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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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終結と交渉

 攻撃が直撃した直後、轟音と閃光が広がり、エクゾンの呻き声――のようなものを俺は確かに耳にする。前方に竜の姿を確認することはできないが、アベルの剣が確実に効いているのは間違いなかった。


 いけるか――胸中で呟いた直後、光が収束し始める。竜からの反撃はない。やがて視界が開けてくると、


『……これは、見事という他ないな』


 エクゾンの姿。ただし、腹部に大きな穴が空いていた。

 さらに至る所に傷を負っている。満身創痍と言っても過言ではなく、戦闘を継続することは難しいように思える。


「さすがに、効いたようだな」


 警戒を解かないままアベルは言う。さすがに三度目の攻撃を用意しているはずはないが、それでも追撃を加えるべく魔力を集めている。

 ただ、俺から見ても限界間近なのは明白……もし再び戦闘になったら、不利になるのはアベルかもしれない。


 しかし、


『……ふ』


 僅かに言葉を零した瞬間、竜に変化が訪れる。突如全身が光に包まれ――それがどんどんと小さくなっていく。

 やがて光は人間の形となり……灰色の外套を着込んだ五十前後の男性に変化した。


 相応の白髪を持つ男性は、蓄えたひげが多少威厳を感じさせるが体格としてはどこか頼りない。目の前の人物こそ、エクゾンの本当の姿――


「限界だったというわけか」

「そちらも、似たようなものだろう?」


 不気味に笑いながらエクゾンは言う。


「私にもう力は残っていない。傷を癒すだけの力を使い、こうして人間に戻った」


 次いでアベルに視線を送る。


「覚悟はできている。迷う必要はないだろう?」


 死を覚悟した表情。アベルは応じるべく足を前に踏み出し――


「待ってくれ」


 俺は呼び止めた。


「侯爵と話をしたいんだが、いいか?」

「……あなたが?」

「ああ。逃げるような手段もなさそうだし、大丈夫だろ?」


 俺の言葉にアベルは目を細め思案する。本来なら部外者である俺の言葉に耳を傾ける必要はないのだが、助力に入ったことを考えれば――


「わかった」

「ありがとう……それと、できれば話の内容は組織の人に知られたくないんだけど」

「構わないが、俺は立ち会わせてもらうぞ」

「ああ、いいよ」


 述べた後、俺はエクゾンに指示を出し少しだけ移動。侯爵は戦いに負けたためか、潔く言葉に従う。

 そしてソフィアやリチャルが俺の隣に来た時、問い掛けた。


「一つ訊きたい。このまま彼らを潰し……その後、この大陸が平和になると思うのか?」

「さらなる戦乱が吹き荒れる可能性は考慮している。そもそも、大陸に暴虐を撒き散らしている皇帝が、侯爵である私を放置しておくとは思えん」

「……皇帝が、じゃないだろ?」


 俺の言葉にエクゾンの顔が僅かに歪む。


「どういうことだ?」

「とぼけなくてもいいさ。この戦いを裏で操る人物の存在は、侯爵もわかっているはずだ?」

「どういう、ことだ?」


 アベルが問う。彼は一連の戦いの首謀者がネフメイザであることは知らないので、反応は当然だ。

 だが俺は答えないままエクゾンに訊く。


「まあいいさ。ともかく俺が言いたいのは、このまま目的を成し遂げてもあんたに待っているのは死、ということさ」

「……ふむ」


 興味がある、とでもいう感じの表情。ちょっと思わせぶりな説明をしたことにより、話を聞こうという意思が垣間見える。


「俺達に負け、死を覚悟したみたいだが……首謀者の策略によってのたれ死にというのは、さすがに嫌なんじゃないか?」

「……奴は、私を容易くねじ伏せるだけの力を持っているのか?」


 首謀者の力についても興味がある様子。ここに来て、俺は体が少しばかり緊張し始める。こうやって話を始めたのは、侯爵を上手く言いくるめる方法を思いついたからなのだが――


