向かうべき場所
「俺達は誰が首謀者で、どういう流れに戦いが進行するかわかっている。それを利用し、侯爵を味方につけるとかはできないのか?」
「俺達が保有する情報を用いて交渉するということか?」
「ああ。侯爵達が味方に回れば、犠牲者が少なくなると思わないか?」
まあ確かに……とはいえ、言うほど簡単じゃない、というか――
「一番難しそうな案だな」
「けど、ネフメイザとしても侯爵と反乱軍……この二つが合わされば、心底厄介だとは思わないか?」
……遺跡を調査していることからも、何かしら謀略が働いているのは間違いない。そうした中で交渉の余地があるのかわからないが――
「うーん、確かにそういった案もいいかな。ともかく、重要なのはこの物語を終わらせるタイミングか」
「ネフメイザを討つタイミング、ですか」
「ああ。現段階で倒したとしても国が無茶苦茶になるだけだ……そして、現皇帝は民の敵意を一身に受けているから、彼の帝位を維持するのも辛いだろうな」
――ゲームでは皇帝としての資格を持つ人物は竜魔石の力を最大限に引き出すことを多くの人から認知された。戦いが終わった後どういう政治を行うのか詳しく語られなかったのでわからないが、少なくとも現皇帝よりも状況はよくなっていることから、その事実を上手く用いて統治を行ったのかもしれない。
「今回は俺達の手でも敵は倒せるけど……相手が施政者だから厄介なことになっているんだろうな」
「シェルジア大陸の場合、魔王という共通の敵だったので結束できましたが、今回は利害関係が複雑で非常に面倒というわけですね」
ソフィアが嘆息しながら語る。まったくもってその通り。
「ふむ……私はリチャルさんの案がいいと思います。戦いの後のことを考えたら、皇帝と侯爵が互いに手を取り統治するのが最も角が立たない方法かと」
「そう上手くいくかどうか……ま、いいや。ひとまずその方針でいくとしよう」
――と、ここで俺は天使の遺跡などの件が引っ掛かった。
「あの騎士達についてだけど……」
「私にもわかりません。ただ、現状だと四竜侯爵が独自に調べ回っているといったところでしょうか……しかし、遺跡の魔力を奪うというのは――」
『ルオン殿は、この大陸の話とシェルジア大陸の話が関連していると言ったな?』
次にガルクが語りだした。
『その辺りの兼ね合いではないのか?』
「……どうなんだろうなあ。三部作だったけど、本編自体は特に関連があったわけじゃないからな。第一同時進行で大陸が離れ別々の相手と戦っているんだから、繋がらなくて当然かもしれないけど。というか――」
『というか?』
「天使の遺跡……この辺りのことで伏線が存在していたんだろうな。それが新作で明かされる予定だったと」
これについては調べるにしても一通り終わった後だろうなあ……気付けば新たな戦いに首を突っ込む形となり、元々やっていた調査は棚上げ。ま、仕方がないか。
「よし、それじゃあ明日以降、使い魔を使って状況の分析を始める。多少時間は掛かるかもしれないけど、辛抱してくれ」
「わかりました」
「その間に俺達も色々動くとするよ」
二人の返事を聞いて……ひとまず、作戦会議は終了した。
翌日から、俺は使い魔を四方に飛ばして情報を集める。敵側の居所は基本わかっているので、問題は主人公であるユスカ――というか、反乱組織の面々の居場所が最大の問題か。
現在の時点で四竜侯爵の誰もが敗れていないことを考えると、物語としては逸脱しているだろう。ならユスカが反乱組織にいるのかもわからない。もし彼がいなかった場合、薄情かもしれないが俺達だけで上手く軌道修正を図るしかないだろう。
ただそうなった場合――ユスカが仲間にするメインの三人のうち一人は彼の幼馴染の女性なので、彼がいない場合は彼女についてはあきらめるしかないかもしれない。彼女は元々各地を回る剣士で、探すのも苦労するし――
ひとまず使い魔を飛ばせるだけ飛ばして情報収集に勤しむ。それでおよそ三日程度だろうか……その間にソフィアとリチャルは出かけていたのだが――
「戻りました、ルオン様」
ソフィアが部屋に。俺は返事をした後彼女に尋ねる。
「何をしてきたんだ?」
「ギルドに登録を……リチャルさんに半ばお願いして、ですけど」
「とりあえず仕事をして、宿代くらいは稼いできたぞ」
リチャルが言う。それは色々とありがたい。
「というか、ソフィアさんの実力があれば何のことはない仕事だったな。一目置かれるような感じになっていた」
「……大丈夫だったのか? 例えば傭兵にちょっかいをかけられたりとか」
「特に問題はなかったよ。皇帝直轄領だからなのかわからないが、比較的好意的な感じだった」
ギルドにはその土地ごとの色が出るので、ここは何でも受け入れるという感じなのかもしれない。
「ところでルオンさん、そっちは?」
「ああ、まずユスカについては、現時点で郷里や城周辺で発見できていない」
――使い魔を用いても調査には限界がある。基本的に使い魔ができるのは遠方からの観察くらいなので、ユスカの存在を直接確認しないことには、俺も断定できない。
「それともう一つ……反乱組織のアジトがわかった。これについては、物語の中に存在していた場所と一致する」
「そちらの状況は?」
「かなり大変みたいだな」
ソフィアの問いに俺は歎息しつつ答えた。
「放っておいたら帝国側に押し潰されそうな状況だ。そっちにもユスカの姿は確認できていないが……さて、どうする?」
「重要なのは、皇帝になる資格を所持している三人ですね。彼らの誰かはいないのですか?」
ソフィアの問いに、俺は肩をすくめた。
「一人はユスカの幼馴染だから彼がいないことには判断できない。もう一人は反乱組織に所属する元騎士のリーダー……組織が存在する以上、元騎士はいると思う」
「もう一人は?」
「少女……ユスカがとある場所でイベントを起こさなければ出会えない人物だ」
彼女については、幼馴染などと比べても絶望的かもしれない……そんなことを思った時、帝国の首都に動きが。
「……軍が出立したな」
「討伐隊、でしょうか?」
「かもしれない……ふむ、反乱組織を押し潰すだけの戦力はあるな」
もしこれが反乱組織を狩る部隊だとしたら……いよいよ風前の灯か。
「今から反乱側につけば、十分間に合うな」
「ならば、向かいますか?」
「……確認だが、それでいいのか?」
問い掛けにソフィアとリチャルは一時沈黙し――最初に口を開いたのは、リチャル。
「ルオンさんが魔王との戦いで色々悩んでいたのがわかるよ。なんというか、答えが見えているようで見えていないんだな」
彼はそう口にして、ため息を漏らした。
「黒幕も知っているなら、色々と動ける……と言いたいところだが、国の内情まである程度把握している身であるため、下手に動くのも躊躇われる、と」
「それに、物語通りいかないことは魔王との戦いで実証済みですし、迷ってしまうのも無理はないですね」
続けてソフィアが声を発した。
「私の考えを言います。現状反乱組織が敗れることは、ネフメイザという黒幕を増長させるだけでしょう。その統治の果てにシェルジア大陸まで侵略の手を伸ばすとしたら……今の段階で止めなければ」
「――まあ、奴をのさばらせておくわけにはいかないというのは同意だ」
俺は息を吐きつつ二人へ述べる。
「わかった……俺達はまず反乱組織の援護へ向かう。そして」
一拍置き、俺は述べる。
「……俺達の力で、この大陸の戦いを終わらせる」




