武器と情報
それから俺はエクゾンとシュオンの会議を耳にしつつ、部屋を出た。シュオンの立ち位置としては、帝都から指示を受けてものらりくらりかわすというスタンスでいくとのことだ。
ただもし皇帝との決戦になったら――エクゾンに協力するのは間違いないらしく、ひとまず味方になったという認識でよさそうだ。
その後彼はエクゾンといくらか打ち合わせを行い、自身の領へ戻ることに。彼が脅威にならない、という点においてはよかったと言えるだろう。
「――さて」
エクゾンが呟き、屋敷の外観を眺める。この場にはアベルやソフィアなどもいるのだが、侯爵と同じように屋敷の惨状を確認。
「ずいぶんとやってくれたな、まったく……まあいい。屋敷の補修をしつつ、武器の作成といこうか」
生成には五日と言っていたな。それまで俺は情報収集に励むとするか――もっとも、城内に入らない限りネフメイザについて確信的な情報を得ることはできないだろうけど。
「他の四竜侯爵の動きはどうでしょうか?」
ソフィアが疑問を呈する。
「さらなる侯爵が襲来するという可能性は低いと思いますが」
「他の二人が、ここに来ることはあるまい」
断定するエクゾン。俺としてもそれには同意する。
というのも、四竜侯爵の残る二人は基本的に皇帝と仲が良くない。エクゾンやシュオンだって関係が良好といわれると首を傾げるが、特に北東を領土とする侯爵は現体制を毛嫌いしている。
まあそうは言ってもゲームでは戦うことになったわけだが……そいつは基本皇帝の指示に反発するため、気分で戦況を変えたりする。非常に扱いづらく、ネフメイザも率先して動かそうとはしないだろう。
北西の侯爵は……こっちもこっちでクセが強い。仮に指示に従ったとしても、時間が掛かるだろう。
この辺りは使い魔を使って偵察をしっかりとしよう……と考える間に、エクゾンからさらに発言が。
「シュオンを引き入れた今、当面の間私達に攻撃を仕掛けてくる者はいないだろう。考えられるとしたら『漆黒の剣』を始めとしたネフメイザ直属の部隊だろうな。こちらについては最大限の警戒をする。何かあったら連絡は行う」
「俺達は、屋敷に滞在するのか?」
アベルが質問。エクゾンは「ああ」と返事をする。
「それで問題ない。さて、竜魔石の武器を持たない面々は作成の準備を始めるとしよう」
「では、俺の方は組織の面々と話をしてくる」
アベルが言う。カトラについてはどうするかと思ったが、彼女はどうもアベルについていく様子。
「それほど経たないうちに戻る。帝都に潜入していた者からの報告もあるため、何かわかれば伝えよう」
「うむ、行ってこい」
エクゾンが送り出す。シュオンとの戦いというイレギュラーな事態はあったが、ここからはとりあえず予定通りに事が運びそうな気配だ。
アベルが去り、俺達は屋敷へ入る。地下に武器を生成する施設があるらしく、そこへ足を踏み入れる。
「ここは……」
地下の部屋に入った途端、ソフィアが声を発する。
工房、とでも言えばいいのか――石造りの地下室。魔法の明かりが部屋全体を照らし鬱屈とした気配はない。至る所に机や作成のための道具があり、竜魔石と思しきキラキラと輝くような半透明な色とりどりの石が、俺の視界に入ってくる。
「私が作成する武器の性能については、保証しよう」
と、エクゾンは語った後、俺に首を向けた。
「ただなあ……君の魔力については全容が把握できないため、作成するにしても時間が掛かるかもしれんぞ」
「……嫌な予感がするんだけど。まさか俺の剣は作成できないとかいうオチはないよな?」
エクゾンは何も答えない。否定してくれよ。
「その辺りも含め、調査といこう」
冷静にエクゾンは語り……武器作成が始まった。
俺達がやることは、基本武器作成に必要な魔力解析をしてもらうこと。まあそう深い部分を調査するわけではなく、表層に出る魔力からどういう武器がいいか判断する、といった感じだ。
