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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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皇帝候補の一人

 目的の場所はゲームには未登場の町。とはいえここは交易路かつ人も多い場所で、アベル達もここを拠点にして色々活動していたこともあったらしい。

 馬車中で依頼を行ったことにより、アベルはこの町にいる組織の人間と引き合わせてくれるらしい。彼もこの町で伝令を出す必要があるとのことで、一度この町で休むことになった。


「今から協力してくれる人に会いに行くことになるけど……ソフィア達はどうする?」

「私達はここで待機します」


 ソフィアは俺の問い掛けにそう答えた。


「侯爵の動きを観察しています。ルオン様は使い魔を用いているのはわかりますが、すぐに動ける人間がいた方がいいと思いますし」

「なら、頼んだよ」

「それと、ルオン様」

「ん?」


 聞き返すと、ソフィアは目を合わせ、


「ルオン様の実力ならば大丈夫だと思いますが、無理だけはなさらぬよう」

「ありがとう」


 返事をした後歩き出す。落ち合う場所は町外れ。そこでユスカの幼馴染と会うことになっている。


 幼馴染はいるのに、主人公であるユスカの存在は確認できない……シナリオの枠外であるのは間違いないが、問題はシナリオのどこから外れているのか、ということ。仮に序盤から異なった場合――


「いや、考えても仕方がないか」


 ゲームのシナリオというレールは既に外れている。それを修正するより、ゲーム内にある情報を利用し、ネフメイザを倒す。これが正しい選択のはず。

 とはいえ、そこに至るまでにどうするべきか……エクゾンという四竜侯爵の一人を味方につけた以上、リチャルの提示した案のように侯爵達を味方につけるべきだろうか。


 色々と思案する間に、アベルが指定した場所に辿り着く。町はずれの空き地。魔法を使っているわけではなく、単純に人気が少ないのだろう。


 俺はこの場でしばし待機。その時、


「……お待たせしました」


 どことなく緊張した女性の声。目を移すと、そこに目的の人物が立っていた。

 装備は革製の鎧と腰には剣。ショートカットの茶髪に快活な印象を与える茜色の瞳。性格はユスカが慎重派だとすれば、彼女は行動派といった感じ。名はカトラ=ユレット。

「えっと、話は聞いているのか?」


 俺の問いに彼女は小さく頷いた。


「そうか。俺の名はルオン=マディン。実は多少人員が欲しくて、組織のリーダーであるアベルさんにお願いしたんだ。その結果、君が呼ばれた」

「私で、よろしいのですか?」


 確認の問い。唐突に呼ばれたわけだから疑うのも無理はない。


「……その辺り、少しばかり確認させてもらってもいいか?」


 こちらの言葉にカトラは頷く。ならばと、俺は剣の柄に手を掛ける。


「一つ質問だが、君は『創奥義』を使えるのか?」


 質問に、カトラは首を左右に振った。


 ふむ、彼女が奥義を習得するには、レベルではなく特定のイベントが必須だった。ゲームにおいてはレベルを上げなくてもいいということでメリットもあったのだが、現状から考えるとこれが完全に足枷となっている。


 そのイベントがなくても、問題なく奥義を習得することができるのか……疑問はそれだけではない。目の前にいる彼女は奥義を習得していないことから、能力があまり高くないと判断できる。となると、ここから成長させるには――


 思考しつつカトラが剣を抜く姿を眺める。それなりに戦闘を経験してきたためか、普通の冒険者と比べればずいぶんと構えもいい。

 さて……向かってくるかなと思ったが、彼女は動かない。こちらの出方を窺っているらしい。


 これは仕掛けた方がいいかな? どう動くかで戦闘経験の有無も推し量れるか。

 まずは踏み込む。カトラは対応し俺の剣を受けるが、反撃するような余裕はなさそうに見える。


 ついてこれないか……ここで追撃を仕掛けてみる。刺突を放つと、カトラは目で追いながら紙一重でかわした。

 動きはそれなりといったところ。彼女は兵士などの経験もなく冒険者として各地を回っていた人間なわけだが……元々の技量は備わっているにしろ、侯爵達と渡り合う場合は明らかに力不足。


 続けざまの斬撃もカトラはどうにか、といった様子で弾き返す――と、ここで一転攻勢に出た。思い切りのいい性格からか、俺へ果敢に攻め込んでくる。


 戦闘において、攻防どちらが得意なのかというのは人によって大きく分かれる。俺やソフィアくらいならば得意不得意関係なくどちらも同じ技術レベルまで引き上げているわけだが、カトラの場合はそうもいかない。


 どうやら彼女は攻撃に転じた方が動きが良くなるらしい。攻め込む間に反撃してみるが、受けに回っていた時と比べ明らかに動きがいい。ただ彼女の場合は感覚に頼るような戦い方であり、これではいずれ限界が来るだろう。矯正しないといけない部分ではあるのだが……加え、当然ならが隙も多く、まだまだ訓練が足らないのは間違いない。


 ――魔王との戦いで、ゲーム中仲間になったキャラは戦えば戦う程強くなった。カトラもまた同じように強くなれる素質はあると思うが……現段階ではまだまだの様子。この調子では、侯爵に挑む日が来るのは遠いかもしれない。とはいえ、


「戦力は多い方がいい……」


 そう呟きつつ彼女の放った剣を弾く。すぐさま懐へ滑り込み首筋に剣を突きつけた。

 カトラは動きが止まる。あっけなく、という言葉が似合う決着だった。


「……うん、わかった。ありがとう」


 礼を述べると、カトラは息をついた。戦いの内容に不満がある、といったところか。


「……本当に、私でいいんですか?」


 再度の問い掛け。それに俺は笑みを浮かべつつ返答。


「即戦力を求めているわけじゃないからな。それに、今打ち合ったことで君の能力とかもある程度理解した。伸びる素質はあるさ」

「素質……」


 カトラは自身の体に目を落とす。


「私が、ですか」

「もう少し自信を持ってもいいさ……個人的に女性であるというのも大きなポイントだな。護衛を頼みたかったんだが、相手が女性だから」

「そうですか……わかりました」


 完全に納得とはいかない様子だったが、彼女は了承した。


 とりあえず、皇帝候補と共に行動することはできそうだ……ユスカがいない以上、俺がアベルやカトラを導かなければならない。しっかりやらなければ。

 そして残る皇帝候補は一人だが……正直、その人物を探し出すのは至難。なぜならゲームの中でさえも偶然見つかった人物なのだから。


 ただ、その人物も仲間に入れたいところ――


「呼び方はルオンさん、でよろしいでしょうか」


 カトラが訊く。俺は思考を中断し即座に頷く。


「ああ、構わないよ……と、いくつか質問をしてもいいか?」

「はい」

「簡単なプロフィールくらいは知っておかないとね。出身地とかは?」


 ……彼女がユスカについて知っているかもしれないということで、世間話からその辺りのことを確認することにする。もっとも、兵士となったユスカのことを詳しく把握しているとは思えないので、望みは薄いかな――


「――しかし、こうして反乱組織に身を投じていいのか? さすがに敵が君の郷里まで調べてどうにかするとは思えないが……知り合いくらい帝国軍にいるんじゃないのか?」

「確かに、軍には幼馴染がいます」

「その人と戦うかもしれないぞ」


 その言葉に……カトラは、


 あまりにも予想外の言葉を発した。


「わかっています……けど、戦う決意はできています。勝てるかどうかはわからないけれど、必ずユスカを……騎士となり剣を振るう彼を、救ってみせる」


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