今後の指針
――とりあえず侯爵の一人を味方に引き入れることはできた。ここから今後どうするか作戦会議。俺やソフィアは「ネフメイザの親族であるソフィアが凶行を止めるべく動いている」という形。よって、例えば皇帝の資格云々というのはまだ話せない。
ボロを出さないようにしないと、怪しまれ色々と厄介なことになる。そういう気構えをしつつ、町に入り話し合いをすることになった……侯爵が襲い掛かろうとした時点で色々混乱もあったのだが、その辺りはアベルの部下がどうにかするらしい。
「名目上、俺達が倒したということでいいと?」
そしてとある宿の一室で会話を開始――俺が先ほどの戦いについて言及すると、アベルからそうした問いがやってきた。
「ああ。ソフィアの事情もあるから俺達は目立たないようにしたい」
「そういうことなら、わかった」
あっさりと了承。よし、とりあえずなんとかなりそうな雰囲気。しかし、
「いくつか質問してもいいか?」
エクゾンが問う。俺が「どうぞ」と応じると、
「まず……君のその能力だ」
これについては一応説明は用意してある。
「俺は大陸外の人間……シェルジア大陸の人間だ。それで、侯爵のような強大な相手とも戦ったことがある」
「魔王との戦いを経験した者か。なるほど、その強さも頷ける……が、現在この大陸は鎖国状態だったはずだ。なぜ入れた?」
「それについては秘密にさせてくれ」
エクゾンは肩をすくめる。まああれだけの魔法を見せたんだ。力技でどうとでもなる、という風に解釈するか。
「……それで、俺がこの大陸に来た理由は色々あるけど……この大陸で色々面倒事が生じているという話を聞きつけたという理由もある」
「首を突っ込みたがる性分なのか?」
「放置していたらシェルジア大陸の方にも危害を加えるんじゃないかと思ってね。あくまで推測の上の行動だったわけだが、それは見事に的中しているみたいだ」
こちらの言葉にエクゾンは再度肩をすくめた。
「物好きな性格だな」
「力を持っているが故に、色々と動きたがる人間だと思ってもらえればいいさ」
「そうか……その結果として彼女と関わったのか?」
ソフィアに目を向ける。俺は頷き、
「そういうことになるな……で、今後の事を話し合う上でアベルさんに色々と説明しなければならないが……」
「衝撃的な事実が告げられることになるな」
エクゾンはアベルへ言う……確かに。
俺はここからゆっくりと説明を始める。アベルにもわかるようにこの戦いの本当の首謀者が誰なのか……そして、ネフメイザがどういうことをするつもりなのかを語る――
一連の話をした後、最初に発言したのはエクゾン。
「我らの竜魔石を資料から解析、統合するということか。なるほど、面白い試みをする」
「もしそういう手を打ってきたとしたら、どう対応する?」
「私が所持するのは『竜生石』のみ。対策を立てられたとしたら、どうしようもないな。君の死ぬという言葉が納得できる」
と、ここでエクゾンは笑う。
「皇帝が所持する竜魔石は、私を含む四竜侯爵のそれと比較しても強い力を持つ。その力をつぶさに研究し、扱う事が出来た場合……私では対抗しようもないな。となるとやはり待つのは死、だな」
そう語るが、エクゾンの表情に悲壮感はない。
「うむ、状況は理解できた。それで、アベル君の方はどうだ?」
……彼からすれば衝撃的な事実ばっかりのはず。目を向けると、眉間にしわを寄せ考え込む彼の姿が。
「あのネフメイザ殿が、という時点で驚嘆すべきことなのに……その目的が竜魔石の力を奪うこと、か」
「このことについては、組織の面々にも話さないでくれ。彼の事を知り、また信頼する者も組織にはいるだろう?」
「ああ、そうだな」
沈鬱な面持ちのアベル。ここまでの表情を出す以上、ネフメイザの演技が相当なものであるとわかる。
「俺も侯爵と同様状況は理解したが……ここからどう動く?」
「まず、ここに迫る軍に対処しなければならない――」
「そこは心配するな」
エクゾンが頼もしい発言。
「まだ領内には到達していないからな。側近に連絡をして通さないよう対処する」
「……一応訊くが、部下は指示に従うのか? 皇帝に反逆するとなると――」
「そう心配するな」
笑みを浮かべるエクゾン。その顔には喜悦が混じっている。
「全員私が手塩にかけた部下だ。もしかすると調子に乗って軍に攻撃してしまうかもな」
……どんだけ血の気が多いんだよ。
そういえば四竜侯爵の中でエクゾンともう一人は竜魔石使用時はやたら好戦的で、皇帝の軍を平気で巻き添えにして攻撃を仕掛けるようなこともあったな。むしろエクゾンと異なるもう一人は、味方以外を滅することに興奮すら覚えるような危険人物……面倒だ。
まあいい。エクゾン自身厄介の種であることに変わりはないが、彼の存在がこの戦いの突破口になるのは間違いない。
「それで、質問二つ目だ。ソフィアさんとリチャル君は、戦えるのか? ソフィアさんは剣を持っているが」
「ああ。彼女が剣と魔法を組み合わせたもの。そしてリチャルが使い魔を使役する能力を持っている……俺が渡した道具などもあるから戦力としても十分だと思う」
こう言っておけば、今後ソフィアが戦う場合も説明がつくかな。
「そうか……ここで疑問なのだが、君は大陸外の人間である以上、竜魔石を含有した武器を持っていないのはまあ理解できる。しかし、ソフィアさんやリチャル君が持っていないのは何故だ?」
――ソフィアはネフメイザの親族。そしてリチャルは彼女の従者という形になっている。確かにこの説明だと竜魔石に関する武器を所持していないのは違和感がある。さて――
「それについては私からご説明します」
今度は唐突にソフィアが語り始めた……大丈夫なのか?
「まず、屋敷に存在していた武器を持ち出すことはできませんでした。下手に武器庫に手を出せば事が露見する恐れがあったので」
「ふむ、なるほど」
「そうした中で、まず武器の調達をと思ったわけですが……資金などを持ち出せなかったため、こうして竜魔石が含まれていない自分の剣を使うことに」
よどみなく説明するソフィア。語り口からエクゾンも納得した様子。
「その剣は、普段愛用していた剣なのか?」
「はい。私が持ち出せる唯一の武器でした」
「……君の存在がいなくなることによって、混乱をきたしている可能性は?」
「その辺りは問題ないように処置しています。ここは信用して頂ければ」
「わかった。ならば、まず武器を入手する必要があるな」
少しばかりものわかりが良すぎる気もしたのだが……時折俺達を見据える態度が見え隠れするので、何か考えがあるのだろうか?
まあ、味方についたとはいえ注意する必要はあるかな……そう思った時、エクゾンから提案が。
「私の屋敷がある町まで移動する必要があるな。そこであれば、十分な武器を用意することができるだろう」
そうきたか。さて、アベル達はどうするか――
「アベル君はどうする?」
「……どちらにせよ、動く必要はあるでしょう。あなたがここにやってきたように、居所は知られているようですから」
「そうだな。他に潜伏場所はあるのか?」
「一応は」
「ならば構成員はそちらへ移動させてもいい。どう動くかは君に任せよう。ただ、是非ともアベル君は屋敷に招待したいところだ」
どういう意図で言っているのか。この人の思惑を読むのは難しそうだと思いつつ……俺は一つ思う。
この町でやらなければならないことが一つ残っている。すなわち――組織の中に主人公ユスカがいるかどうかの確認だ。