「まあ、そういうことになる」

「なぜ、冒険者がそれを知っている?」


 ……俺は横にいるソフィアに視線を向ける。彼女は俺の視線に驚いた様子だったが……やがて、頷いた。

 リチャルもまた頷く。俺が何をするかわからないが、任せるという意思表示。


「俺は、彼女の依頼によって動いている人間だ」

「何?」


 ソフィアにもう一度視線。大丈夫だという頷き。


「……彼女は首謀者の親族――今回の事件の詳細を知る人間であり、またこの凶行を止めて欲しいと願い俺に仕事を依頼した。だからこそ、俺はこの戦いの裏を知っている」


 ――エクゾンがソフィアに視線を向ける。疑いの眼差しではなく、やはり純然たる興味だ。


「なるほど……かの者の親族の中にこういう人物がいたのか」

「もちろん秘密裏に行動している。露見したら彼女の両親などは誅殺されるだろう。だから、内密にしてほしい」


 そこまで語った俺は、エクゾンに呼び掛ける。


「こうやって話したのは、それなりに信用してもらいたかったからだ。さっきも言った通り、俺はこの戦いが最終的にどうなるか知っている。だから断言できるわけだ。このままいけば、あんたは惨めな死を迎えると」

「それだけの準備を、奴がしているというわけか」


 口元に手を当て何事か考え始めるエクゾン。


「ふむ、先ほどのような戦いならば死ぬのも道理かと思ったが、そのような結末は面白くないな」

「信じてもらえるのか?」

「……君の言ったことは証拠もない。しかし」


 と、エクゾンは意味深な笑みを浮かべた。


「君が真実を話しているかどうか……その見極めはできる」


 何か一物抱えていそうな雰囲気だが、ひとまず話は聞いてもらえるようだ。なら――


「もしそれを回避したければ、協力してもらえないか?」

「協力……君にか? それとも――」


 エクゾンはアベル達に視線を投げる。


「この組織に、か?」

「できれば両方であるとありがたいんだけど」

「彼らを担ぎ上げ、野望を止めるということか?」

「まあ、言い方は悪いがそういうことになるな」


 アベルに視線をやる。当然話についてこれない彼は呆然とするばかり。ここで彼に質問を一つ。


「最終的に皇帝を打倒したら、どうするつもりだ?」

「どうなるかはわからない。確実に言えることは、現状のまま放置することはできないということだけだ」


 ――皇帝になる資格を持っているという情報は、まだ入っていないようだ。


「わかった。侯爵、そういうわけだから協力してもらえないだろうか? メリットが少ないことで判断に困っているなら、報酬だって用意する」


「一介の冒険者が私を満足させるほどの報酬を渡せるのか?」

「色々とやり方はあるさ。例えば世にも珍しい竜魔石を献上する、とかさ」


 沈黙するエクゾン。どうやら考えている様子。

 しばし、静寂が訪れる。風が俺とエクゾンの間を駆け抜け、そして――


「……まあ、奴の策に乗っかり続けるのもあまり気持ちよくなかった。少々趣向を変えてもよさそうだな」

「そんな理由で協力していいのか?」

「奴がどのような手で私を殺しにくるかも気になるからな。それに私が死ねば領地がどうなるかも目に見えているし、単純に面白くない」


 ……先ほどまで町を標的にしようとしていた侯爵だが、人間に戻り攻撃的な性格もなくなり冷静になっている様子。竜魔石の力により破壊に意識が傾いたとでも言うべきか。


「報酬は……そうだな、君達と組めば今より少しばかり宮廷に話も通しやすくなりそうだ」

「……だ、そうだけど」


 アベルを見る。彼は大きく肩をすくめ、


「どちらにせよ、怨嗟を招いた皇帝は間違いなく退位するだろう。次の皇帝が誰になるかわからん以上、どこまで融通が利くかわからないぞ」

「その辺りは上手くやるさ」


 どうやら乗り気になってくれたらしい……と、ここで侯爵は俺に顔を向けた。


「色々と事情を知っているだろうから、まず話し合いをしたいところだな」

「ああ……ただ、一つ問題がある」

「ここに軍が押し寄せることだろう?」


 先んじて問うエクゾン。


「その辺りもきちんと対策はするさ」

「……再度確認したい。皇帝に反逆することになるが、いいのか?」

「回避できない死が待っているとしたら、抵抗せねばなるまい。こちらが敵に回ったとすれば、皇帝直轄の軍も動きを止めるだろう」


 確信するような物言いのエクゾン。次いで、俺へ視線を向けた。


「こちらも君に尋ねたいことはあるし、色々とそちらも意見はあるだろう。まずは話といこうじゃないか。場所は、そうだな……さすがに私も屋敷に帰るだけの体力はないな。町にでも入るとしよう」


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