ソフィアやリチャルについてはさして問題もなく調査は終了。時間にしておよそ一時間。問題は……俺だった。
「ふむ、これはかなり大変だな」
一通り調査を行った後、エクゾンはそう語った。
「魔力の質的なものについては、それほど障害にはならない。君に適合した武器を作成することはできるだろう」
「それじゃあ――」
「ただし、魔力量が問題だな。君が全力で使うとなると……相当純度の高い竜魔石が必要となってくるが、手持ちにない」
あー、そういう方向性で来たか。
「けど、俺の魔力に合わせ武器を作ることは可能だと」
「うむ。しかし手持ちの素材では手加減をしなければならんぞ」
「構わないよ。今はひとまずそれで頼む」
「わかった」
……この事実についてもネフメイザは認識しているのだろうか。疑問ばかり膨らむが、今はとにかくやれることをやるしかない。
武器については問題もあるが一応どうにかなりそうだったので、これから俺達はどうするかを考えてみる。以前『創奥義』を習得すると言っていたが、それを始めてもいいだろう。
あるいは、カトラを鍛えることから始めるべきか……色々思案する間に、ソフィアから言葉が。
「ルオン様、私は武器ができ次第奥義の訓練を」
「ん、そうか。リチャルはどうする?」
「俺は……一応魔法が通用するように強化する腕輪を作ってもらえるみたいだけど、役に立つのか?」
後衛を任せる、というのも手段の一つではあるのだが……。
「まあいいや。ともかく俺は移動手段に使える魔物作成でもするよ」
「魔物……それって、どのくらいでできるんだ?」
「できるだけ早くという要望なら、俺の魔力でも数日でできるよ。ただその場合、速度とか定員とかが制限されるが。どうする?」
「以前みたいな大型の竜は?」
「竜魔石を活用できるんだとしたら、同じく数日。俺の魔力だけだと、十日ではきかないな」
その辺りもエクゾンと交渉するか……結論付けた時、地下への入口方向から階段を下る音が聞こえてきた。
部屋にいる面々が一斉に視線を注ぐ。現れたのは――アベルだった。
「侍女に案内されてきたんだが」
「丁度よかった。君の武器も作ろうかと考えていたところだ」
エクゾンが言う。アベルは工房を見回しつつ近寄ってくる。
「俺のも、か……今の武器ではやはり戦力不足だろうか?」
「私に対抗できる術をいくつも編み出した手法は評価しよう。だが、技術面を含め足りない部分は多い。今のところはそれを武器で埋め合わせしておくべきだろう」
……彼の実力なら、そう遠くないうちに四竜侯爵を打ち破れるくらいには強くなれると思う。ゲームの主人公不在ではあるが、彼がいれば戦いの体裁は整えることはできる。
無論カトラもまた鍛えもしもの場合に備えるべきだが……現状、こうした行動方針は間違っていないと思う。ただネフメイザの動向……これが気になる。
いっそのこと、城に潜入して調べるのもアリか? 気配を消す魔法を使えば……いや、さすがにそれはリスクがあるか? 第一、バレたらかなり厄介なことになるし。
「――それで、組織の方はどうなっている?」
俺が思考する間にエクゾンがアベルに問う。
「士気自体は上がっているのか?」
「おかげさまで。侯爵を味方につけたということが大きい」
「そうか……で、何か有益な情報はあったのか?」
「一つ気になることが。帝都の方で、何やら動きが」
「私に対するものか?」
「いや、違う。どうも宮廷側が人探しをしている」
エクゾンが眉をひそめる。どういうことかと俺もアベルに視線を送る。そして彼は、言った。
「理由はわからないが、城がとある人物を探しているんだ……詳細まではわからなかったが、現時点で判明しているのは捜索対象が少女、ということだけだ」




