めてもらえればいいさ」
ここでギルバートは俺に言う。
「胡散臭いと感じたなら、この話はなかったことにしてもらっていいぜ。もし興味が湧いたら、明日の明け方にあんたが訪れたギルドの前に来てくれ」
その言葉と共に彼は立ち去る……俺も店に戻ろうと歩き出す。
軽そうなキャラではあるが、こういう風に話していて嘘をつくようなキャラではなかった……加え魔族と内通しているなんてキャラでもなかった。よって、提案自体は本物だと思っていいだろう。
アーティファクトの話は確かに魅力的ではある。ソフィアを魔力的に誤魔化すことができればまずバレることはなくなる。
俺は彼女のいる席に戻り話をする。事の一切を聞いたソフィアは、ギルバートに対し感嘆に近い感想を述べた。
「あの方は、色々と察していたということですか」
「彼なりに、俺達が普通の冒険者とは違うと思ったんだろう……出会いはあんまりよくなかったけどな。で、アーティファクトについてだけど」
「魔力を解析される可能性を考慮すれば、あった方がいいとは思います……彼の話が本当であれば」
「そうだよなあ……ソフィアとしては参加すべきだと思うか?」
「精霊の力を訓練するのに良い機会かなとも思っています」
「レーフィンは?」
「私も、同意します」
ソフィアの横に出現して彼女は言う……ふむ、確かにこれは俺が目論んでいた彼女の訓練にも使える。魔物のレベルがどの程度か気になるところだが、ギルバートが踏み込めるレベルだとすれば、極端に強いというわけではないだろう。
彼の初期レベルを思い出す。主人公キャラと比べれば少々高いくらいだったはずだが、今はシナリオが開始して少し時間が経っているからもう少し高くなっているかもしれない。どちらにせよ、能力的には今のソフィアと大差ないかもしれない。
そうした彼が言うダンジョン探索……ソフィアとしても魔力を変えることは重要だと考えている様子。訓練にもなるし、やっておくか。
「わかった。それじゃあギルバートの話に乗るということで。ただし、怪しいと感じたならすぐに引き返すぞ」
「わかりました」
最悪トラブルがあったら俺がどうにかすればいいだろう……というわけで、俺達はアーティファクトを取りに行くことを決定したのだった。




