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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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新たな侯爵

 ――四竜侯爵の一人シュオンは、見た目二十代半ばという若さを保った剣士上がりの人物。ただ年齢自体はエクゾンとそう変わらず、若作りも大概にしろと言いたくなる。


 そしてその人物は竜魔石――『竜刃石』の所有者。エクゾンのように驚異的な再生能力などないが、厄介なことに変わりはない存在だった。


「先手を打たれた、ということか」


 エクゾンは声を発する――そう、侯爵が屋敷に現れたということはつまり、エクゾンが屋敷へ戻る前の時点で侯爵が動いた、ということ。


「奴の移動能力をもってすれば、私が寝返った後でも急行することは可能だな……とはいえ、敵に回るのかどうかもわからん。まずは話をしなければ」


 そこで彼は俺へ視線を投げる。


「立ち会ってもらえないか?」

「……戦闘を考慮しているのか?」

「あくまで保険だよ。性格的にはおとなしいからな。即座に戦うという可能性は低いが……もし刃を交えるとなると、私と奴とでは相性が悪いからな」


 ――シュオンの持つ『竜刃石』は、名の通り魔力により自由に剣を生み出すことができるという魔石なのだが……これだけだと大したことがないように思える。


 ただ、エクゾンが先ほどのように語るのも無理はない。竜魔石についてはそれぞれが特化した能力を持っているが故に弱点もある。エクゾンの『竜生石』はその特性から『竜刃石』と非常に相性が悪い。


「シュオンというのは、どのような人物なんだ?」


 俺は訊く――もちろん俺自身知っているわけだが、ソフィア達にどういった人物なのか知ってもらっておいた方がいい。一応四竜侯爵については簡略的に情報を伝えてはいるが、エクゾンから説明を受けておいて損はないだろう。現状からすると町へ着いたらすぐにシュオンと話し合いになりそうで、説明する時間もないし。


「ソフィア君から聞いていないのか?」


 エクゾンが問うと、俺は肩をすくめた――話の内容に矛盾が出ないようにしないと。


「あんたの竜魔石についてだって、戦う寸前に知ったくらいだよ。まさか侯爵と直接やり合うなんて思っていなかったし、当面必要ないと思っていた……今回の侯爵については多少なりとも彼女から聞いているけど、その人物の性格なんかはわからないからな」

「それもそうか。見た目、若々しい人物だ。冷静沈着で物事を大局的に見る癖がある。領土は大陸の南西。裏切った私がどういった動きをするのか、腹を探りに来たという感じだろう」

「竜魔石の能力は?」

「名は『竜刃石』……魔力により剣を自由に生み出すことのできる能力だが、それ以上に厄介な特性がある」


 と、エクゾンは渋い顔をする。


「魔石の力を用いて増幅された魔力により、文字通り何でも斬れる剣と化す。再生能力があるとはいえ、竜魔石を利用した攻撃である以上、場合によって私でも死ぬ」

「戦いたくない相手、というわけだな」

「その通りだ」


 情報としては、こんなところか。いずれ侯爵についての補足をソフィア達に行うとしよう。


「……ソフィア達はどうする?」

「さすがに現時点で引き合わせるのはまずいかもしれんな。屋敷内の客室で待機していてもらおう。アベル君も同様だ」

「わかった」


 頷くアベル……さて、どういう展開となるか。俺は多少の不安と共に馬車内で沈黙することとなった。






 エクゾンが治める町の名はブラークン。侯爵がいるということで、町の規模も大きい。丘の上に存在する屋敷を中心にして円形に広がる町の景観は中々。


「さあて、ただ屋敷に帰るだけにも関わらず、ここまで懸念を抱くことになるとは、面白いものだな」


 エクゾンが語る。屋敷にはシュオンという四竜侯爵の一人が待っている。どのような展開となるかは、俺達の誰にも予測はつかない。

 穏便に話をするだけかもしれないし、あるいは戦闘に入るかもしれない。俺はできる限り色んなケースを思い浮かべつつ……屋敷へ到着。


 侍女がやって来て、エクゾンは指示を出す。ここでソフィアとリチャル、そしてカトラとアベルは客室へ。


「では、行こうか」


 エクゾンは俺に告げ、先導しようとする。しかし、


「ソフィア」

「はい」


 言葉を受け前に出る彼女。そこで俺はネズミくらいの使い魔を一匹呼び出し、彼女に預ける。

 それにエクゾンは首を傾げたが……口は挟まず、改めて移動を開始した。


 黙って追随する俺は、何気なく屋敷の内装を眺める。豪華絢爛、という感じではない。むしろシンプルで白を基調とした落ち着いた雰囲気。好戦的な性格に反し、こういうことに関しては質素なものが好みなのだろか。


 やがてエクゾンがとある部屋の前に。ノックもせずに開けると、そこには――


「待っていたぞ」


 黒い貴族服を身にまとった、見た目三十そこそこの男性。黒髪は長く、腰まで届こうかというくらい。その雰囲気は侯爵という肩書相応のもので間違いないのだが、エクゾンと同年齢だと感じさせない若々しい外見は、風格とは微妙に齟齬が生じ違和感を覚える。

 そして彼が座るのはソファの端で、傍らに剣が置かれている。


「これで五杯目だ。これ以上飲んでしまったら、さすがに動けなくなるかもしれないな」


 そう言って彼はカップを置いた。飲みかけの紅茶らしい。まだ多少湯気が出ていることから、つい先ほど淹れ直したものだろう。


「お前のことだ。私の移動速度を考慮して、ここを訪れたのだろう?」


 エクゾンが問う。声音は……やや警戒を滲ませている。


「当然だ。ここで何日も待つわけにはいかないからな」


 ゆっくりと立ち上がる。迫力を兼ね備えているのは間違いないが――


「早速だが本題に移らさせてもらおう。今回の件、どういうつもりだ?」

「別に頭がおかしくなったわけではないぞ」

「そんなことは理解している……一見短絡的な性格のお前が、こうして帝国に反旗を翻したこと……何か理由があってのことだと推察する」


 極めて冷静な言動。俺の目から見て、エクゾンの腹を探るようにも見える。


「なんだ、仲間に入れて欲しいのか?」

「……問答をするつもりはない。ともかくだ、お前は何故敵に回った? その真意を問いたい」


 沈黙が生じる。シュオンはこちらへ度々視線を投げるが、話し掛けようとする様子は皆無。俺をエクゾンの従者とでも思っているのだろうか。


「……色々と、他者の意見も聞いた」


 エクゾンは話し始める……ここからは慎重にいかなければならない。様子からシュオンはこちらの言動をつぶさに観察している。上手くいけば、味方になるかもしれない。


「その中で、一つ確信を得た。このまま突き進めば、私はいずれ殺される、と」

「皇帝陛下に、か?」

「その通りだ。シュオン、お前もまた同じ運命を辿ることになる」


 断定に対し、シュオンは厳しい目を見せる。

 彼もまた、それについては面白くないなどと考えている様子か……? もしかしたら、あと一押しで――


「無論、こちらの道がバラ色だとは私も考えてはいないさ。どちらがいいのか天秤にかけ、結果的に裏切りの道を選んだまで」

「……そうか」


 シュオンは言葉を失くす。さて、どう出るか。


「……彼が語った通りだな」

「何?」


 エクゾンが聞き返すと、シュオンは思わぬ言葉を口にする。


「ネフメイザ殿が懸念していた内容と、まったく同じだ」


 ――なぜここでネフメイザが出てくるのか。疑問は一瞬。その後、俺は一つの推測を得る。


 奴は、俺がエクゾンを説得したと確信している? それはエクゾンとの会話を諜報員から聞かれたためか、それとも時間移動をする前、同じような状況に陥ったか――


「エクゾン、そっちの見解はわかった」


 言葉と同時に、シュオンは剣を手に取った。


「暴走は、私が止めさせてもらう」


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